余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

298.もふもふたちと仲直り

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「ほんとのほんとに、クマくん?」

「クマ……ほんとのほんとに、クマくんだクマ……」


 ぐるぐるから抜け出して起き上がった後。しょぼんと座り込む大柄な熊さんの前にしゃがみこみ、未だ実感が追い付かない中とりあえず聞いてみた。
 すると返ってきたのは案の定の答え。丸い耳をぺたりと折った熊さんは、こくりこくりと頷いて顔を隠すように項垂れてしまった。そういえば、僕に姿を見られるのを恐れていたんだっけ。

 しょぼぼんと落ち込む熊さん。ぐすっと嗚咽が聞こえたかと思うと、熊さんは大きな体をぷるぷる震わせて泣きべそをかき始めた。


「クマ可愛くないクマ……可愛くないから、ご主人様もクマのこときっと嫌うクマ……」


 しくしく、ぐすぐす。大きな体になっても臆病で幼い性格は変わらないのか、蹲って小声で泣く姿に以前の小さなクマくんの面影が重なって見えた。
 外側が変わったって、内側が変わるわけじゃないのだ。クマくんはずっとクマくんのまま。ただ見目が変化したというだけのこと。
 だから、クマくんが怯える必要なんて何一つない。


「クマくん。くまくん」


 もふもふのお腹にもぐりこみ、その中に埋まるようにむぎゅっと抱き着く。うりうりと頬擦りして、びっくり硬直しているクマくんにふにゃりと微笑んだ。


「クマくんだいすき。クマくん、とってもカッコよくなった」


 クマくんが息を呑む。以前と比べてとても強面になった顔をもふもふと撫でて、またむぎゅーと強く抱き着いた。
 大きな腕が遠慮がちに背に回されると、もふもふの毛並みに隠れて外側から見えないくらいの抱擁に囲まれる。一応外だというのに、暖炉が焚かれた室内みたいに暖かくなった。


「可愛いクマくんも、かっこいいクマくんも。僕はどっちも大好きだよ」


 クマくんの瞳が潤む。ぬいぐるみだった頃と同じで生きた体ではないからか涙は流れないみたいだけれど、それでもクマくんはやっぱり人間よりも分かり易い感情豊かな子のままだった。
 しくしくと抱き着いてくる体をよしよし撫でる。もふもふの隙間から見えたウサくんとミアくん、そしてシモンの表情はほっとしたように緩んでいた。


「ところで、どうしてクマくんは生きてるの?僕、クマくんがぼわわってなったとこ見たのに……」


 んしょんしょともふもふから抜け出しつつ尋ねる。するとウサくんがとたたっと駆け寄ってきて、僕の膝によっこらせと登りながら答えた。


「生きてるのは器じゃなくて、魂だからだぴょん。ぬいぐるみはぬいぐるみのままで、その中に魂がお邪魔してただけなんだぴょん」


 ふむ……何となく分かった気がする。
 僕はずっと漠然とした言葉でもふもふ達が生きていると言っていたけれど、それを細かく説明すると漠然とした理解とは少し違う解釈になるのか。
 例えば、僕にフェリアルと成瀬という二つの体があるのと同じ。体はいくつもあるけれど、それを動かす魂は一つだけ。クマくんの場合、ぬいぐるみの皮がなくなっても、疑似魂である魔石が無事なら大丈夫、ということなのだろう。

 膝に乗り上げるウサくんをむぎゅっと抱き締め、そうなのかーと説明に対してのお礼を言う。長い耳が照れくさそうに垂れ下がったのを見てふにゃりと頬が緩んだ。


「そっか。今度改めて、レンにもお礼を伝えにいかないと」


 もふもふを撫でながら考える。
 本体が突然燃やされても無事だった魔石。そんな強い魔石を作ってくれたレンに、改めてきちんと感謝を伝えにいこう。クマくんはレアにもまた会いたいだろうし。それとも、僕がいない二年の間に結構通っているのかな。その辺りも後で確かめないと。

 魔塔にはもう随分行っていなかったし、改めてきちんと彼らに会いにいってみよう。
 ルルはリベラ様の憑依でたくさんリスクを負っただろうし、魔塔主さまにもお礼を言わないと。レンにも魔石の件のお礼を伝えて……。

 こうして考えると、会いたい人はまだまだたくさん残っている。帰還早々ぐーたらしている場合じゃなかった。
 魔塔の皆もそうだし、大公家にも一度出向きたい。アディくんにも……もう何年も会っていないから忘れられているかもしれないけれど、それでも一度会ってみたい。


「……よしっ」


 そうと決まれば。
 一度機会を逃すとぐーたらしてしまうから、決めた今のうちに始めないと。ウサくんをクマくんのもふもふの中に手渡して立ち上がり、シモンをちょいちょいっと手招く。
 さささっと近寄って膝をついたシモンに、あのねとお願いしてみた。


「魔塔にね、お手紙を送ってほしいの。会える日ありますかって」

「了解です。フェリアル様狂信者の魔塔なら即日許可下りそうですけど、一応手紙で伝えときますね」


 そう言ってシモンがニコッと頷く。確かにそれもそうかもしれない……なんて当人の立場で思ってしまったけれど、それでも一度手紙で聞くのは礼儀だ。そこを欠いちゃいけない、うむ。


「えぇっと、あとは……」


 一番大事なこと、後回しにしてた。
 慌てて視線を移し、ウサくんともふもふ遊んでいるクマくんの元へ近寄る。とんとん、と突っつくとクマくんがきょとんと振り返った。


「クマくん。今日からは、きちんと僕のお部屋で寝るんだよ。ウサくんも一緒に、わかった?」


 クマくん……とウサくんも一緒にプチお説教。
 僕のお部屋は必然的に二人の部屋にもなる。ずっとウサくんとクマくんとは一緒の部屋で眠っていたけれど、最近はどっちも眠る時すら帰ってこないから悲しかった。
 きっとクマくんは僕を避ける行動の延長線上で、ウサくんはそんなクマくんを心配してずっと傍にいてあげていたのだろう。それが分かるから、あまり強くは叱れないけれど。


「あったかいお部屋で寝ないとだめ。ふたりとも、わかった?」


 びっくりしたような二人は、やがてそわそわと照れくさそうな、嬉しそうな表情で頷いた。

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