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フェリアル・エーデルス
342.無自覚なお誘い
しおりを挟むぎゅっとしたままお互い黙り込むこと数秒。時が止まったような静寂の中、視界の端に映るライネスのライネスだけがぴくぴく動いていてとっても気になった。
けれどだめだ、視線をしっかり向けたら全てが終了してしまう気がする。絶対に見下ろしちゃいけない。ライネスの赤い耳だけじーっと見つめ続けるのだ。うむ。
むぎゅーを開始してから数十秒。やがてもぞもぞと動きだしたライネスが、何も言わずに僕をひょいっと持ち上げて床に下ろした。
そのまま膝を抱え、僕に背を向けてしゃがみこむ。ぷるぷる震える背中が心配でそろりそろりと近付こうとしたけれど、直ぐにぴしゃっと制止の声を掛けられて歩みを止めた。
「ごめんねフェリ、ちょっとだけ待ってね。ちょっとだけ」
今はちょっとだけダメだから、と濁して語るライネス。また僕を小さな子供扱いして気遣っているのだろうか。
小さな子供には刺激が強過ぎるからとか、僕はどうせ何も知らないだろうからとか。そんなことを考えて、心配も全部躱そうとしているのだろうか。
それは……それは、ちょっぴり悔しい。悲しい。ライネスはいつまで……。
「っ、なっ!フェリ!?何してっ……!」
一度は聞いた制止を改めてツーンと無視。
どたどたと音を立てながらライネスの正面に回り込み、どんっと肩を押す。とさっと尻餅をついたライネスに軽く乗り上げ、相変わらずぴくぴく天を仰ぐライネスのライネスをじーっと見下ろした。
顔をさっきよりも更に真っ赤にしたライネスが僕の目を塞ごうとしてくるけれど、それもぺしっと払って無視だ。ぷくっと頬を膨らませて手を伸ばし、ライネスのおっきなそれにふにゅっと触れた……いや、触れようとした。
直前にライネスが本気で動き出し、ばっと体を起こして僕の手を強く掴んだ。その勢いのまま目の端を吊り上げて大きく声を上げる。
「フェリ!駄目って言ってるでしょ!」
ビクッと肩を揺らして固まった。ライネスが大きな声を上げて然るなんて滅多に無いことだから、思わず呆然と目を見開いてへなへなと座り込む。
そこまでしてようやく我に返った。自分がしようとしたことにサーッと顔面蒼白。小刻みに震えながら蚊の鳴くような声を何とか絞り出した。
「……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
嫌われた。ライネスに嫌われた。滲む視界をごしごし拭って頭を振る。だめだ、泣いちゃだめ。悪いことをしたのは僕なのだから、泣いちゃだめ。きちんと謝らないと。
そう思い頭を下げようとするけれど、どうしてもライネスに嫌われたショックで体が動かない。ぷるぷる震えて唇を噛み締めていると、頭上で何やらあわあわするライネスの気配を感じて首を傾げた。
「あ、いやっ、フェリに怒ってるわけじゃなくてっ、フェリの貞操を犯しそうな自分に怒っているというか、制御出来ない理性に焦っているというか、そのっ……!」
「……?」
「とっ、とにかく!フェリは何も悪くないから!ごめんなさいなんてしなくていいんだよ」
そう言って控えめにぎゅーをしてくれるライネス。優しい声に優しく垂れ下がった眉……本当に怒っていないのかな、とちょっぴり混乱が落ち着いて頭が冷える。
さっきはくっついたら怒られてしまったから、今度は怒られないように……としゅんと腕の中に収まるだけに留める。僕からもむぎゅーしたかったけれど、泣く泣く我慢した。
視線だけちらりと下げてライネスのライネスを一瞥。まだ天を仰いでいるそれにおろおろ瞳を揺らしてしまったけれど、直ぐにぐっと気を引き締めてふと顔を上げた。
「ライネス。ライネス。あのね」
とにかく、息が詰まりそうなくらい気を遣っているライネスから肩の荷を下ろして貰おう。そう思いひそひそと声を掛けると、ライネスが「うん?」と首を傾げた。
気を遣わなくて大丈夫。直球でそう言ってもきっとライネスは気遣いをやめない。だから、ちょっぴり遠回しに伝えよう。
「あのね、これはね、精液を出したら元に戻るんだよ」
「…………うん?」
「ライネスのね、おっきくなってるこれはね、白いのを出せば元に……むぐっ!」
その名も、僕はもう大人だから気を遣わなくていいんだよ?作戦。
遠回しにそういう知識があるから気を遣って隠さなくてだいじょぶよーと伝えることで、ライネスに安心してもらう作戦。予想では『えぇ!フェリってば物知りなんだね!これからは気を張らずにフェリと過ごせるよ!』と返してくれること間違いなし!と思ったのだけれど……?
話の途中でむぐっと僕の口を塞ぐライネス。あれれ、どうしてだろう、思っていた反応と違う……。
「フェ、フェ、フェリ……?まさか、まさかとは思うけれど……まさか、私のこと誘ってる……?さっ、流石に初夜を浴場で済ませるのはレベルが高いと言うか、きちんとベッドでしたいと言うか……」
もごもご、もごもご。
もごもご喋っているから八割方ライネスの言葉が聞き取れない。まさかとは思うけれど……の次から聞き取れない。気になるところで声量がフェードアウトしてしまったせいでとってもむずむずする。気になる……。
「え、え?だってこんなのもう誘っているに決まって……え?これで誘ってないの?怖すぎる……」
蒼白顔でがくがく震え出すライネス。何だか異常な気配を察知し、これはやばい!と脳が警鐘を鳴らした。
浴室で顔面蒼白、それに加えて体の痙攣……むむっ!これは発作に違いない!助けを呼ぶでござる!ぴーぽーぴーぽー!
「待っててライネス!いまパパを呼んでくるからね!」
「待ってフェリ!大丈夫だから!こっちこそ待って!流石にこの状況で父上を呼ばれるのは辛い……っ!」
ハッと振り返って冷や汗たらたら。そうだ、今はライネスのライネスがおっきしている状況。これを自分のパパに見られると考えたら……うーむ引きこもり待ったなし。
「わ、わかった……それじゃあシモン呼んでくる……!シモンは毎日やばめだから、やばめなところ見られても恥ずかしくないよ……!」
「それはシモンに対してどうなんだ……」
止められる気配が無いので早速シモンの元へぴーぽーぴーぽー。
やばめな状況にはやばめなシモンをぶつけるに限る!うむ!
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