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フェリアル・エーデルス
352.ちゅー
しおりを挟む花火の音が聞こえなくなった。
それは花火が終わったとか、そういうことではなくて、五感全てがライネスの声や表情だけに集中したから。花火は今もまだ、鮮やかな色を夜空に咲かせて輝いている。
けれど残念なことにそれを楽しむ余裕は無い。なぜならたった今、ライネスから空耳かと疑うような言葉を聞いてしまったから。
「……す?」
「好き。好きだよ、フェリ」
さっきまでの柔らかい笑みはいつの間にか甘く蕩けるようなものに変わっている。へにゃりと緩められた金色の瞳に射抜かれ、まるで獅子に囚われてしまったかのように視線が逸らせなくなった。
蒼白していたはずの顔がぽぽぽっと熱くなる。その言葉を頭で理解するよりも先に体が反応した。
頭のてっぺんから湯気がぷしゅー。やがて理解が追い付いた瞬間、あわわっとぷるぷる体を震わせて混乱してしまった。い、いまなんと……?
「ごめんね。フェリがあまりにも可愛くて衝動的に……もっとロマンチックな感じで言いたかったんだけれど……」
甘い微笑みのまま淡く頬を染めるライネス。ろまんちっく、ろまんちっく……その言葉が出るからには、この『好き』はそういう『好き』だって解釈していい……いいんだよね?ね……?
頭の中はあわあわ大混乱。自分から動いたくせに後のことは何も考えていなかったから、こういう展開にどう対応すればいいかなんて当然わからない。
なんだかとっても甘い空気に包まれたままそわそわあわあわ。とりあえず状況整理!と不意に思い立ってぐちゃぐちゃの脳内を綺麗に整理することに。
えっと、えぇっと、まずは確認。この好きの意味をしっかり聞いてからにしないと、ただの誤解だったらとっても悲しいから。
「す、すきは……大人の方の、すき?」
どう表現すればいいかわからなくて何だか物凄く漠然とした聞き方をしてしまった。
それでもどうやらきちんと伝わったようで、ライネスが一瞬「ぐっ……!」と呻いて唇を噛み締める。どうしたのだろう、急に悶絶し始めて……。
眉を下げて答えを待つ。やがてふにゃっと微笑むと、ライネスは僕の真っ赤っかほっぺを片手で包みながらこくりと頷いた。
「そう。愛してる。キスしたい、の好きだよ」
「あぅ……っ」
愛してる。キスしたい。そういう意味の、好き。
あわあわ、あわあわ。ライネスからほわわーっと醸し出される甘い空気に耐えられなくて軽く俯くけれど、すぐにほっぺをふにゅっと上げられ顔を見合わせる形になる。
ライネスの金色の瞳に映る真っ赤な顔。恥ずかしくて照れくさくて、思わずおかしなことをあわわっと口にしてしまった。
「ちゅっ、ちゅー、する……?」
「…………えッ!?」
「はわっ!?」
すぐに我に返って目ん玉真ん丸。びっくり仰天。
自分で発した言葉に驚いてぱちくりする僕の目の前で更に大困惑の様子のライネス。混乱のあまりおかしなことを言ってしまった僕のせいで、何だかカオスな状況になってしまった……。
好きといって、お互いの気持ちが同じだということを確かめ合う。つまり、告白。告白したら、ちゅーをするのがよくある流れだ。恋愛の絵本や小説ではそう書かれているのがほとんど。
だからなんとなく思ってしまった。この後はどうするのかな、やっぱりちゅ、ちゅーをするのかなって。そわそわ……。
ちょっぴり落ち着かないと。混乱で頭がちょっぴりおかしくなっているから。そう思いすーはーすーはーと深呼吸していると、不意にライネスの大きな手が僕のほっぺをふっくらふくふくと包み込んだ。
「む……?」と首を傾げる。ライネスはそんな僕をじーっと見つめて、瞳をすっと甘く細めた。
「キス、してもいいの……?」
熱い吐息混じりの囁き。ぼっと噴火するみたいに真っ赤っかになった顔で硬直し、やがてぐるぐると瞳を揺らす。無言でこくりと頷くと、ライネスが微かにごくっと喉を鳴らした。
「フェリ……」
ゆっくり近づいてくるライネスの綺麗な顔。形の良い唇。ほとんど反射的にきゅっと目を瞑った瞬間、一際大きな花火の音が鳴り響いた。
唇の辺りに熱い吐息がかかる。ふにっ、と柔らかい感触が唇に触れた途端、ほんの少し落ち着いていたはずの心臓がどっくんどっくんとまたもや大きく高鳴ってしまった。
「んっ……」
「っ、は……フェリ……」
ふに、ふに。何度か触れて離れてを繰り返した柔い感触がやがてスッと距離を取る。無意識にライネスの肩に置いていた手をそのままに、終わったのかなとちょっぴりだけ瞼を上げた。
その瞬間、少し開いた唇の隙間から口内へ入り込む熱くてぬるっとした何か。
熱い何かは、びっくりして縮こまる僕の舌を器用に絡みとって口内をくちゅくちゅと乱し始めた。
「んぅ、む……っ、んくっ」
反射的に退こうとしたけれど、いつの間にか後頭部をがっしりと手で固定されていて離れることが出来ない。
ぬるっとしたそれから口内へ流れてくる液体。それがライネスの唾液であることに気付くまでそう時間はかからなかった。どうすればいいのかと困惑する間にも流れ込んでくる唾液は増える一方で、反射的に喉の近くにあったそれをこくっと飲みこむ。
全ての唾液をこくこくっと飲み込んだ直後、ようやくライネスの唇が離れた。
「んっ、はっ……はぁっ」
「ん……はっ!フェリ、ごめんねっ、苦しかった……!?」
「っだ、だいじょぶ……っ」
真っ赤な顔ではぁはぁと息を整える。うーむ、思ってたちゅーとちょっぴり違ってびっくりした……。
まさか、しっ、舌をぬるっと口にいれてくるなんて。予想外でござる、ござる……うぅ、はわわ……。
「舌をね、ちゅーちゅー吸われて、びっくりしちゃったの……」
「びっくりしちゃったよね……!?本当にごめんねフェリ……ッ!」
ライネスの肩にぷしゅーっと真っ赤の顔を乗せる。うりうりと埋めてもごもご喋ると、すかさずライネスがむぎゅーっと強く抱き締めてくれた。あったかい、ぽかぽか。
顔が見たいのかほっぺをふくっと摘まむライネスの手からふりふりと逃れる。ぺしっと手を払いながら、耳元でひそひそ呟いた。
「むりぃ……」
「どうして無理なの……?お顔、見せてくれない……?」
ぶんぶんっと首を振る。ちっちゃく答えた言葉に、ライネスが何故か大きく呻いて悶絶してしまった。
「てれる……」
「くはッ!!」
ライネス、ばたんきゅー……。
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