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【聖者の薔薇園-終幕】
299.新しい魔塔主さま
しおりを挟むシモンが呟いた通り、魔塔への訪問は手紙があちらに届いた即日了承された。むしろ来るのが遅いだとか言う不満の一言まで添えられていたほどだ。
魔塔へは僕とシモン、クマくんとウサくんが行くことに。兄様達も僕についていきたいと駄々を捏ねていたけれど、二人には仕事が沢山あるので同行は叶わなかった。
そういう訳で四人で魔塔に出向いた訳だけれど、なんだか魔塔の雰囲気が二年前とは大きく変わった気がする。
あれだけどんよりしていた周囲の空気は明るくなって、魔術師たちも心なしか生き生きとしているような。そういえば魔塔は鎖国状態を解いて皇族と……というより皇太子のレオと交流を始めたから、閉じ籠った陰鬱な印象が晴れたのかもしれない。
そして何より、一番変わったことが今目の前にある。
「やぁフェリ。会うのは久々だね」
にこやかに微笑むルル。深い海の色のペリースを羽織った姿からは、以前にも増して一線を画す強力な魔術師の風格を感じた。
加えて最も気になるのは、そんなルルを周囲の魔術師たちが魔塔主さまと呼んでいること。
「ルル……魔塔主さま?」
「あぁ、やっぱり知らなかったんだ。例の事件で神の憑依まで成功させちゃったからさ、実質神じゃんってことで魔塔主の座を継いだんだよね」
何てことなさそうに語る姿に唖然とする。それってよく考えたらとっても凄いことなんじゃ……。
ルル曰く、どうやら二年前の事件で神の憑依を成功させたことでルルは大きな注目を浴びたらしい。魔塔に対する知識に疎い帝国民たちは口々にルルを崇め、世間的な地位も一気に向上した。
加えて魔塔がこれまでの方針と変わり表舞台に立つことになったと同時に、当然ルルも以前よりもっと表に姿を見せる機会が増えるわけで。
その甘いマスク、端正な容姿を見た人々が更にルルを崇め、上昇する人気は留まることを知らず……という経緯で自然に魔塔主の座を継ぐことが決まったらしい。
「元々師匠は年も年だし、そろそろ魔塔を出て旅でもしたいって仰っていたからね。僕も魔塔主になって更に魔法研究の幅を広げたかったし、お互い丁度良かったのさ」
優雅に紅茶を飲む姿にふむふむと頷く。
きっと研究については後付けで、ルルは先代魔塔主の意思を一番に尊重したかったのだろう。少し染まった頬は照れくさそうで、本心が上手く隠せていない。それだけ先代魔塔主を想うルルの気持ちが強い証拠だ。
一度目、ルルは先代魔塔主の死亡と同時に主の座を継いだ。その時は魔塔は今より更に鎖国状態を強め、明るい印象とは真逆だったから……この結末を見て安心した。
先代魔塔主は生きている。ルルはやむを得ない状態ではなく納得のいく継承をして、魔塔自体も以前よりかなり明るくなった。これ以上ない素敵な結末と言えるだろう。
「何にせよ、魔塔はこれから開かれたものになる。帝国との関わりも強くなるだろうけれど……これまでの核の部分を変えるつもりはない」
「かく?」
「貴方だよフェリ。魔塔の最優先はリベラ様。そしてリベラ様唯一の愛し子である貴方は、変わらず魔塔にとっての最優先であり、リベラ様代理の信仰対象だ」
もぐもぐと食べていたクッキーがぽろりと落っこちる。それをナイスキャッチしたシモンがさらりと食べて処理したのを横目に、スンとしているルルにあわあわ声を上げた。
「ぼ、ぼくが信仰、対象……?」
「そうだよ。貴方が信仰対象。今や帝国の信仰対象はリベラ様に変わったから、魔塔は以前で言う神殿の地位なのさ。何せ魔塔は前世からリベラ様を崇めていたのだからね」
「つ、つまり……」
「貴方は帝国の英雄であると同時に、民から信仰される神でもある。言ってしまえば聖者より上の立場だ。まぁ当然だね」
何故かとっても自慢気で満足気なルル。僕の食べかけクッキーを食べていたシモンも当然とばかりに頷いていてちょっぴりついていけない。
「フェリアル様は生まれながらの天使様なので当然ですね。所詮紛い物に過ぎない聖者とは愛らしさも強さも比べ物になりません」
「その通り。リベラ様の愛し子なのだからこの世で最も愛らしく強くなくては困る」
うむうむと頷く二人。なんだか恥ずかしくなったので、無心でクッキーをもぐもぐ口に放り込んだ。
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