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フェリアル・エーデルス
367.にゃんこ
しおりを挟む「ぬぅ……広いのう……」
「そうかな。父上にしては規模が小さい気がする。隣にフェリ専用の城くらいは余裕で建てると思っていたけれど」
綺麗なお花をよしよしと撫でながら紡いだ呟き。ライネスが何やらとんでもないことを言っているけれど、たぶん冗談だからスルーだ。
流石のパパもプレゼントにお城だなんてそんな……ぬーん、否定しきれないのが怖い……。
「あ、城も検討したみたいっすよ。でも期限内に完成するか分からなかったんで、とりあえず花畑にしたみたいっす」
とりあえずって。その言い方だとまるで城を作ることはほぼ確定しているように聞こえてしまう。いやいやまさかそんな……ぬーん、否定しきれないのが怖い。
パパが絡んだお話は大体すごいものばかりだから、ちょっぴり聞くのをお休みしてお花なでなで、つんつん。
大公城の庭園を飾るのはほとんどが華やかで大きな花。けれどここだけ周囲から浮くほど控えめで小さな花をわざと植えている。小さな花が好みの僕に配慮してくれているみたいで、何だか胸がぽかぽかだ。
「フェリ、父上のプレゼント気に入った?」
「……うん。とっても嬉しい」
隣に並んだライネスにふと尋ねられ、ふにゃりと微笑んで頷く。僕の好きなお花ばかりが植えられた空間、正直言ってとても嬉しいのは本当のことだ。
あとでパパにお礼を言わないと。こんなに素敵なプレゼントをありがとうって。
「……?なんだろ……?」
「うん?フェリ、どうかした?」
嬉しくてお花に更に顔を近付けた時、不意に少し先の花々が不自然にがさがさと揺れた気がして動きを止めた。
風にしては何だか違和感のある……まるで、何かが花に当たって擦れたみたいなそんな揺れ。
「ううん、なんでも……」
数秒待っても何も起こらない。なんだ気のせいか、と納得してその場を離れようとした瞬間、それは突然現れた。
「にゃあ」
「あわっ!!」
花を掻き分けてぬっと真正面に現れたお顔。あんまりびっくりしたものだから、思わずすってんころりんする勢いでガバッと仰け反る。
その拍子に後ろに倒れかけた体を、流石の反射神経でシモンとライネスが同時に支えてくれた。
「フェリ!大丈夫!?」
「お怪我はありませんかフェリアル様!?」
ちょっぴり倒れかけただけなのに、大袈裟なくらい心配そうな顔をする二人。
思わずふにゃっと笑って眉を下げる。大丈夫だよありがとねと言いながら起き上がり平気な様子を見せると、二人はやがて安心したようにほっと息を吐いた。
それを横目に視線を戻す。
さっきはびっくりして仰け反ってしまったけれど、思い返したら突然現れたものの正体は別に危険なものじゃなかった。
まだいるかな、僕の声にびっくりして逃げちゃってたらどうしよう。そんなことを思いながら軽く花々を掻き分けて、思わずくしゃっと綻ぶ表情。
突然現れた"子猫"は、確かにまだそこにいた。
「にゃあ、にゃあ」
「にゃんこ、ごめんね。びっくりさせてごめんね」
ぷるぷると小刻みに震える姿に湧き上がる罪悪感。
撫でてあげたいけれど、怯えてしまうだろうか……。なんてしょんぼり落ち込んでいると、子猫は僕の気持ちを察したみたいに手に擦り寄ってきた。
「っ……!にゃんこ……」
なでなでと優しく撫でてあげる。猫は警戒心が強いと聞いたことがあるけれど、実際はそうでもないのかな。少なくともこの子猫は全く僕を警戒する様子がない。
可愛いなぁとなでなでしていると、不意に子猫が顔を上げる。陽の光に反射した瞳は珍しい何色もの色に輝いていて、とっても綺麗な……。
──……虹色?
「何ですかね、この子猫。大公城は外部からの侵入を絶対に許さないのに、一体何処から入ってきたんでしょう」
ふと背後から聞こえた声にハッとする。虹色の瞳に何だか既視感を覚えた気がしたけれど、気のせいだったかな。
「あ、足首にプレートが付いているよ。首輪は無いみたいだけれど……何処かの飼い猫かな」
ライネスの言葉を聞いて慌てて子猫の足を確認する。確かにライネスの言う通り、細い足首にちっちゃなプレートが紐で括り付けられていた。
怖がらせないようにそーっと子猫を抱き上げてプレートを持ち上げる。何か書いてある、と気付いて目を凝らして読んでみた。
「……"ゆうま"」
ドクン、と不意に高鳴る心臓。まただ、さっきと同じ妙な既視感。"ゆうま"なんて名前の知り合い、僕には居ないはずなのに。虹色の瞳だって、一度も……。
「ゆうま?この子の名前かな」
「それじゃあやっぱり何処かの飼い猫で、何かの拍子に迷い込んでしまったんですかね」
「えぇ……流石の猫でも大公城に侵入なんて出来ないっすよ。誰かがこの子を意図的に侵入させたとしか……」
三人の声が遠くに聞こえる。視線は子猫の虹色の瞳に囚われて、当分は離せそうになかった。
「にゃあ」
呆然とする僕の手に擦り寄る小さな子猫。鳴き声にはっとして我に返り、優しく抱き締めてよしよしと撫でてあげる。
名前の書かれたプレートが付いているということは飼い猫だと思うけれど、それにしては何だか痩せ細っている気がする。ご飯を十分に食べることが出来ていないのかな。
「それにしても、人懐っこい猫っすねー」
シャルルが不意に手を伸ばす。僕にしたみたいに擦り寄るかと思えば、子猫は近付いてきた手を警戒してシャーッと毛を逆立てた。
「うおっ!えぇ……急に辛辣な猫ちゃん……」
「人懐っこいと言うよりは、フェリに懐いているだけみたいだね」
ライネスが苦笑して発した言葉は、どうやら間違いではなかったらしい。
子猫は僕に触れられるのは良しとしているみたいだけれど、僕以外が触れようとすると極端に警戒してしまう。
人が怖いのかな、でもそれなら僕のことも警戒するはずだし……うーむ、何だか不思議なにゃんこだ。
「にゃんこ、ご主人さまはどこにいるの?」
「にゃあ」
お手、みたいに僕の腕に肉球を乗せる子猫。まるで『お前がご主人様じゃ』と言わんばかりだ。いやいや違うでござるよ、人違いでござるよ。
あわあわと困惑していると、ふと隣にしゃがみこんだライネスがうーんと首を捻る。やがて仕方なさそうに眉を下げて微笑むと、子猫に視線を合わせてぽつりと呟いた。
「もしかすると、捨て猫なのかもね。この体じゃ随分ご馳走にあり付けていないみたいだし。暫くここで面倒を見てあげようか」
ピクッと動く猫耳。ゆらりと緩慢に揺れる尻尾はまるで『良かろう』と言っているみたい。
儚げで可愛い子猫だけれど、ちょっぴり我儘?王様みたいな一面も垣間見えて思わず頬が緩んだ。
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