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フェリアル・エーデルス
345.彼だけ
しおりを挟むもぐもぐ。大公家のシェフが作ったという特製チーズケーキをひたすらもぐもぐ堪能する。
シモンが作る甘いチーズケーキとは異なり、こっちのチーズケーキはちょっぴり酸っぱい。それに、クリームがかなり多めだ。シモンの作るチーズケーキがとっても美味しくて食べなれているけれど、この酸っぱめチーズケーキもすごく美味しい。
うぅむ、チーズケーキの可能性は無限大……。
「……お前はほんと呑気だな。いっつも騒ぎの中心に居るくせに、肝心のお前は毎度他人事な所とか呆れるくらい呑気だ」
「もぐ、むぐ……む?」
クリームが乗ったチーズケーキをもぐもぐむしゃむしゃ。不意にパパが呆れの色が籠った声音で呟いた言葉にきょとんと首を傾げ、なにか言ったかねとぱちくり瞬く。
チーズケーキもぐもぐに夢中で何にも聞いていなかった。反省せねば。
ところどころは聞こえたので、何だかよく分からないけれどぷくっと頬を膨らませてみる。呑気呑気と言われた気がしたからほんのりおこだ。僕は呑気じゃない。
ぷくぷくを維持しようとしたけれど、それよりもチーズケーキが食べたすぎて結局数秒でほっぺぷしゅー。もぐもぐを再開した辺りで、パパがコーヒーをこくこく飲んで一息。静かに語り始めた。
「そういや今夜の祭り、ライネスと花火見に行くんだったか?」
「うん!綺麗な花火、ライネスと一緒に見る」
カタ……とカップを置くと、パパはほんのり微笑を浮かべて「ふぅん」と口角を上げた。
何か言いたげな表情を察して動きを止める。ふぅんと言いつつ、全て納得したようには見えないのは何故だろう。ぱちぱちと瞬く僕にやがて眉を下げたパパが、一瞬迷うように瞳を揺らしてから口を開いた。
「ライネスと一緒に……って言ったが、シモンは今度も例外なのか?アイツも連れて行くつもりか」
予想外の問いに瞬く。まさかそんなことを聞かれるなんて思わなった。
それに、今度も例外……って。何だか言葉に含みがありそうな気がして胸の内がもやもやする。パパは一体、僕に何を伝えようとしているのだろう。
「シモンは……わからない、けど……侍従とか、護衛としてなら、一緒ってことになるかも……?」
シモンも一緒なのか、なんて。そんなこと考えたこともなかった。
何と言うか、シモンは常に一緒というか、二人で一つというか。そういう感覚だから、シモンに関しては『一緒』の定義がよくわからない。並んで花火を楽しむことは『一緒』で、それじゃあ侍従兼護衛としていつも通り傍につくのも『一緒』なのかな。
こういうこと、考え出すと止まらない。ぐるぐる巡る思考を一旦中断して顔を上げると、そこには感情の読めないパパの顔があった。
「ふぅん……なるほどな」
なるほど、なにがなるほど……?きょとんとする僕を置き去りにコーヒーを優雅に嗜むパパ。うーむ絵になる光景。
「お前にとってシモンは何だ?取り敢えず、男って訳じゃなさそうだな。親友、使用人、仲間、家族……名前を付けるなら色々あるが、敢えて言うなら」
突然の問いにびっくりして目を丸くする。何だか、今日はやけにシモンについての話ばかりしてくるなぁ。もしや、シモンが有能過ぎて引き抜こうとしているとか……?
浮かんだ可能性にあわあわと慌ててムッと牽制。指でばってんを作って答えた。
「シモンはあげないよ。シモンだけは、絶対だめなの」
「要らねぇよ、どんな誤解だこの馬鹿」
む?なんだ、僕からシモンを奪おうとしたわけではなかったのか。ほっと安心。こつん、と指の先で額を小突かれ手のひらでさすさす擦る。
珍しく話の続きを待つような表情をしているパパに急かされ、今度こそうーむと本気で考えることに。
僕にとってシモンは何なのか。これまたあまり考えたことが無いような問いだ。
強いて言うなら、僕にとってシモンは『特別』な存在。それは絶対確かなこと。親友、仲間、家族……それぞれに当てはまるような気もするけれど、そうじゃない気もする。
僕とシモンの関係を表す言葉は、まだ存在していないような。名前を付けるには、言葉が追い付いていないような、言ってしまうならそんな感覚。
「シモンは、特別。とっても大切なひと」
どう伝えれば良いか分からないから、とりあえず確かなことだけ答えることに。
するとパパは焦れたように眉を寄せて、机を数回指先でトントンと叩いた。
「……分かった。なら、ライネスはお前にとって一体何だ?」
「ライネス?」
今度はライネスか。いつもは一歩引いたようなパパだけれど、今日は何だか積極的だ。たくさん質問してくるし、どこか焦っているようにも見える。なにを、焦っているのだろう。
きょとんとしながらも考える。シモンの次はライネス。ライネスは、僕にとってどんな存在?
考えてみると、ほわっと胸があったかくなる……というより、熱くなる?ほっぺも赤く。心臓がなんだかおかしい。これは……ドキドキ?
はっと胸を抑える。そんな僕を見て、不意にパパが柔く目を細めた。
「ライネスはシモンと同じような存在か」
「……ううん。ちがう……」
「それなら、他の奴とは同じか?例の双子やら、皇太子やら」
「ううん。それも、ちがう……ライネスは、他のひととちょっぴり違うよ」
他の人とはちょっぴり違う。どうして、違う?
あと一歩のところな気がする。でも、分からない。ひとつ確かなこと、他の人とは違う明確な何かを挙げるなら、それはこれしかない。
ゆらりと煌めくパパの瞳。それをじっと見つめて、半ば無意識に答えた。
「ドキドキ、胸が痛くなるのは……ライネスだけ」
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