余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

384.結末のその後

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 クマくんの説得を何とかこなして、手紙を確認して、学園入学のための勉強をして。
 何だかちょっぴり気の抜けた日々を同じように繰り返し、気付くと神界から戻って随分な時が経っていた。

 最近の世間の興味はほとんどが大公家へ注がれている。あの有名な北部の悪魔が大公位を退き、息子にその座を継がせるという大ニュース。皆が注目するのも当然だ。
 一度目の人生なら、民の興味と信仰は毎日のように聖者へ注がれていただろうに。今となっては聖者の名を挙げるものすら居なくなり、二年前の大事件も風化しつつある。神が関わった大事だったというのに、世間というのはいつの世も淡白なものだ。

 帝都のシンボルだった純白の大神殿もとうに取り壊されて、そこは現在帝都の第二の大広場になっている。真ん中には聖者と僕の件の石碑があり、例の銅像とやらは広場の中心に設置される予定だ。目立ちそうで今から照れ照れである……。

 でも、そうか。もう二年も経つなら、皆の中で大分風化していても何らおかしくない。僕にとっては、全てがついこの間のことのように思えるけれど。
 いや……きっと僕が二年過ごしても、今と同じことを考える。ついこの間のことのように思えるって、何年経ってもずっと。だって僕は、数千年も前の一度目の人生を、今でも確かに覚えているのだから。
 何か事がある度に、誰かが動く度に、重なって見えたり、変化を不思議な感覚で見届けたり。

 けれど、風化というのは確かにある。現に僕は百回分の人生の記憶を殆ど失っているし、前世に関してはもうほぼ覚えていない。どんな暮らしをしていたか、どんな世界で、どんな家族と暮らしていたかも。
 きっとこうして忘れていくんだろうな。あれだけ嫌った彼のことも、きっといつかは吹っ切れて……。



 * * *



 色々なことをぼーっと考えた。バルコニーのソファで少しひと眠りして休むつもりが、青空を見つめていたら突然思考が勝手に巡った。だから、ただぼーっと。
 視界に映る雲は、気付くと全て形が変わっていた。雲がこんなにも流れて移り変わるまでぼーっとしていたなんて。そろそろ起きて勉強でもしようかなと思い立ったその時、不意に空を遮るようにして綺麗な顔がドアップで現れた。


「あ。フェリアル様。目が覚めたんですね」


 掃除終わりましたよ、と言って覗き込んできたのは、柔らかく微笑む大好きな侍従。
 ずーっと微動だにせず無言で考え事をしていたから、昼寝中だと思われていたのか。確かに部屋からだとソファに寝転がる僕の足と頭の先しか見えないだろうし、そう思われても仕方ない。
 特に否定する理由もないのでこくりと頷き、のそのそと起き上がった。


「シモン、お掃除お疲れさま。グリードが来るの待って、お疲れさまのお菓子食べよう」


 グリードもそろそろ修行から戻ってくる頃だよね、と思い出しながら言うと、シモンは短く返事をして部屋へ戻っていった。
 何だかわくわくした様子だったけれど、そんなにお菓子タイムが恋しかったのかな。ちょっぴりくらいつまみ食いしちゃっても怒らないのに。シモンは真面目ね。


「……」


 立ち上がって、ふと庭園を見下ろす。いつも通り柔らかな風で揺れる花々たちを見下ろし、じわりと胸に滲んだ感情は。

 なんだかしんみりしてしまいそうな気がしたから、慌てて首を振って部屋へ駆け込んだ。カチャカチャと小さく音を鳴らしながら紅茶とお菓子を用意するシモンをぼーっと眺めながらいつもの椅子へ。
 よっこらせと座った瞬間、不意に大切なことを思い出してハッと顔を上げた。そういえば。


「シモン。誓約はいつする?」


 ビクゥッと震えるシモンの肩。まさか覚えていたのにわざと黙っていた……?と訝しく思いながらジトッと眉を顰めると、引き攣ったニコニコ笑顔を浮かべたシモンが振り返った。


「……覚えていましたか」

「むっ、覚えてるに決まってるでしょっ」


 案の定の言葉にむんっと頬を膨らませる。あわよくばそのまま忘れてくれたら……なんて思っていたってこと?その手には乗らないんだからね。ふん。
 ふんすふんすの足ぷらんぷらーんをする僕の元に慌てて駆け寄り膝をつくシモン。紅茶を零さないよう持っていたカップを丁寧にテーブルへ置いてあわあわと弁明を始めた。


「ち、違うんです。約束を破ろうなんて考えてませんからね!ただその……急がずとも、全て終わった後でも良いのではないかと……」

「終わったあと?」


 全てとは一体なんのことだろう。はてと首を傾げる僕に眉を下げて微笑むと、シモンは隣の椅子に腰掛けて僕の頭をぽんぽん撫で始めた。むっ、やめたまえ。眠くなってしまう……。


「もう直ぐ公子の大公位継承もありますし、その時に恐らく婚約の発表も……。俺との誓約は、その後でも良いんじゃないかなと……」


 さっきよりも詳しい説明にふむふむと頷く。頷いて、むっと眉を顰めた。
 なるほどなるほど。シモンはつまりこう言っているのか。仮にいま誓約をしたとして、婚約までに万が一のことが起こったら?万が一というのはつまり、シモンの身に何か起きたりだとか色々。
 この大事な時にリスクを増やすようなことをするのは避けるべきだと、シモンはそう言っているのだ。

 確かに一理あるけれど、けれど……むぅ。なんだか不満だ。むぅむぅだ。
 でも、シモンの心配も理解出来る。誓約はどうせ絶対にするのだし、確かに今でなくても良いか。誓約を交わすまでしっかり自分のこともシモンのことも守って、無事に誓約を済ませて、その先は僕がシモンを守ればいい。うん、なにも変わらない。


「……わかった。それじゃあ約束。全部終わったら、ぜったい誓約する」

「もちろん。約束です」


 小指を絡ませて指切りげんまん。うむ、約束もしたことだしおけおけ。この件はとりあえず解決。
 さてと改めてお菓子もぐもぐしようかねと力を抜いた直後、不意に騒がしい気配が近付いて扉が勢いよく開かれた。


「姫!これ見ましたぁ!?」


 キラキラと瞳を輝かせて飛び込んできたのは尻尾をぶんぶん振ったグリードだった。どうやらようやく修行が終わったらしい。お菓子一緒に食べる?もぐもぐ。
 お菓子タイムのお誘いをしようとする僕の元へ素早く駆け寄り、グリードが何やら新聞を取り出してバッ!と大きく広げた。なにごとかね、もぐもぐ。

 視界に大きく現れたのは大々的な見出しと大きく描かれた誰かに似た銅像の絵。どうやら通常のものではなく号外みたいだ。珍しい。
 なんて、のほほんと考えながら見出しに書かれた文章を読んだ瞬間、サーッと顔が赤らんだ。青褪めたのではなく、真っ赤っかになったのだ。


「姫の銅像、完成したらしいっすよ!早速見に行きませんか!?」


 興奮した様子のグリード。すぐに断ろうとしたけれど、横目でシモンのぱあぁっと輝いた表情を見て諦めた。こりゃあ引っ張ってでも連れていかれそうな予感がするでござる。しょぼん……。
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