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14,出会い
しおりを挟むと、まぁ……結論から言おう。
────迷った!!!!
皇宮内を探検していたら楽しくなってきちゃって、思わず駆け足で歩いてしまった。
体が小さいので人混みをスルスルッと抜けて歩いていたが失念していた、エリル達は大人で、しかも体格も大きいことを……。
ふと振り返ったら二人はいなかった。
そういや途中で「シルビオ様、お待ちください!」とかなんとか叫ぶ声が聞こえたような聞こえなかったような……まぁいいや!こうなっちゃったもんは仕方ない、うんうん。
辿り着いたのは皇宮内にしてはかなり素朴な中庭だ。
方角の問題なのか日があまり差しておらず、全体的に影になっていて暗い。
周りを回廊で五角形にぐるりと囲まれているようだ、これならちょうど真上に太陽が来ない限り明るくなることはまずなさそう。
「……ふむふむ」
でも結構……好みの庭かも!
大抵はめちゃくちゃ手入れされてスッキリした感じの庭がほとんどだろうけど、ここは何と言うか、いい意味でごちゃついている。
背の高い植物が多いからかな。色の鮮やかなものより緑が目立つ庭だから余計そう思うのかも。
「ほうほう。なんか秘密基地っぽい雰囲気……いいっ!」
ふわぁぁ!と眺めながら庭の中へ入っていく。
日陰が多いからかコケもたくさんだ。草木を潜るように通り抜けて真ん中へ出る。
素朴でちっちゃな噴水が真ん中に置かれ、その周りだけ背の高い草木は取り除かれていた。
ゴロゴロと散らばっている石に注意しながら真ん中まで行くと、ふいにガサッと音がした。
「──何者だ」
「うわぁっ!」
びっくりして仰け反ってしまった。後ろに倒れそうになったのを直前で堪える。
突然聞こえてきたのは低い美声だった。けどどこか幼さもあって、声音的には兄様と同じ年齢っぽい。
「あ、あのぅ。僕、迷っちゃって……どこにいるの?」
とりあえずどこにいるかだけ教えてくれ。
声は聞こえたけど場所が分からない。近くにいることは確かなんだけど……。
聞こえるのに見えないっていうのが一番怖い。
ビクビクしながら状況を伝えて更に問いかけると、声の主は返事をせず沈黙した。
なんだろう、聞き方が悪かったのかな、もしかして聞こえなかったとか?声小さかったかな、もう一回聞いてみる?
と思ったが、その必要は無かったらしい。
「──……」
「……?おわぁっ!!」
びっくりした、ぬるっと出てきた!!
どこからともなく現れたその青年……いやギリギリ少年か?少年はやっぱり兄様と同じくらいの年齢の子だった。
顔立ちがものすごく整っている。どこか冷徹な印象のある美形の彼は、兄様に負けず劣らずといった感じの絶世の美少年だ。
太陽みたいにキラキラしている金髪もとっても綺麗。
それからなんとなく既視感がすごい紅い瞳……そうだ、ルーと同じ色の瞳なんだ。
ルーと同じ色の瞳を細めて、その少年は少し距離を置いた場所から見つめてくる。いや、睨んでいる……?
警戒する猫みたいな動きだ、ますますルーに似て見える。
「お兄さん、だれですか?」
「……お前こそ名を名乗れ」
イケメンのお兄さんに尋ねると、めちゃくちゃ警戒するような目を向けられた。
むぅ、それもそうだな。名を聞く前にまず自分が名乗る。常識だ。
「これは、えっと、失礼しました。僕はフレンセン公爵家の次男、シルビオです」
「……シルビオ?あぁ、ランベルトの弟か」
「むっ!?兄様のご友人なのですか!?」
「あ?ふざけるな。あの腹黒野郎と友人など笑わせる」
心外だとばかりに吐き捨てたお兄さんに首を傾げる。
誰かと勘違いしているのかな……兄様はイケメンで優しい最高の兄様なのに。
というか、"ランベルト"って。
公爵家の嫡男である兄様を名前、しかも呼び捨てで呼ぶってことはかなり格の高い貴族だ。
照れ隠しかな、これは本当に兄様の友人説が濃厚になってきたぞ……。
腹黒野郎なんて冗談まで言える仲だ。なんだよ兄様、親友がいるなら教えてくれたっていいじゃんかよぅ。
「部屋から出られないほどの病弱と聞いたが、こんな場所にまで来て問題ないのか」
「うん?兄様が言ったのですか?そんなに病弱じゃないです、元気な日は屋敷の庭を散歩しています」
「……それだけか」
「それだけってぇ!」
僕にとっちゃ散歩が最大の運動なのにぃ。
仕方ないだろう、そもそも行動出来る範囲が屋敷の敷地内だけなんだから……。
ぷんすかぷんすかと頬を膨らませる僕に、何がおかしかったのか少年は「ふっ」と悪戯っぽく笑った。
思わずと言うように零れたその笑い声に目を見開く。無表情……というか仏頂面がデフォルトっぽい彼だから、笑った顔にちょっとばかし驚いた。
このお兄さん、えらく大人びて見えるのに、笑うと年相応に幼く見えるんだなぁ。
「……お前、よく俺と話せるな。怖くはないのか」
「む……?こ、こわい??」
なんだってんだい、なにが怖いってんだい?
僕はただ普通に話しているだけだ。会話することの何が怖いと言うのか。
頭の上にぽんぽんっとハテナを浮かべてきょとんとする。
心の底から疑問しかない僕の顔を見て、何故かお兄さんは驚いたように目を見張った。見張ったって言っても、ちゃんと見ないと分かんないくらい表情の変化はないけど。
「……俺の、目だ。紅い瞳、怖くはないのか」
「!?」
なにっ、なんだと!?それは僕への挑戦かこのやろー!
紅い目を貶すのは許さんぞ、ルーを貶すのと同じだからなっ。
キラキラ輝くルビーみたいに、真っ赤な薔薇みたいに綺麗な瞳が怖いだなんて意味がわからない、怖いとか思う奴の感性を疑うぜ、ふんっ。
ぷくーっと頬を膨らませたまま、僕は出来る限りの全力で彼を睨んだ。
スタスタッと近付くと、流石に慄いたのか少年が後退った。
目の前にどーんと仁王立ちして両手を挙げるが、少年の背が高くて届かない。無言でぴょんぴょん跳ねると、困惑した表情で少し屈んでくれた。
それを逃さないっ!僕は思いっきり少年の両頬をぱしーん!と挟んでやった。
あまり変わらなかった表情の変化が明確になる。
彼は無表情を取っ払い、大きく目を丸くした。
「とっても綺麗な瞳でしょ!まさかとは思うけど!お兄さんは薔薇を見て怖いと思うの?」
「なッ、俺の瞳を薔薇に例えると言うのか……!?」
「ちっがーう!薔薇よりもっともーっときれい!僕は薔薇がすき!だから薔薇より綺麗なお兄さんの瞳もだいすき!だから怖いなんて意地悪なこと言わないで!」
「っ……──!」
彼の体から力が抜けたのが何となく分かって、僕は両頬を挟んでいた手を離した。
大きくふらついてお兄さんがへなへなと座り込む。と思ったら、今度は何故か僕をギューッと抱き締めてきた。
「お、お兄さん?」
「……その言葉」
「うん?」
ボソッと耳元で囁かれる。
「……その言葉に、嘘はないな」
「んー?もっちろん!嘘つく必要ある?」
膨れて答えると、耳元で「ふはっ」と笑い声がした。悪戯っぽいものでもなんでもなくて、純粋な笑い声だ。
彼はそっと顔を上げて、真っすぐに僕を見た。
「シルビオ、覚えておこう」
浮かんだ笑みはとっても優しい。
紅い瞳はやっぱり、キラキラ光って綺麗だと思った。
***
「あれ?そういえばお兄さんの名前は?」
あれから何分経ったか分からないが、彼はずっと僕を抱き締めたままじっとしていた。
なんかすっごいボーッとしてた。初対面のお兄さんに抱き締められているのに抵抗もしないとか、流石に警戒心薄すぎないか、僕。
まぁでも相手は子供だし。前世も合わせたら僕よりちっこい子供だし。これで抱き締めてきたのがおっさんとかだったら全力で逃げてる。だから問題なし!
「あ?言っていなかったか?」
「言ってないねぇ」
お兄さんだれ?→自分から名乗れ→シルビオだよ!→ハグ(?)だからな。文字に起こすとどういう状況だよ。
むーんと悩む僕とは裏腹に、彼は至ってあっさりとした様子で「そうだったか」と頷いた。
「ルーカ……いや、"ルー"だ。ルーと呼べ」
「ルー!?」
「んぁ?あぁ。なんだ、何か文句でもあるのか」
「い、いや、ううん。ルー、"ルー"ね。よろしくルーお兄さん!」
「お兄さん?なんだその気色の悪い呼び方は……ルーでいいと言ったろう、ルーだ」
「ルー?」
「……ん」
びっくりして目ん玉が飛び出そうになった。
ルーって!名前まで僕の猫ちゃんと同じ!これもう運命じゃない??
なんてキラキラした目で考えながら、目の前の美少年を眺めて「ルー」と呟いてみた。
すると彼の紅い瞳がゆるりと細まり、口角も小さく上がる。
「なんだ?」と淡い笑みで尋ねられ、思わず「くはっ」と心臓を抑えた。イケメンだ……イケメンの笑顔は心臓に悪い……。
とまぁ、一人茶番を繰り広げていただけなのだが、膝をついた僕を見下ろしルーは焦ったようにあたふたしだした。
「どうした、痛むのか……!?」と聞いてくるルーに慌てて立ち上がる。
そうだそうだ、そういえば彼は僕がよわっちい体なのを知ってるんだった。
「なんでもないよ!ルーの笑顔がとってもすてきだったから、びっくりして倒れちゃいそうになっただけ!」
「な、お、俺の笑顔が……って……あ?俺は、笑っていたのか……?」
ボンッと赤く染まった顔がすぐに不思議そうなものに変わる。
本当に不思議そうにするから、僕もどうしてそんな顔をするのか分からず首を傾げた。どうしたんだろう、ルーの笑顔はほんとにカッコよくて素敵なのに。
「……ふ、ははっ」
「はっ!笑った!すてき!すてきな笑顔!」
年相応と言える笑顔だ。意地悪でもなく影もない、ただ溌剌とした。
それが何故か自分のことみたいに嬉しかったから、僕は両手を挙げて喜んだ。
満面の笑みを浮かべる僕に何を思ったのか、はっとしたように目を見張ったルーは、直後一瞬泣き笑いみたいに顔を歪める。
すぐに表情は元に戻ったから気のせいかな……と思った次の瞬間。
ふいにルーがまた僕を抱き締めてきた。
「うわぁっ!ル、ルー!?」
さっきみたいにじっと抱き締めるんじゃなくて、今度は抱え込むみたいに力強く。
突然高くなった視界に驚いて、思わず「わ、え、えぇ!?」と間の抜けた声を上げてルーの肩にしがみついた。
「……また、ここに来るか?」
突然の問いかけ。急にかけられた疑問だったから、返事をするのが何拍か遅れた。
「へ?き、きていいの?」
皇宮に来たのは初めてだし、また来たいと言って来られるかどうかは分からない。
今日が特別だったからなぁ。兄様がいなくて退屈していた僕を見かねて、両親が渋々連れてきてくれただけだし。
ていうか忘れてたけど、僕いま迷子なんだよ。このことが母上と父上に知られたら二度と連れてきてもらえない可能性大だ。
……いや、もし説教の場に兄様がいたら二度と外に出さないという結論も出てたかも……ガクブル。
「ううむ、どうだろう。僕の家族がすっごく心配性だから、来ちゃダメって言われちゃうかも」
「そうか。確かに、体の弱いお前に無理はさせられないな」
僕がうーんと考え込みながら答えると、どこか残念そうに頷きながらルーが言う。
けど納得したような口ぶりだから一応ほっと息をついた。よかったよかった、分かってくれて……──
「なら、俺の方から会いに行けば問題ないな」
うえぇぇ!?
なにその結論!まぁたしかにって感じの答えだけども!
そ、そうか!僕が会いに行けないならルーが会いに来る……単純だけど全然頭になかった方法だ。
でもそれは難しいぞ……うちガード固いから。
過保護ファミリーたちが屋敷の敷地内にルーが入ることを許すかどうか。
「そ、それは嬉しいけど……たぶん、家のみんなが許してくれないかも?」
「それは分かっている。バレたらあの腹黒野郎がうるせぇからな」
「ん?なにかいった?」
「いいやなんでも」
おかしいな。ルーが何か呟いたような気がしたんだけど。
思わず問いかけるが、やっぱりルーは何も教えてくれなかった。代わりに悪戯っぽく笑って、抱き上げていた僕を地面に下ろす。
なでなでと頭を撫でながら、ルーが語った。
「大丈夫だ。誰にも言わず、バレず、こっそり会いに行ってやる」
「こっそり?そんなことできるの?」
不安を表情に浮かべ問いかける。
それは無理じゃないかなぁ……だって公爵家だよ?忘れてない?僕の家公爵家だからね?
セキュリティどれほどだと思ってるのさ。
めちゃくちゃガードが固い上に、敷地を覆うように父上の結界が張り巡らされいてる。
ちなみに結界についてはつい最近知った。
しかも僕の部屋の前には常に護衛が立っているのだ。父上が選んだ超強い護衛がね。
こんなのどう足掻いても会いに来られるわけがない。
と、一通り自分家の固すぎるガードを思い起こしてから、諦めの表情でルーを見た。
ルーを見て、目を見開く。だって彼はあまりにも冷静な様子で、なんてことないみたいに笑ったから。
「すぐに分かる。とにかく待っていろ、必ずシルビオに会いに行く」
「そ、そっか……?僕も会いたいから、楽しみにしてるよ……?」
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