余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

347.シモン・ロタールの独白(シモンside)

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 誰よりもフェリアル様を理解している自信がある。俺がフェリアル様の一番の理解者であるという自負、それは常にあって、崩れることはない。
 きっとフェリアル様の実の両親である公爵夫妻、兄であるディラン様やガイゼル様よりも。フェリアル様の真に内側と呼べる部分に干渉出来るのは、間違いなく俺だけだった。

 だが、初めは理解出来なかったと、そう思うことが多くなった。フェリアル様が成長する度、それは顕著になる。どうしてか。それはきっと、最早今のフェリアル様は前世のフェリアル様とは違うからだ。

 今世で生まれて間もない頃、それが前世のフェリアル様の最期だったように思う。全てを拒絶し、感情も本心も塞ぎ込み、周囲の者は全て敵だと判断していたあの頃のフェリアル様が。
 大人が子供の皮を被っているような、そんな前世のフェリアル様はもういない。俺が無様な死を遂げるまで愛し、慈しんだ嘗てのフェリアル様はもういないのだ。

 いつまで経っても無垢な子供のように純粋で、感情豊か。今世の愛らしいフェリアル様は、愛を知らずに生きた数多の人格の集合体のようなものなのだろう。

 フェリアル様は今、無意識に百回分の人生の愛を経験しようとしている。しかし、極端に少ない幼少時代だけでは時間が少なすぎるのだ。だから、成長する度に大人ではなく子供になっていく。
 たった一回の今世で、百回分の前世の愛を。生まれながらにして疎まれ、子供ではなく大人として生きなければならなかった百の人生の内に溜まった歪みが、今まさに解放されている。
 だから、今世のフェリアル様はあんなにも幼い。

 そんな愛おしい主を支えられるのは俺だけ。全て理解して包み込めるのは俺だけ。
 俺だけであるはずだった。



『胸が痛くなるのは……ライネスだけ』



 影を通して聞こえた言葉。それは間違いなく、フェリアル様にとっての『特別』が増えたことを意味する言葉だった。

 なぜ?正直なところ、フェリアル様の想いに気が付いた時、初めに湧いたのは疑問だった。
 なぜ、よりにもよってあんな消極的な男を。年も離れて、同時に死ぬことも出来ない、情熱的というよりは、どこまでも穏やかなあの男を……──

 なんて、考える度納得してしまうのだ。だから、彼なのかと。
 フェリアル様はずっと平穏を求めていた。前世でも、あの方はずっと安らかな人生を求めていたのだ。だが世界はそれを許さない。フェリアル様はいつだって、世界の中心に立たされていた。
 どこまでも穏やか。そんな夢のような安らぎを、ずっと、ずっと。

 フェリアル様の心が初めて公子に揺れたのは、本当に初期の頃だと思う。きっと、公子に初めて出会ったあの日から。
 愛する者を守る為に何だってする。愛し愛される家庭を持ちながら、不器用な愛故に空回る。
 それがフェリアル様にとっては、自分に重なって見えたのかもしれない。

 強い共感による初恋、よくあることだ。
 そんな『よくあること』が、フェリアル様にとっては憧れだったのだろう。

 きっと今でも、初恋でしかない。フェリアル様の公子に対する感情は、淡い初恋でしかない。
 まだいくらでも可能性のある未来が多く存在している。分岐点は数えきれないほどあり、フェリアル様にはそれを掴む猶予だって十分過ぎるくらいに残されている。

 例えば今からでも、皇太子殿下ともっと甘い出来事を経験すれば初恋は消え去り、情熱的な恋愛劇を生むことだろう。暗殺者であるローズと二人きりの時間を多く取れば、或いは刺激的な愛憎劇が繰り広げられるかもしれない。
 友人であるアディ様とも、アラン殿下とも。これからの人生での分岐点によっては、どんな未来だってあり得るのだ。

 それでも、きっとフェリアル様の隣には公子が相応しい。そんな今の最善を、初恋を、フェリアル様は選ぶべきなのだろう。
 だから、今しかない。今でなければ駄目なのだ。今を逃せば、フェリアル様が分岐点に立たされる。公子の隣という未来は完全に潰えてしまう。だから焦燥してしまう。

 焦れったいあの男を、早くその気にさせなければ。そうしないと、初恋が終わってしまう。フェリアル様が初めて抱いた恋情が無に帰してしまうから。

 だから期限を与えた。今夜の祭りが最後だと。
 これ以上、平穏を望むフェリアル様には大きな分岐点に立ってほしくない。このまま穏やかな日常を手に入れて、新たな人生を歩んでほしい。
 公子がこの機会を逃すなら、その後は俺自身が動く。俺がフェリアル様の隣に立つ。



 それこそが俺のエゴ。フェリアル様が望まない、傲慢な選択。



 あるかもしれない更に幸せな未来を潰す。公子じゃないなら、与える選択肢は俺だけに絞る。
 俺であれば、十分平穏を乱すことはない。だって何も変わらないのだから。関係の名前が侍従から恋人に変化するだけで、何ひとつ変わらない。平穏な日常はそのまま。

 全ては、フェリアル様が愛した平穏の為に。
 その為に選択肢を消していく。人生の大きな分岐点は今にだけあるのだと、傲慢な嘘を吐く。これ以上の先延ばしも試練も、フェリアル様にはもう必要ない。



 ここが物語の終わり。
 本当のハッピーエンドは情熱的でも悲嘆的でもあってはならない、平穏な結末であるべきだから。


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