261 / 423
【聖者の薔薇園-終幕】
296.凶暴な熊さん
しおりを挟む二年越しに邸へ戻ってきて数日が経った。
この数日は大忙し。何せ僕は知らない間に英雄になっていたので、僕の帰還が知れ渡った帝国内は大騒ぎだったのだ。新聞は連日見出しに僕の名を載せるし、会ったこともない貴族達からの贈り物で自室の前は床も見えないくらい埋まってしまっていた。
僕が神殿に悪魔の子として連行された時は、ほとんどの貴族家が口を閉ざし知らぬふりをしたみたいだけれど……いつになっても、掌返しであっさり覆すところは前世と変わらないらしい。
そんなこんなで、慌ただしい日々を過ごして数日経ったある日。特にすることがなく一人でぐでーんと休んでいると、ふと庭園から騒がしい声が聞こえて起き上がった。
「なんだろう……?」
よろよろと窓際に歩き、ちょっぴりだけ窓を開いて外を覗いた。
初日以来、妥協した兄様達が行き過ぎた軟禁を解いてくれたので、護衛に伝えさえすれば庭園にも出られるようになった。なので当然窓も開けるし、扉にも鍵は掛かっていない。
けれどあまり目立つのもアレなのでそーっと外の様子を窺う。きょろきょろと見渡し騒ぎの中心を探していると、不意に聞き慣れた声が微かに聞こえてきた。ここまで聞こえるくらいだから、かなり大声で何かを喋っているようだ。
「いつまで隠れてるつもりだみゃ!フェリちゃんはそんなことで幻滅なんてする子じゃないみゃ!」
「そうだぴょん。フェリくんはどんな姿でも受け入れてくれるはずぴょん。とっても優しい子なんだから当然ぴょん」
状況はよく分からないけれど、なんだか嬉しいことを言ってくれているウサくんとミアの声。
話の内容的にもう一人近くに誰かがいそうだけれど……。気になってもう一度きょろきょろ見渡し、やがて二人の姿を視認することが出来た。
庭園の隅っこ。何か用事でもない限り滅多に行かないその場所に、ぽつんともふもふの姿が二つ見えた。
小さなもふもふがぴょこぴょこ二つ動いて……って、あれ?
「おっきいのも、いる……?」
よーく目を凝らしてみると、木の影になってよく見えないけれどもう一体もふもふの何かがいるのが見えた。
ウサくんやミアより遥かに大きなもふもふ。茶色の毛並みに丸い耳、大きな体のあれはまさか。
「っ、大変……!」
その姿が何なのか頭が理解した途端、今度はミアとウサくんへの心配と警鐘が頭に鳴り響いた。二人は気付いていないのかな。あんなに近くにあれが、あんなに危険な動物がいるというのに。
もふもふ達をぱくっと丸呑みしてしまいそうな、凶暴な熊が二人の目の前に……!
慌てて窓枠から下りて入り口に走り、バンッ!と勢いよく扉を開く。部屋の前に待機していた二人の騎士に、あわあわと混乱して冷や汗を掻きながらとにかく叫んだ。
「庭園にいきます!」
報告はした。兄様達の言いつけ通りきちんと報告したから良し!と判断してちょこまか廊下を走り出す。背後から何やら引き留めるような声が聞こえたけれど、構わずあわわっと足を動かした。
すれ違う使用人たちに挨拶をしながら走り、階段まで辿り着いたところではぁはぁと立ち止まる。手すりにしがみついて肩を上下させていると、やがて追い付いた二人の騎士にがっちり包囲されてしまった。
完全に逃亡の末の確保みたいな状況になっている。絵面だけ見れば確実に僕が悪いことをした人みたいだ。
違うんです。無実なんです。逃げようなんて思っていません。そんな犯人のセリフが脳内に溢れ出した頃、困り顔の騎士が話しかけてきた。
「フェリアル様……庭園には何をしに?先程までは気持ちよさそうに眠っていたはずですが……」
「う、うさくんとミアが一大事なの!助けないと食べられちゃうの!」
息切れしながら何とか説明する。あむあむとジェスチャーを交えて説明すると、何故か騎士二人はぐはっと呻いて膝をついてしまった。なにゆえ。
そういえばここの騎士達はみんな時折発作を起こす病弱な人が多いんだった、と思い出しあわあわとしゃがみこむ。二人の肩やら頭やらをぽんぽんして痛いの痛いのとんでけーをやると、なんと症状は更に悪化してしまった。
グハァッ!と倒れ込む二人の騎士。どうして。この状況じゃ完全に僕が犯人になってしまう。
「フェリアル様?」
ちーんとしている二人を突っついていると、不意に背後から安心と安全の優しい声が。
反射的にぱっと振り返ると、そこには案の定カップの乗ったトレーを片手に持ったシモンがいた。シモンはきょとんとした顔で歩いてくると、軽く事件現場を見渡して数秒沈黙する。
やがて納得したように頷くと、トレーを近くの丸テーブルに置いて歩み寄ってきた。
「何となく状況は理解しました。彼らはフェリアル様のきゃわわ攻撃に耐性がありませんからね。突然大柄な男達が倒れてびっくりしたでしょう」
よしよし、と頭をぽんぽん撫でられる。
うるっと瞳が潤み、シモンの腰にぎゅっと抱き着いてめそめそ弱音を吐いてしまった。そうなの、びっくりしたんだよシモン、きてくれてありがとシモン。
「どこか行きたい場所でもありましたか?俺が何処へでも連れて行ってあげますから、もう泣かないでください」
ぐすぐすと零れていた涙を拭ってシモンを見上げる。冷静になった頭がまたまた混乱しだして、そうだこんなことをしている場合じゃない!と焦燥が湧いた。
慌ててシモンに窓から見えた光景を説明し、早く助けに向かわなければウサくんたちが危ないということを簡潔に伝える。するとシモンは意外にもぱちくりと瞬き、突然おかしそうに吹き出した。
「な、なにがおかしいの……ウサくんとミアがピンチなのに……」
シモンひどい。シモンはそんな酷い人じゃないはずなのに……。
うるうる。悲しくなってまたもや踵を返して走り出すと、背後からシモンの慌てたような気配がすぐに迫ってきてひょいっと捕獲された。逃亡失敗、むねん……。
「ごめんなさいフェリアル様!違うんです!俺の話を聞いてくれませんか……?」
「……うん。きく」
慌てて謝るシモンの表情には嘘は見られない。まるで僕に嫌われることを恐れるみたいな本気の表情だ。
そもそもシモンが酷い人だなんて本心で思うはずがないので、もちろんすぐに冷えた頭でこくりと頷く。きちんとシモンの話を聞かないと。
しゅんと眉を下げて話を待つ。あのですね、と子供を諭すような穏やかな声音でシモンが語ったのは、全く予想外の言葉だった。
「その大きな熊はですね、クマくんなんです。元ちっちゃいぬいぐるみの」
「……む?」
447
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。