余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

350.誓約(後半シモンside)

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「むぐむぐ、もぐもぐ」

「フェリ。もうすぐ花火が上がる時間だよ」

「むっ!むぐ、ごくっ。花火!」


 二つ目のクレープをもぐもぐしていた時、不意に時計塔に視線を向けたライネスが声を上げた。どうやらもう少しでお祭りのメインイベント、花火が上がるらしい。

 露店のおじさんたちがたくさんサービスしてくれたおかげで、美味しいものをお腹いっぱいになるまで食べることができて満足。あとは満腹が原因で襲ってくる睡魔に負けないようにすれば完璧である。うむ。
 クレープを急いでもぐもぐ。食べ終わったらゴミをぽいっとゴミ箱に捨てて、ライネスの手をむぎゅっと改めて強く握り直した。ライネスが迷子にならないようにね。


「はなびっ、はなびっ」

「花火楽しみだね」


 ぴょんぴょん、わくわく。瞳をキラキラ輝かせて空を見上げる。ライネスはそんな僕の手を優しく引いて、人混みの中から抜け出すように広場の隅へ移動した。
 隅っこで花火を見るのかな、とぱちくりする僕の正面にライネスがしゃがみこむ。


「花火の時間に合わせて人が多くなると思うから、人酔いしないように別の場所に移動しよう」


 少し歩くけど大丈夫?と聞かれてこくこく頷く。心配性のライネスのことだから、ここで大丈夫じゃないと言ったら問答無用で僕を抱っこすることだろう。それは子供っぽいからだめだ。
 僕はもうお兄さんだから、抱っこで移動なんてクールじゃないことはしない。眠くってこっくりこっくりしちゃっても、きちんと自分の足で歩くのだ。


「どこ行くの?」

「時計塔だよ」

「……とけいとう?」


 周辺はどこも祭りで混んでいる。この辺りで人気のない場所なんてあるのかな……と首を傾げて問う僕にライネスがサラッと答えた。

 とけいとう……時計塔?時計塔って、ここからでもよく見える、あの高い塔のことで間違いないだろうか。でも、時計塔は確か立ち入り禁止だったはず。
 きょとんと瞬いてはてなを浮かべる。手を引かれるままにとことこ歩く僕を振り返り、ライネスがにこっと悪戯っぽく微笑んだ。


「今日だけ特別。裏口の鍵を父上から貸してもらったんだ」


 そうか、時計塔はあくまでヴィアス家が建てたものなんだ。そうでなくともパパの力があれば時計塔の出入り許可はすぐに下りるはず。確かにこれは、今日だけ特別な特等席だ。
 あの高い塔を上ることが出来るのか。後ろに倒れてしまいそうなくらい頭を反って時計塔のてっぺんを見上げ、わくわくっと瞳を輝かせた。




 * * *




「あわわわっ」

「……フェリアル様の真似ですか?驚きました、貴方がやるとただただ痛いですね」

「真似じゃねぇーっすよ!痛い言うな!!」


 無事に裏口から時計塔の中へ入っていったお二人を見守る。その間、なぜか当人である公子よりも緊張しているらしい侍従のシャルルの慌てっぷりに冷めた視線を向けた。気持ち悪い。
 ドン引きする俺に涙目で怒鳴るシャルル。こんなのが公子の侍従だなんて一体何の冗談なのか、と思ったりもするが、実際にこうして侍従を続けている辺り本当はかなり有能な人物なのだろう。興味ないが。

 如何にも頼りなさげなこのオーラも全て演技だと言うなら凄すぎるが……まぁその可能性は薄いだろう。正直、あのヘタレな公子の侍従がコレというだけでかなり納得だ。


「もう少しでライネス様の恋の行方が決まるんですから!」


 シャルルの言葉に目を細める。
 もうすぐ始まる花火で公子が……と言うより、大公が公子に助言するようにして決まった例の計画が実行される。そこで、フェリアル様の最後の分岐が発生するのだ。
 正直、不安もある。フェリアル様が想定とは異なる決断をしたら?その時はその時で、別で考えてある策を実行するだけ。だがそれでは俺が考えた最善から逸脱してしまう。

 ……いや、俺が考えた最善なんてどうでもいい。最後に決断するのはフェリアル様であって、俺はその道を強引に整えるだけ。そこから逸れようがその通りに進もうが、それはフェリアル様の自由だ。
 俺はただ、フェリアル様にとって最高の結末と言える結果が訪れることを祈るだけ。


「ていうか、本当頼みますよシモン君」

「シモンくん……?頼むって、何ですか急に」

「影っすよ影!途中で過保護発動してフェリアル様の影に転移とか!そういうの本当に勘弁してくださいね!」


 焦燥を顕にシャルルが語った言葉に目を見開く。考えもしていなかったことを言われたから、少し驚いた。
 この人も何だかんだ言って公子に甘い。主至上主義なのは侍従の性なのか何なのか……俺はフェリアル様至上主義であって、主でなくともフェリアル様を崇めるが。

 不安そうに表情を歪める彼を見下ろし、眉を下げて小さく笑む。そんな心配、しなくても問題ないというのに。


「……ご安心を。そもそも俺はもう、フェリアル様の影に無条件で干渉することは出来ないので」

「え、そうなんだ……えっ、何でっすか!?」


 一瞬素で納得したらしいシャルルだったが、すぐに目を見開いて再び聞いてきた。
 無理もない。あれだけ好きなようにフェリアル様の影に干渉していた俺が、もう無条件での干渉は出来ないと断言したのだから。


「俺とフェリアル様の間にあった物理的な繋がりは全て無くなったんです。二年前、フェリアル様が神界へ消えた例の日に」


 あの日、フェリアル様との誓約は問答無用で解かれてしまった。互いの血で繋がっていたものが消えてしまい……つまり、俺とフェリアル様にはもう一切の繋がりが無い。
 だから当然、フェリアル様の影への転移は無条件に発動出来ない。そういうことになってしまった。

 軽くそう説明すると、シャルルは驚きの表情を困惑や疑心といったものに変化させて首を傾げた。


「……誓約、もう一度すれば良いんじゃないっすか?」


 純粋な疑問をぶつけられ苦笑した。
 誓約はもう結ばない、なんて。そんな答えを、軽々しく口に出来るわけがないというのに。
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