余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

318.一難去って

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 朝ごはん兼お昼ご飯をもぐもぐ食べ終えた後。
 何故かディラン兄様に休養を宣言された僕は、既視感のある軟禁……こほんこほん、自室に半ば閉じ込められてしまった。
 そういえばご飯をもぐもぐしている辺りから、使用人たちの同情やら心配やらの視線と「心の傷が……」うんたらかんたらと邸の空気が何だかおかしかった気もする。ディラン兄様もいつも優しいけれど、今日は一段と過保護というか甘やかしが強かったし。

 思い当たることと言えば、やっぱり昨日の恥ずかしいアレくらいだろうか。思い出してハッとした。
 そうだ、まだ陛下に謝罪をしていなかった。よりにもよって陛下への謁見でばたっと倒れてしまうなんて。突然具合が悪くなった不可抗力とはいえ、完全に不敬行為だ。
 レオにもごめんなさいをしないといけないし、途中で巻き込んでしまったライネスにも謝罪のお手紙を送らないと。それにしても、例の体ぽかぽかは一体何だったのだろうか。

 分からないのに考えたって仕方ない。とにかく行動あるのみだ。ディラン兄様には大人しく休んでいるようにと言われたけれど、手紙くらいなら大丈夫だろう。
 流石に以前みたいに窓から脱出するようなことはしない。これ以上心配をかけるのも忍びないから。


「シモン、シモン」


 いつもの癖で足元の影ぺしぺし。そういえば影ぺしぺしは神界から帰ってきて以来初めてだ、と思いながらじーっと待つけれど、一向にシモンが現れる気配はない。
 あれれ?と首を傾げつつもう一度ぺしぺし。それでも現れないことにはて?と瞬いて、ふと気が付いた。
 シモンとの繋がりを感じない。そこら中の影からシモンの匂いは感じるけれど、それはシモンが影の使役者だからであって特別な理由は無い。僕の影から、以前ならとっても強いシモンの気配を感じたはずなのに。

 何かがおかしい。しゃがみこんだ姿勢のまま固まっていると、不意に部屋の扉がゆっくりと開かれた。入って来たのはおっきなもふもふ。


「クマくん!」


 現れたおっきなもふもふにおっきな安堵を抱いてぱたぱた駆け寄る。外で遊びでもしてきたのか、ふすーっと満足気な表情をしているクマくんに乗り上げるようにして勢いよく抱き着いた。


「クマッ!?ご主人様どうしたクマ!敵襲クマ!?」


 ガルルルル……ッと低い唸り声を発して周囲を見渡すクマくん。
 ちっちゃな頃より心なしか頼もしくなったような……気のせいだろうか。気のせいかも、見た目はおっきくて怖い熊さんだけれど、中身は変わらずクマくんなわけだし。

 うむうむと勝手に納得してクマくんの上からのそりと下りる。もふもふをよしよしと撫でて、敷地内をよく探検しているクマくんならシモンの居場所を知っているかもと思い尋ねてみた。


「クマくん。シモン知らない?シモンにお願いがあるの」

「先輩ならさっき厨房でチーズケーキ作ってたクマ。ご主人様のおやつだから最高級のやつ作るって、さっき山に新鮮な果実を収穫に行ったクマ」

「……さっき?自分で?」

「さっき、自分で行ったクマ。一番いい果実を自分で見極めるって、張り切ってたクマ」


 なんと……ということはしばらくシモンには会えないということか。
 美味しいケーキを作ってくれるのはとっても嬉しいけれど、僕は何よりシモンに会えることが一番嬉しいのに。チーズケーキだって、どれだけ美味しくても作ってくれたシモンが傍にいないと、きっときちんと楽しめない。


「ぬーん……そっか。それじゃあグリードは?グリードもいない?」

「グリード?あのうるさい犬のことなら、ちょうど庭園で修行中クマ。たぶん窓から見えるクマ」


 クマくんの言葉を聞いてすぐに窓までとたとた。ぱっと窓を開けてふむふむと庭園を見下ろすと、少し開けたところで何やら黒い箱型の何かを操るグリードが見えた。
 あれは確か、いつだったか危険だから触っちゃだめだよと釘を刺されたやつだ。修行ってあれのことか、と思いながらおーいとグリードを呼んでみる。


「グリード!ぐりー、どー!」

「はっ!姫!?」


 やまびこみたいにやっほー感覚で呼んでみると、グリードはすぐに気が付いてばっと振り返った。僕の姿を視認するなり人間離れした身体能力でぴょんぴょん跳ねて一瞬で窓枠まで。すごい。
 シモンも同じような身体能力だけれど、グリードみたいに本当に体だけで動くわけじゃない。あくまでうにくんを使って動く。グリードに関しては本当に獣みたいな動き方だ。


「お呼びっすか姫!」

「う、うむ。とりあえず、中へおはいり」


 おばあちゃんみたいな返事をしつつグリードを中へ誘導。
 かくかくしかじかと数人に手紙を届けたい旨を伝えると、グリードはどどやぁと胸を叩いて頷いた。


「そういうことならお任せください!俺の魔法なら手紙を届けるくらいちょちょいのちょいです!」

「ほんとっ?ありがとグリード!」


 むぎゅっと抱き着いてお礼を言うと、グリードは何やら鼻血をぶわっと出してばたんきゅーしてしまった。
 それを横目にお手紙かきかき。ライネスの分とレオの分、それから陛下への謝罪の手紙をぱぱっと書いてグリードをつんつん。はっと起き上がったグリードに手紙をはいっと手渡した。


「お手紙、消えない?」


 そういえば、とふと問い掛けた。
 その箱の中にものを入れると徐々に小さくなり、やがて消滅してしまうはず。箱同士で転移も可能と言っていたけれど、器用に切り替えが出来るということだろうか。
 きょとんと首を傾げる僕に、グリードはえっへんと胸を張って答えた。


「長年の修行の末、その辺の切り替えはばっちり出来るようになったんです!なので心配ご無用っすよ!」


 どどどやぁっと黒い箱を発現させるグリード。これだけ自信満々ならきっと大丈夫か、と頷いたその時。
 背後にいたクマくんが、ふわぁっと欠伸をして僕に倒れ込んできた。


「クマ……いっぱい遊んで疲れたクマ……」


 ばたん、と倒れ込むおっきくて重たい体。当然自分の体を支え切ることは出来ず、スローモーションの視界の中僕も前のめりに倒れてしまった。
 グリードが浮かばせた、大きな黒い箱の中へ。



「あっ」

「あっ」



 ぽすっと箱に頭から突っ込み、その瞬間ものすごい勢いで全身が箱の中へ引っ張られる。
 もしもブラックホールというものが存在するならこんな感じなんだろうか、なんて呑気に考えた瞬間、意識がぱたりと途絶えた。

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