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フェリアル・エーデルス
337.はぷにんぐ
しおりを挟む結局、手袋とマフラーと帽子をそれぞれ十個ずつ購入したところでようやくお店を出ることが出来た。
コートは冬が本格的に近付いてから!という僕の説得で渋々その通りに。成長期だからね、冬になる前にうんとおっきくなるかもしれないからね。うんうん。
店員さんたちとシモンの満足気な笑顔とは裏腹に、僕の顔はげっそり疲れ切った感じの表情。お買い物は楽しいけれど、流石に何十個も買うとなると疲労の方が勝ってしまう。
とは言え目的のもこもこ手袋はゲットできた。お店を出てすぐにわくわくしながら手袋をしてみると、冷たい風が完全に防がれてぽかぽかに。うーむよきよき。
もこもこ手袋のおかげか疲労は意外とすぐに回復して、るんるん気分で街を散策。
お祭り直前でうきうきムードの街をシモンを連れて歩いていると、ふと正面から如何にも柄の悪そうな男の人たちが進んできた。それぞれ細い片手剣や大きな両手剣を持っているから、冒険者か何かだろうか。
何だか嫌な空気を感じながらも気にせず進むと、不意に集団の一人と視線が合った。
「……!」
気の所為だろうか。目が合った男性は僕を見ると一瞬目を見開いて、次の瞬間獲物を見つけたように瞳を輝かせて口角を上げたような気がした。
やっぱり踵を返して道を変えるべきだろうか……そう思った時にはもう遅かった。
剣を持った集団が賑やかに笑い合いながら横を通り過ぎた……と同時に、突然大きくよろめいた男性の一人が僕の方に倒れ込んできたのだ。
「うおッと!」
わざとらしい声を上げながらよろめいたのは、ついさっき目が合ったあの男性。
突然の出来事にビクッと硬直するしか出来ない。そんな僕の正面にスッと移動したシモンが、無言で男性を受け止めて直ぐにグッと押しのけた。
「っ、シモン……!」
シモンも彼から感じる嫌な予感に気が付いていたのだろうか。僕の方に男性が倒れ込んだ時も驚いた様子ひとつ見せず、淡々と受け止めたように見えたけれど。
何はともあれ、とにかく今はシモンの心配が最優先だ。
まさか直前で邪魔が入るとは思わなかったのか、男性は受け身を取ることも出来ず勢いよくシモンに倒れ込んだ。そのせいでドンッと鈍い音が鳴ったけれど、シモンは突然ぶつかられて大丈夫だろうか。
慌てて駆け寄りシモンの手をそっと掴む。眉を下げて上目で問うと、シモンはにこやかに頷いた。
「シモン、大丈夫……?」
「大丈夫ですよフェリアル様。そんなことより、フェリアル様は大丈夫ですか?お怪我はしていませんか?」
そんなことって……とは思っけれど口を噤む。シモンはきっと僕が頷くまで僕の無事を確認し続けるだろうから。
そうだと分かっているから、少し不満げな顔をしながらもこくりと頷く。よかったと呟きほっとしたように息を吐いたシモンを見て、なんだか胸がきゅっとなった。
「おいおい、お貴族様は謝罪も出来ねぇってか!?」
早く行こう、と言おうとした時にふと響いた怒声。
あまりに突然その大声が響いたものだからびっくりして、思わずビクッと肩を揺らしてシモンに抱き着く。シモンはさっと僕を背後に隠して、叫び声を上げた男性にスッと視線を向けた。
案の定、またもや騒ぎを起こしたのは例の目が合った男性。シモンに押しのけられたことが気に入らないのか、瞳が血走ってとっても怒っている様子だ。
謝罪……謝罪?ぶつかってきたのは彼の方だし、そもそも明らかにわざと倒れ込んできたはず。どうして男性がこんなに怒っているのかと、困惑しながらシモンの服をきゅっと握る。
「……謝罪とは?貴方が勝手に倒れただけでしょう。危うく此方の主に怪我を負わせるところでもあった。謝罪をしろと言うのならそれは此方のセリフです」
僕の心中を代弁するように冷静に語るシモン。それに小さく頷きながら様子を窺っていると、男性は怒りで顔を真っ赤にしながら唾を飛ばすように叫んだ。
「あぁ!?そっちのガキがクソチビの所為で見えなかったんだよ!避けてやろうとして倒れたんだっつの!そのチビの所為だろうが!」
「むっ!ちびじゃないもん!」
聞き捨てならない言葉が聞こえて思わずぷんすか前に出る。
のしのしと地団駄を踏んでぷくっと頬を膨らませると、まさか僕が言い返してくると思わなかったのか男性がびっくりした様子で呆然と黙り込んだ。
びっくりしただろうそうだろう。僕はちびという言葉には敏感なのだ。なぜならちびじゃないから。おっきなお兄さんだから。ぷんすかぷんすか。
一度言い返すと何だか勇気が湧いて、さっきはびくびくして言えなかったことも一緒に口に出てしまう。くわっと叫んだ言葉にその場に居る全員が息を呑んだ。
「シモンに謝って!ぶつかったのはお兄さんでしょ!シモンにごめんなさいして!」
頬を紅潮させて「フェリアル様……!」と感極まった様子で呟くシモンはスルーだ。今はちょっぴり恥ずかしいからシモンの方を見れない。
ぷくぷくしながら男性の謝罪を待つと、やがて返ってきたのはさっきよりも更に真っ赤っかになった怒りの形相。ぷっちんさせてしまった、そう気付いた時には遅かった。
「ッこのチビ……ッ!!」
だからちびじゃないもん、と反論する間は無かった。
男性が思い切り振り上げた拳がスローモーションで視界に映った瞬間、シモンが表情を強張らせて前に出た。
シモンが殴られてしまう。それを察して慌てて止めようと飛び出した瞬間、ふと視界から男性が消えた。
文字通り、消えたのだ。ドカッ!と鈍い音が鳴った直後、瞬きの後に男性はいなくなっていた。
「む……?」
ぎょっと動きを止めるシモン。無事なシモンの様子にほっとしつつきょろきょろすると、少し離れた場所にちーんと倒れる男性の姿が。
なにごと、とぱちくりきょとん。時間が止まったような静寂の後、それを打ち破るように冷静な声が淡々と聞こえた。
「……捕らえろ」
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