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フェリアル・エーデルス
351.好き
しおりを挟む「まだかな。まだかな」
「もう少しだよ。フェリ、眠気は大丈夫?こっくりしない?」
「大丈夫。しっかり起きてるよ。こっくりしないよ」
「普段ならもうとっくに眠っている時間だろうから、心配だな……フェリの可愛い瞳に隈が出来ちゃったら悲しいから、限界だったらきちんと言うんだよ?」
時計塔の最上階。暗くて視界が見えづらい中、ライネスとしっかり手を繋いで大きな窓の正面に立つ。瞼をそっと撫でられながら掛けられた言葉にうむっと頷いた。
さっきまでちょっぴりだけ眠くてこっくりこっくりしてしまったけれど、ここに来るまでの時間で眠気は完全に覚めた。だから問題なし、である。うむ。
空を見上げてそわそわ。そろそろかなと背伸びをして待っていると、やがて広場の人混みががやがやと騒がしくなった。何人かが時計塔を見上げて楽しそうにしている辺り、どうやら時間になったようだ。
窓枠に片手を置いてじーっと空を見上げる。同時に、綺麗な光の弾が地面から天へゆらゆらと軌道を描いて昇っていった。
数秒の静寂。その直後、どんっと大きな音を立てて暗い空に鮮やかな花が咲いた。
「はわ……っ」
視界いっぱいの大きなお花。ひとつめを皮切りにどんっどんっとたくさん咲く様子に思わず控えめにぴょんぴょん跳ねる。すごい、すごい。
帝都のお祭りで見た花火よりも、何となく迫力が更に大きく見えるのは……きっと空に近い時計塔で眺めているからだろう。
無意識に手を伸ばすけれど、それは当然窓でぺたんと遮られる。むぅ……と眉を下げる僕を横目で見ていたらしいライネスがふと動き出し、僕の手を引いてどこかへすたすた歩き出した。
ぱちくり瞬く僕を連れて歩いたのは、さっきいたところからほど近い大きな扉。そこをキーッと開いて、躊躇なく外へ出る。どうやら時計塔には軽いバルコニーもあるようだ。
僕より少し手前にいたライネスが振り返る。浮かんでいるのは、とっても優しいいつもの微笑み。いつもの……のはずなのに、何だか少し、いつもと違って見えるのはどうしてなのか。
「フェリ、ほら。ここならもっと綺麗に、大きく見えるよ」
花火を背に微笑むライネスから視線が逸らせない。
僕とちょっぴりお揃いで緩く編み込まれた長い黒髪、それが背景の夜空に溶け込んで見える。金色の瞳は花火を軽く映し出して、ほんのり七色に輝いているように思えた。
柔らかい笑顔もいつものとは少し違う。同じはずなのに、何だか違う。
何より一番違うのは、自分の心臓がドクドク高鳴っていること。花火が咲く音すら掻き消してしまいそうなくらい、それほどドキドキが大きいこと。
どうして、どうして……なんて。
本当は、理由なんてわかっているくせに。
「……ら、らいねす」
紡ぐ声は酷く震えていて、小さい。当然花火の音に掻き消されてしまい、ライネスは斜め手前で空を見上げたままだ。
その様子にほんのちょっぴり肩を落としつつ、まだ心の準備が出来ていないからよかったなんて息を吐く。抱く気持ちが完全に矛盾していることに微かに苦笑した。
このドキドキを解消したい。痛いくらいに高鳴る心臓をどうにかしたい。きっとたった一言ライネスに痛みの原因となる気持ちを押し付ければ、このドキドキも少しはマシになる。
あぁけれど、そこまでが本当に遠い。ライネスは手が届くくらい、こんなに近くにいるはずなのに。
「ライネス……」
ほんのちょっぴり勇気を出す。声は震えてきっとうまく紡げないから、とにかく足を動かすことに。
ささっと駆け寄り、背後からライネスにぴとっと抱き着く。背中にうりうり顔を埋めてむぎゅーっと抱き着くと、ライネスが驚いたように息を呑む気配を感じた。
「フェリ……?どうしたの、眠くなっちゃった?」
ライネスが体の向きを変えてぎゅうっと抱き締め返してくれる。花火そっちのけでぎゅうぎゅうしてくれるライネスに心ぽかぽか。更にむぎゅーっと力を籠めてドキドキをちょっぴり抑えた。
「うぅん……違うの。あのね、あのね」
「うん?なぁに?」
優しい声、表情。どきどき、どきどきって胸が高鳴る。花火の音で誤魔化すのももう限界だ。
どーんと一際大きな花火が上がって、広場から興奮したような歓声が聞こえてくる。それがちょうどやんできた頃、正面にしゃがみ込んでくれたライネスの耳元にそっと唇を寄せた。
「あのね、僕ね……いま、とってもドキドキしてるの」
ぴたっと硬直するライネスの体。顔を上げて表情を確認するのがどうしても怖くて、俯いたままライネスの大きな手をぎゅっと持ち上げる。
胸の辺りにそっと手を押し当ててドキドキを伝える。きゅっと目を瞑ったまま、勢いに任せてわっと語った。
「ライネスと一緒にいるとね、どきどきするの……!」
どうしてかな……なんてわざとらしい言葉を続けて頬を染める。
祭りで浮かれているせいなのか、花火を見て夢見心地な気分になっているせいなのか。ずっと怖くて口に出来なかったことを衝動的に言ってしまったことに後からずーんと後悔する。
我に返ってすぐ、赤い頬がさーっと蒼白した。こわい、ライネスの顔を見るのがこわい。
「あっ、あ、あの……っ」
どうしよう。ここから誤魔化すなんてことはできない。あわあわと目をぐるぐるさせて震えていると、突然むぎゅーっと強く抱き締められた。
「へっ……?ら、らいねす」
「フェリ」
不意に言葉が遮られた。ぱちくり瞬く僕の耳元に唇を寄せたライネスが、ひとつ熱い吐息を吐く。
それにぷるぷると更に震える僕を抱き締めたまま、ライネスは小さく囁くみたいに呟いた。
「フェリ。好きだよ」
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