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フェリアル・エーデルス
380.迷子
しおりを挟むアランはレオを心配していたみたいだ。最近のレオは元気がない、だから僕にレオと話をしにいってほしいと彼は言った。
アランは話をしないの?と聞いたら、苦い笑みと共に『僕が行っても嬉しくないだろうし』と自嘲気味な答えが返ってきた。つくづくすれ違っている兄弟だなぁ……と思いつつ、ここで無理に背中を押すのも場違いな気がして口を噤んだ。
きっと、僕が何かしなくても、もうすぐ二人は分かり合える。そういうところまで来ているはずだから。
「フェリアル様、フェリアル様」
レオとの話も終わり、アランに挨拶を済ませて帰ろうとしていた時。人気のない廊下を歩いていると、不意に足元の影から声が聞こえてきた。
慌ててしゃがみこみ、影に耳を近付けて「どうしたの?」と問い掛ける。一応きょろきょろ……うむ、気配はしない。近くには僕達以外誰も居ないみたいだ。ほっ。
「上から誰か来ます。嫌な気はしないので、恐らく敵ではないと思いますが」
「うえ……?」
上にあるのは天井だけだけれど……と首を傾げて見上げた瞬間。不意に大きな影がかかって視界が暗くなったかと思うと、ちょうど開いていた横の窓から何かがひょいっと入って来た。
「ぴゃっ!!」
思わずおかしな声を上げながらぽすっと尻餅をつく。窓枠を越えるようにして入り込んできたのは、どうやら長身の男性のようだった。
尻餅をついた僕に気が付いてあわあわする気配を感じる。恐る恐る視線をその人の顔の辺りまで上げて正体を確認。きらりと輝くローズマダー色の瞳を見てくわっと目を見開いた。
「ローズ……?どうしてここに……」
というか、どうして窓から……?ぽかんとした瞬間ぽんぽんと次々に浮かび上がるハテナ。
ハテナの原因である彼は普通にスンとした無表情で立っていて、とてもついさっき窓から侵入してきたようには見えない。皇宮の使用人に見られたらあわあわとんでも案件なのに。もっと慌てないとだめだよローズ。
「……フェリアル。と、侍従か。お前達、わざわざ皇宮に来るとは珍しいな。何の用件だ」
「いやいや、サラッと見抜いて見過ごしてますけどダメでしょ治安部隊長。すっごい怪しいでしょう今の俺。いやよくよく考えたら貴方もめっちゃ怪しいですね」
淡々とした語り口のローズ。影からの声の通りサラーッと見抜いて見過ごしていることに一瞬気が付かなかった。口調が淡白すぎる。
流石のシモンもツッコミどころが多すぎるせいで追い付かないらしい。ローズに普通に見抜かれたことで隠れるのが馬鹿らしくなったのか、シモンが影の中からにょろにょろと現れた。
影からにょろっと人が現れるというあわわ事態にも関わらず、ローズは眉一つ動かさない。少しはローズのことを理解出来るようになったと思っていたけれど、それは思い込みだったらしい。
トラードがいないとローズとの交流がかなり難しい。その無表情、一体どんな心境なんだってばよ。
「アランに会いにきたの。一緒にお茶を飲む約束をしてたから。ローズはここで何してるの?」
無駄をとことん省くローズだから、とりあえずぽんぽん浮かぶハテナは全て無視して質問に答える。あまり会話がぐだぐだすると、ローズはちょっぴり退屈そうにする傾向にあるのだ。
そしてその判断は正しかったようで、ローズは柔く目を細めて低く答えた。
「……人身売買の組織を壊滅させた。その報告を皇帝に。と思ったが、どうやら未だに怪我が癒えないようで面会不可能だった」
人身売買の組織、というのはもしかして、ヴィアス領でも遭遇した彼らのことだろうか。組織というからにはかなり難しい任務だろうに、この短期間で壊滅まで遂行してしまうなんて。
改めてローズの強さを思い知りつつ、ここへ来た用事の内容に納得してふむふむと頷く。どうやら陛下に会えなかったようなので、代わりにレオに報告書を渡しにきたらしい。確かに、例の人身売買事件を解決しようと初めに動いたのはレオだったらしいし、それならレオに渡した方が良いかも。
と、そこではてと疑問。今いる場所は皇太子宮から真逆……かなり遠い所だけれど、ローズはどうしてこんな場所にいるのだろう。それに、窓から侵入してきた理由をまだ聞いていない。
そんな疑問がありありと顔に浮かんでいたのだろう。ぱちくり瞬く僕を見下ろしたローズは、珍しく視線を彷徨わせてしょんぼりと眉を下げた。
「……迷った」
淡々とした低音で紡がれた予想外の言葉。しょぼくれた子供みたいにツーンとした表情を浮かべるローズを見て硬直。いまなんて……?
びっくり仰天してぱちくり瞬く僕とシモンに何を思ったのか、ローズは照れ隠しみたいに口元を一度覆ってキッと睨み付けてきた。こわい。
「……何だ。迷ったと言っているだろう。二度言わせるな。迷ったんだ。皇宮が無駄に広い所為で」
……もしかして、ローズは俗に言う方向音痴さんなのだろうか。意外……いや、意外でもないかも。ローズはこう見えて、かなり天然さんなところがあるから。
トラードがローズの天然な部分を常に補っているから、普段は分かりにくいけれど。こういう一人の時のローズは結構甘い。ローズの極端なまでの冷静さは、トラードがいることによって初めて完璧に完成するのかもしれない、なんて不意に思った。
「……む、うむ。たしかに、皇宮広いよね。迷っちゃうよね。うんうん」
「フェリアル様もよく迷いますもんねぇ。ていうか、今ちょうど絶賛迷子の最中でしたもんね」
「シモン、しーっ」
人気のない廊下に来ちゃってあわあわしていたの、シモンに気付かれていたのか。むねん……。
あわわな感情を隠して歩けていたと思っていたのに、まさか普通に悟られていたなんて。気付いていたなら声を掛けてくれてもよかったのに。シモンの意地悪。ふん。
「トラードは一緒じゃないの?」
華麗に話題を逸らして気になる質問をぶつける。ローズはこてんと首を傾げて、数秒後に「あぁ」と思い出した様子で答えた。
「……トラードは迷子だ。俺は迷子のトラードを探していた。俺は別に迷子ではない」
「なるへそ」
さっきと言っていることが違う気がするけれど……ぬーん、気がするだけか。気のせいだ、うむ。
トラードが迷子だなんて心配だね、不安だねと眉を下げてうむうむ。ローズの手を引いて「一緒に探してあげるー」と歩き出す背後で、シモンが何やらボソッと呟いた。
「何だろう、フェリアル様と同じ匂いがする……」
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