余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

383.学園とお勉強

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 たぶん、これが本当の日常というものなのだろう。
 迫り来る運命から逃れる策を考える訳でもなく、諦める為の覚悟を決める訳でもなく。
 或いは神に選ばれた聖者と悪役が対峙する訳でも、平穏な日々を求めて彼らが戦う訳でもない。

 朝日に照らされて、目が覚めて、何気ない会話を大切な人たちと楽しんで、美味しいものをたくさん食べて、そうしてまた同じような日を迎える為に眠りにつく。
 これが、僕がずっとずっと求めていた平穏というものなのだろう。




「ローズ、また先生になってくれてありがとう」


 公爵邸での授業終わり。とっても厳しい先生の教えに耐え抜き、今日の勉強が終了した後。
 ライラックの髪を靡かせる先生にとてとて近付き、いつも通り深いお辞儀をしてありがとうを告げた。

 先生が振り返る。ローズマダー色の瞳をスッと細めて、柔い目尻に皺を作りながら彼が小さく頷いた。


「……あぁ。だが月に二度程しか出来ないのは……申し訳ない」

「ううん!ローズは忙しいし、騎士さまだもの。僕の方こそ、忙しいのにごめんなさい……お休みしたかったら遠慮なく言ってね」


 ローズは治安部隊の隊長さん。本当ならとっても忙しくて休みなんか取れないくらいの騎士なのに、僕が無理を言って教師になってもらったのだ。
 ごめんなさいをするのは僕の方。でも実際、数人いる教師の中でもローズが一番厳しくて、知識を一度の授業にたくさん叩き込んでくれるから。

 目標達成のためにはローズの教えが必須。
 その代わり、ローズの授業は月に二度という少なさ。とっても少ないけれど、その分気が引き締まって大切に授業を受けることが出来る。


「僕、ローズの授業とっても好き。いつも本当にありがとう、ございます。ローズ先生」


 やっぱりなんだか擽ったい呼び方。もじもじしながら先生と口にすると、ローズはほんの微かに口角を上げて僕の頭を優しく撫でた。

 こういうローズを見るのも、最近で何度目だろうか。常に無表情の顔に浮かぶ微笑。初めの頃からは考えられない変化だ。
 ローズも随分変わった。一度目とは大きく異なる人間になった。こうして微かでも笑うようになったし、家族をこれまで以上に大切にするようになった。
 何より、暗殺者をやめて騎士になったのは一番の変化と言えるだろう。

 こういうローズが見られるのは、運命なんてものを全て退けた今世だけ。
 そう思うと、やっぱりおかしな感覚に襲われる。最近よく感じるこの感覚。運命に囚われない変化を見ると、なんだか……。


「……今の成績を見る辺り、問題無く目標を達成出来るはずだ。これからも……頑張れ」


 なでなで。頭を撫でる手があんまり気持ち良いものだから、思わずちょっぴりだけ眠くなってしまった。こっくりこっくり。

 目を細めてぬくぬくを堪能していると、不意にローズが膝をついて僕の胸元を覗き込んだ。なんじゃろかと瞬いて視線を追うと、そこには薔薇色のブローチが。
 ブローチに軽く触れてうむと頷くと、ローズはまたまた僕の頭をわしゃわしゃ撫でて低く語った。


「……何処へ行くにもブローチを外すな。お前は容姿が整っているから、馬鹿共に狙われ易い」

「うん。ブローチありがとうローズ。絶対外さないようにする!」


 容姿が整っているなんて。えへへ。
 いつもは淡白なローズに褒められてにこにこ。胸がぽかぽか。真剣に心配してくれているのは勿論分かるから、きちんとうむと頷いた。

 他でもない治安部隊長の……最恐の暗殺者のブローチだなんて、きっと効果ありまくりだ。
 これを持っているだけでも、大半の怖い人たちは近づいて来ないはず。その言葉にほっと一安心した。
 確かに、僕は外に出るとよく怖い人たちに絡まれる。たぶん貴族の子だから、お金目当てに狙われるのだと思うけれど。このブローチがあるから、今は外に出るのも怖くない。


「お勉強も頑張るね。来年には行けるといいなって、思ってるから」

「……あぁ、頑張れ」


 ブローチに触れながら、ローズを先生にしたいと望んだ経緯を思い出してぐっと背筋を伸ばす。
 頑張らないと。目標を達成するために。



 * * *



 ローズのお見送りを済ませて、相変わらず沢山届くお手紙の確認のために自室へとことこ。
 シモンは掃除中かな、と思いながら辿り着いた部屋の扉を開くと、途端にワッと賑やかな空気が飛び出してきた。


「いやだクマいやだクマ!クマもついてくクマー!」

「お前はデカすぎるぴょん。行けるわけないぴょん」


 ちっちゃな子供が駄々をこねるみたいに、地面に仰向けに寝転がって手足をバタバタドテドテする大きな体躯。
 もふもふのおっきなクマくんに駆け寄り、今度はどうしたのと問いかける。するともふもふの二人が顔を上げて、僕の足元にもふっと抱きついてきた。

 ぐすぐす泣くクマくんの代わりに、冷静なウサくんがスンと状況の説明をし始める。ありがとウサくん。


「フェリくんが学園に入学するって噂を聞いたぴょん。そしたらこのお馬鹿クマ、クマもついてくって騒ぎ出したぴょん。非常に迷惑ぴょん」


 もうそんな噂が!とちょっぴりびっくり。
 でも、突然教師や授業数を増やしたりしたら確かにバレてもおかしくないかも。納得して床に膝をつき、しょぼんと伏せるクマくんをよしよし撫でてあげた。

 ぺたんとなっている丸い耳をなでなで。もふもふの体をなでなで。元気だしてクマくん。


「二人とも、知ってたんだね。学園のこと」


 学園のこと。この世界と二年のズレがある僕は、同い年の友達と一緒に入学することが出来ない。
 それならせめて、とふと思ったのが最近のこと。

 アディくんやアランが在学している間に入学したい。
 先輩後輩という立場にはなってしまうけれど、友達と学園で遊ぶというアレをしてみたい!と最近強く思い始めたわけである。うむ。
 かなりギリギリになってしまうかもしれないけれど、頑張りたい。頑張る。ローズに無理を承知で先生を頼んだのは、その目標を達成する為というのが理由だ。


「クマくん。クマくん。ごめんね。クマくんは連れて行けないかも。みんなが、怖がっちゃうかもしれないから……」


 ちょっぴり言い難いことをもごもご。
 見た目は完全に肉食の熊なクマくんは、たぶん絶対認められないと思う。悲しいことに。だから、クマくんを連れていくことは出来ない。
 ウサくんはまだぬいぐるみとして誤魔化せそうだから、もしかしたら連れて行けるかもしれないけれど……クマくんはやっぱり、ちょっと……。

 ぬーんと目を逸らす僕を見上げ、クマくんが全てを察した様子でうわーんクマ!と泣き始めた。


「ぴえんクマぴえんクマ!どうせクマは可愛くないクマー!」

「クマくん。クマくんはとっても可愛いよ。素敵で、かっこいいよ。よしよし。もふもふ」


 まずはクマくんのご機嫌取りをしないと、説明もお話も出来そうにないな。
 もふもふなでなで。元気だしてクマくん。かわいいクマくん。もふもふなでなで。
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