余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

348.祭りへ

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「らら、らいねす!やぁ!」

「や、やぁ。フェリ」


 お互いかくかくな感じでやぁっと挨拶する。不自然の極み……。
 右足と右手、左足と左手を同時に出すおかしな歩き方で現れた僕に対しても、ライネスは『なんだこいつ』なんて辛辣なことを決して言わない。にこにこと優しい笑顔で待ってくれていた。やさしい。
 正面にぴたっと立ち止まった僕を見下ろし、何やらじーっと目に焼き付けるように僕を見下ろすライネス。なんだなんだとそわそわしていると、ほんのり頬を紅潮させたライネスがふにゃりと声を上げた。


「フェリ……その恰好、とってもかわ──」


 はて、とぱちくり瞬く。突然中断された言葉に首を傾げていると、ライネスはやがてハッとしたように固まった。

 何やら僕の背後に立つシモンに視線を向けていたみたいだ。振り返ってみるけれど、シモンの様子に特に気になるところは無い。
 普通にすんと立っているシモンを見上げて再び首を傾げ、視線を戻す。さっきの言葉を撤回するようにあわあわ笑顔を浮かべたライネスが言った。


「その格好、とってもカッコイイね!」

「……!あぅ、あ、ありがと」


 やったやった!きちんとかっこいい姿に変身できていたみたいだ。努力が報われたことにえへへと頬を緩ませる。
 ライネスに子供扱いされなかった事実が嬉しくて上機嫌、るんるん気分。ライネスもとってもかっこいいよと返すと、ほんのり頬を染めた嬉しそうな笑みが返ってきて胸がぽかぽかした。

 お互いに見つめ合うこと数秒。
 ちょっぴり恥ずかしくなってきた頃、突然間に割り込むようにパパがぬっと顔を覗かせてきた。


「いいかお前ら。外泊は禁止だからな。終わったらすぐに帰って来るんだぞ。外泊は禁止だからな」


 大切なことなので二回言ったみたいだ。念押しするような表情にこくこくっと頷く。
 外泊するほど遠くに行くわけじゃない。勿論どこかに泊まる予定なんてないよと頷く僕に、パパはスッと目を細めて満足気に口角を上げた。なんだろう、その微笑ましいものを見るような瞳は……。


「ライネス。俺の血を引いていることを証明してみせろ。いいな」

「ちょっ、フェリの前で言わないでください……っ」

「問題ねぇだろ。理解出来ねぇだろうし」

「それはまぁ、確かに」

「む!むむっ!なんですと!」


 聞き捨てならない言葉にぷんすか。ふくふくとほっぺを膨らませてぷしゅーと怒りのぴょんぴょん跳ねをする僕をパパがぐりぐり撫で回し、ライネスがふにゅふにゅーっとほっぺを揉み揉み。きちんと反省しているのだろうか。ぷんすか。

 ふすふすと息巻く僕を宥めたライネスが振り返り、パパと大公妃さまに何やらこくりと頷く。
 三人は通じ合っているみたいけれど、僕は何が何だかさっぱり……いいや!理解している。そういうことなのだろう、うんうん、ふむふむ。
 神妙な面持ちでこくこく頷いていると、無言の会話が終わったらしいライネスがにこっと微笑んで視線を戻す。差し出された手を反射的に取った。


「それじゃあ行こうか。お祭り」


 ふにゃりと微笑む姿に鼓動がドキドキ高鳴り始める。いまドキドキしたらバレちゃう!慌てて俯き、ちょっぴり熱いほっぺを冷ましてからもう一度顔を上げる。
 冷静な顔を装ってぎゅっと手を握り締める。上擦った声が出ないように注意しながら小さく答えた。


「……うん」


 楽しみだねとか、色々言いたいことはあるのに。ドキドキに気付かれないようにするのが大変で、いつもみたいに肩の荷を下ろしたような会話が出来ない。そんな僕に気付いているのかいないのか、ライネスは柔い笑みを決して崩さず歩き出した。
 あっと眉を上げて首だけ振り返る。お見送りのために玄関まで来てくれていたパパと大公妃さまにちょちょいっと手を振った。


「パパ、大公妃さま。いってきます」

「気を付けて行ってくるのよ。迷子にならないようにね」

「外泊は禁止だからな!」


 何度目かのパパの忠告に苦笑する。ライネスが困ったように微笑んで返事をするのを横目に、玄関前に横付けされた馬車の前へ。
 城下町のお祭りだから、目立たないように質素な馬車を使う。いつもの漆黒キラキラ馬車は今日はお留守番みたい。もふもふの椅子に座れないのは残念だけれど、ライネスが一緒だから問題なし。

 二人で乗り込んだ瞬間、不意に扉が閉められそうに。慌ててそれを止めると、椅子に座ったライネスと外に立つシモンが驚いたように目を見開いた。
 どうしてびっくりしているのだろう。どちらかと言うとびっくりしているのは僕の方なのに。


「……?シモンは乗らないの?」


 きょとんと首を傾げて問う。僕の言葉に一瞬空気がぴしゃっと変化した。
 何だかおかしな雰囲気にまたまた首を傾げる。数秒の沈黙の末、シモンが軽く馬車に乗り込んで僕の頭をよしよしと撫でた。


「俺はお二人の護衛です。遠くからしっかりお守りするので安心してください」

「遠くから……?」

「えぇ。遠くから。今日は公子が傍に居ますし、そう危険も無い筈です」


 にこっと笑顔を浮かべるシモン。声音も表情もいつもので間違いない。何か隠している様子も……今のところ見えない。
 そっか、今日はシモンは傍にいないのか。ちょっぴり違和感を抱いたけれど、すぐにそっかと頷いた。


「フェリアル様。お祭り、楽しんできてくださいね」

「うん。シモンもね」


 ふにゃりと頬を緩める。馬車の扉が閉まる直前、シモンの寂しそうな微笑みが見えた気がした。

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