余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

297.くまくまじぇっとこーすたー

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 そろりそろり。
 音も気配も押し殺したシモンを背後に、四つん這いでそーっともふもふの背後に回る。

 ウサくんとミアに相変わらず励まされている丸耳の大きなもふもふが僕に気が付く様子はない。大きな体を小さく丸めて、うおーんうおーんとめそめそ泣いているせいだろうか。
 ちらりとシモンの方を振り向いて目線だけで大丈夫かと問うと、すぐにニッコリ顔のグーサインが返ってきてほっとした。全然大丈夫らしい、よし。

 草むらからそっと顔を出すと、こっち側を正面にしているウサくんとミアがぎょっと毛を逆立てて硬直した。
 それにシーッと人差し指を立て、その指でクマくんを指さす。すると二人は全てを察したのか、おけおけと頷いて毛をふわさぁっと元に戻した。どうやら二人とも察してくれたらしい。ありがたや。


「うっ、うぅっ、下手な励ましはやめろクマ!ぜったいぜったい嫌われるに決まってるクマ!今のクマぜんっぜん可愛くねーもんクマ!」


 あびゃーっ!!と号泣するクマくんの姿に胸がきゅっと痛む。
 僕は確かに可愛いものが好きだけれど、だからといって可愛くないものが嫌いというわけじゃない。
 僕がクマくんやウサくん、ミアを好きだと思うのは可愛いからでももふもふだからでもなくて、ただ彼らだからという理由ただ一つだけだ。本当の好きには理由なんてないのである。

 それを真正面から伝えようにも、きっとクマくんはぴゅーんと逃げ去ってしまうだろう。今のかっこいい体なら足も速いだろうし、そうなると僕は追い付けない。
 だから、まずは捕らえる。クマくんを捕らえて無理やり会話の方向にもっていくのだ。

 そうと決まれば、と邸を飛び出したのがつい数分前のこと。クマくんの背後に回ることは出来たので、あとはバッ!と踏み出してクマくんを確保するだけ。
 シモンに最後の合図をして、踏み出す体勢を完璧に構えた。

 さん、にー、いち……。


「ぴゃっ!!」


 やぁっ!とかとぉっ!とかかっこいい声を発して飛び出すつもりが、なんだかいつも通りのぱっとしないカッコ悪い声を発してしまった。
 草むらからがおーと飛び出し、ビクゥッ!と大きく体を揺らしたクマくんの背中に飛び乗る。もふっとした毛並みにしがみつき「とったどー!」と作戦成功を叫ぼうとした瞬間、予想外が起こってしまった。


「むっ、むむっ!?」

「おばけクマ!!こえークマこえークマッ!!」


 がくがくと震えるクマくんが大きく吠えて走り出す。
 背後から「フェリアル様!」やら「フェリくん!」やら慌てたような声が聞こえたけれど、この状況ではどうしようもないのであわわっともふもふにしがみつくことしか出来ない。

 シモンの時とはまた違ったスリルしかないジェットコースター。ぶんぶんっと揺れながらびゅーんっと物凄い速さで走るもふもふの上で、毛並みに縋りつきつつ出来る限り姿勢を低くした。
 おばけクマーッ!と号泣しながら走るクマくんをどーどーと宥める。少し速度が落ちついてきた頃、頭の方にずり上がってもふっと抱き着いた。
 丸耳ににゅーんと背を伸ばして口を寄せ、風でぶえっとなりがらも何とか声を上げる。


「くっ、くまっ、くまくん!おちお、落ち着いてっ!ぶえっ、あばばっ」


 風がやべーでござる……。

 びゅーんと襲ってくる風とそれに付随する葉っぱやら土やら。それに屈しそうになりつつも諦めずどーどー言い続けていると、やがてクマくんが突然ハッとしたように急ブレーキをかけた。


「ぬっ!?その声……ご主人様クマ!?」


 ききーっとようやく止まり、クマくんが驚いた様子で振り返る。
 それと同時にばたんと地面に落っこちてしまい、またもやぎょっとしたようなクマくんがあわあわと周囲を歩き回った。


「フェリアル様!!」

「フェリくん!」

「フェリちゃん!」


 聞き慣れた三人の声が響く。
 三人ともう一体は、ぐるぐる目ん玉を回す僕を見下ろしてあわあわっと慌て出した。
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