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フェリアル・エーデルス
354.見えない本心(後半ライネスside)
しおりを挟む気付くと、花火はとうに終わって広場を埋めていた人混みもぱっと消え去っていた。
ライネスにちゅっちゅされている間に大分時間が過ぎていたらしい。僕の首元にちゅーっと吸い付いていたライネスを慌てて引き剥がして、はやく帰らねばと動き出す。
「ライネス。ライネス。パパに怒られちゃうよ。早く帰らないと」
「うん……?あぁ、そうだね。父上が煩いだろうし、そろそろ帰ろうか」
にこっと微笑み、ライネスは僕をひょいっと抱き上げてバルコニーから中へ入った。抱っこされなくてもきちんと歩けるのに……むぅ。
不満げに足をぷらんぷらん。肩にうりうり。そんな僕の行動をライネスは楽しんでいると解釈したのか、幼子を見つめるみたいにニコニコしている。むぅ。
「ごめんねフェリ。花火、あまり見られなかったね」
「ライネスがいっぱいちゅーするから、最後まで見れなかった……」
「うっ、本当にごめんね……っ」
ゆるしてーと頬擦りするライネスをぺしっと押しのける。なんだか急に距離が近くなった気が……。
流石にちゅっちゅしすぎなので「めっ」と軽くライネスを制す。しょぼんと落ち込んだ様子を見せるライネスだけれど、きちんと制止の言葉は聞いてくれたのでよきよき。
ちゅーの嵐が収まったところで力を抜き、ライネスの肩にぽんと頭を置く。ちょっぴり疲れた……。
そういえばいま何時なのかな。花火が始まったのが普段眠りにつく時間だから、きっと深夜に近くなっていると思うけれど。
なんて、そんなことを考えていたら途端に眠気が襲ってきた。重い瞼をなんとか上げてこっくりこっくりを堪えていると、その我慢をぺしっと放るように頭に触れる大きな手。
「眠いなら寝てもいいよ。今日は色々あったから、ゆっくり休んで」
なでなでと髪を梳くように撫でられると、びっくりするくらいすーっと意識が遠のいていった。
むねん。今日はずっと起きていようと思っていたのに……むにゃむにゃ。
* * *
肩にぽすっと置かれた小さな頭。撫で心地の良い髪を優しく撫でてあげながら、緩む頬をそのままに時計塔の階段を下る。その間、つい数分前に起きた夢のような出来事を思い返した。
私と一緒にいるとドキドキするのだと、そう語るフェリの顔は真っ赤で流石の私も自意識過剰な考えを咄嗟に浮かべた。小さな手が私の手を掴んで触れさせたそこからも、まるでフェリと居る時の自分の鼓動くらい高鳴っていて……一気に衝動が湧き上がったのは、その時だった。
告白は反射的に口に出た。言わなければと、咄嗟にそう思った。あの普段とは違う非現実的な空間、空気に急かされたような気もした。
まさかフェリが、私の想いを受け入れてくれるなんて……。
まだ直接的な気持ちを言葉にして聞いてはいないけれど、それでもフェリが私を好いてくれているのは確実だと、それだけは流石の私でも理解出来る。あの雰囲気だ、そうでない方が驚く。
混乱するとぶっ飛んだ言動をするフェリのことだから、好きの一言の前にあんな小悪魔的なことを言ってしまったのだろう。一瞬誘われているのかと勘違いしてしまうところだった。純粋無垢なフェリは絶対にそこまで考えていないだろうと直ぐに悟ったから良かったものの。
「ぅー……むぅ……」
ふと腕の中から聞こえた声にハッと我に返る。
階段を下りる軽い衝撃が不快だったのだろうか。眉を寄せて可愛すぎる不満顔を浮かべるフェリを見下ろし、あまりの愛おしさに一つ口付けを落としてしまった。唇にしたいのを泣く泣く我慢して、ふくふくともごもご動く可愛い頬に。
「ごめんね……揺れるの嫌だよね……」
私としたことが。眠っているフェリへの最大限の配慮を怠ってしまうなんて。
直ぐに階段を足で降りるのを止めて魔力を解放する。音が出ないよう注意して風を起こし、手摺を超えてゆっくりと地面に着地した。普段あまり魔法を使わないからか、風で飛べることを定期的に忘れてしまう。
大公城へも飛んで帰るべきだろうか?しかし住民にその姿を見られてしまう可能性もある。軽く悩みつつ時計塔の扉を開くと、途端に肌を刺す北部特有の冷たい風。
慌ててフェリをぎゅっと抱え直し、脱いだ状態だったフードで頭を隠してあげる。冷えやすいふくふくほっぺは私の手で覆って暖めておこう。
そうしてフェリの防寒を整えた後、早く暖炉で暖まった部屋に連れて行ってあげなくてはと風を起こす。軽く飛び立とうした瞬間、暗闇の中から不意に呼び掛けられ咄嗟に動きを止めた。
「公子」
この呼び方、声。シャルルでは無いことを直ぐに察して声が聞こえた方へ視線を向ける。
暗闇に溶け込んでいた茶髪が不意に視界に映る。私を呼び掛けておきながら、澄んだ緑の瞳は真っ直ぐにフェリを射抜いていた。
「……シモン」
フェリを抱く腕に力が籠る。この妙な空気は一体何なのか。普段通りに会話を始めれば良いものを、何故か声を上げられない。
ぐっと口を噤む。一声も発しないながらも、眉を寄せたり瞳を揺らしたりと忙しない私とはまるで違う。
澄み切った緑の瞳からは、感情が一切読み取れなかった。
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