何度時間を戻しても婚約破棄を言い渡す婚約者の愛を諦めて最後に時間を戻したら、何故か溺愛されました

海咲雪

文字の大きさ
2 / 24

8歳の私、7歳の妹

しおりを挟む
「・・・様、ティアナお嬢様」

「・・・ん?」

カーテンから差し込む朝日と聞き寝れた声で私は目を開けた。

ベッドの横では、私の世話係のネルラが私を起こしていた。


10歳ほど若返った顔で。


「ネルラ、今の日付を教えてくれるかしら?」

「お嬢様、何故急にそのような質問を?」

「いいから」


「帝歴988年3月14日です」


婚約破棄された学園の卒業パーティは、帝歴998年3月14日。

丁度10年巻き戻ったということか。

コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。

「ティアナお嬢様、朝食の準備が出来ました」

執事長が、私にそう知らせてくれる。

「お父様は今日はいらっしゃるの?」

「いえ、ティアナお嬢様が起床される前にお仕事に出掛けられました」

お母様は妹を産んで後から体調を崩し、しばらくして亡くなった。


そして、お父様は私達姉妹に興味を持っていない。


代々フィオール家は時を司《つかさど》る能力を授かり、繁栄してきた。

そして、貴重な能力を持つ者の与えられる「聖女」と呼ばれる地位を独占し、権力を拡大してきた。

しかしお父様は権力にしか興味が無く、能力の強い人間を贔屓《ひいき》してきた。

私を唯一愛して下さったお母様は3歳の誕生日を迎えた私にこう伝えた。

「ティアナ、貴方の世界の時を戻す能力は、先代の聖女様がお持ちになった能力なの。そしてその能力は危険視され、能力を沈める枷《かせ》を付けられて、聖女様は生涯幽閉されたわ。どうか、その能力のことは誰にも言わないで頂戴。お父様にも、リアーナにも。ティアナ自身の幸せを掴んでくれることをずっと願っているわ」

その後、お母様が亡くなり私の能力を知る者は居なくなった。

権力にしか興味の無いお父様の愛は、「モノの時間を戻せる」能力を持つ妹リアーナが一身に受けるはずだった。


では、何故お父様はリアーナにも興味を持たれなかったのか。


理由は簡単である。

リアーナの力も弱かった。

「モノの時間を戻せる」と言っても、戻せるのはわずか数時間だった。

しかし、「モノの時間を戻せる」という貴重の能力によりリアーナは「聖女」と呼ばれた。

ただし「無能の聖女」と。

能力を隠し、能力のない私と「無能の聖女」リアーナ。

二人は仲良く力を合わせて生活していた。


私が第一王子であるロイド様の婚約者に選ばれるまでは。


私達姉妹は唯一の親であるお父様の愛に飢えていた。

そして、お父様は権力にしか興味が無い・・・つまり、第一王子であるロイド様の婚約者に選ばれた私をお父様は急に溺愛し始めた。

「無能の聖女」で有名なリアーナより、無能でもフィオール家の長女である私を婚約者に選んだ王家の判断は、私達姉妹の仲を壊し始めた。

リアーナはロイド様に愛されれば、お父様の愛も全て手に入れられると思ったのだろう。

リアーナは、ロイド様に近づき、愛を求めた。

可愛らしく、愛嬌のあるリアーナ。

ロイド様を愛していても、甘えることすら出来ない私。

ロイド様は卒業パーティで私に婚約破棄を言い渡し、リアーナと新たに婚約を発表した。

そして、愚かな私は自分の能力を使い、私利私欲のために時を戻した。

母が生きていた頃に、私に仰った言葉を今なら思い出せる。


「ティアナ、貴方の能力を使わないで欲しいの。だってもう戻れないと思うから、人は頑張れるし美しいんでしょう?」


今思えば、能力を使った自分は愚かだったのだと心底思う。

罰が下ったのか私には、もう力は残っていない。

最後の人生、悔いの残らないように生きたい。


「ティアナ様?」

ネルラが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「ああ、ごめんなさい。少し、考え事をしていたの。急いで準備して、朝食を食べに行くわ」

「・・・・ティアナ様」

「何かしら?」

「少し大人っぽくなられましたか?」

「あ・・・」

私は、今現在8歳。

実際は年齢が違うのだから大人びているのは当たり前だが、怪しまれては困る。

「あら、そろそろ私も淑女らしくなろうと思っただけよ?」

そう述べて、私はわざと子供っぽく胸を張って見せた。

「ふふっ、ティアナ様はまだ8歳ですよ。急がなくてもこれから先、立派な淑女になられるに決まっていますわ」

ネルラは私の着替えの準備をしながら、微笑んだ。

着替えを済ませた私は、リアーナが待つダイニングに向かった。

ダイニングに向かうとリアーナが私に駆け寄ってくる。

「ティアナお姉様、お早う御座います」

リアーナが私に礼をしてから、ニコッと可愛らしく微笑んだ。

14歳の時にロイド様の婚約者に選ばれたので、前の人生ではもうすでにリアーナと私は仲は壊れ始めていた。

リアーナに笑顔で挨拶をされるなどいつぶりだろう。

「お早う、リアーナ」

私は嬉しくて溢れそうになる涙を堪えながら、リアーナに笑顔で挨拶を返した。

姉妹で向き合って、食卓に座る。

二人で笑顔で会話をしながら、食事を取るのは久しぶりだった。

「お姉様、週末に一緒に街に出掛けませんか?最近新しいカフェが出来たそうで、私、お姉様と一緒に行ってみたいですわ!・・・あ、でも・・・」

リアーナが悲しそうに俯く。

「リアーナ?」

「私は「無能の聖女」ですから、街に行かない方がいいかもしれませんわ・・・」

リアーナは私の一歳年下で現在はまだ7歳である。

そんな幼い頃から「無能の聖女」と呼ばれ、陰口を言われる。

私も能力がないことになっていたとはいえ、「聖女」でありながら無能と呼ばれる妹ほど注目はされていなかった。

リアーナはどれほどの苦しみを抱えているのだろう。

前の人生でも、リアーナの苦しみにもっと私が寄り添ってあげれば良かったと今なら分かる。

14歳でロイド様の婚約者に選ばれ、お父様の愛を受け取り始める私をリアーナが妬ましく思ったのもおかしくないことだ。

「リアーナ、聞いて頂戴」

「お姉様?」


「私はリアーナが大好きだわ。どんなリアーナでもよ・・・週末、一緒に街に出掛けましょう。私もお洒落をして、リアーナと一緒に楽しみたいわ」


愛想が無かった前回までの人生の私は、リアーナに愛情をちゃんと伝えることも出来なかった。

最後の人生である今回は自分に素直に生きたい。

「お姉様・・・」

リアーナが目に涙を溜めながら、私の目を見つめる。

「私もお姉様が大好きですわ!」

リアーナが席を立ち、私に抱きついてくれる。

「こら、リアーナ。お行儀が悪いわよ」

そう言いながらも、私はリアーナを抱きしめ返した。

リアーナ、どうか一緒に幸せになりましょう?

そのためには、今回の人生ではロイド様に近づかないようにしないと。

そう決意した私は、リアーナをもう一度ぎゅっと抱きしめた。


まさか、あんなに早く私達姉妹がロイド様に会うことになるなんて思いもせずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

【完結】婚約破棄されたらループするので、こちらから破棄させていただきます!~薄幸令嬢はイケメン(ストーカー)魔術師に捕まりました~

雨宮羽那
恋愛
 公爵令嬢フェリシア・ウィングフィールドは、義妹に婚約者を奪われ婚約破棄を告げられる。  そうしてその瞬間、ループしてしまうのだ。1年前の、婚約が決まった瞬間へと。  初めは婚約者のことが好きだったし、義妹に奪われたことが悲しかった。  だからこそ、やり直す機会を与えられて喜びもした。  しかし、婚約者に前以上にアプローチするも上手くいかず。2人が仲良くなるのを徹底的に邪魔してみても意味がなく。いっそ義妹と仲良くなろうとしてもダメ。義妹と距離をとってもダメ。  ループを4回ほど繰り返したフェリシアは思った。  ――もういいや、と。  5回目のやり直しでフェリシアは、「その婚約、破棄させていただきますね」と告げて、屋敷を飛び出した。  ……のはいいものの、速攻賊に襲われる。そんなフェリシアを助けてくれたのは、銀の長髪が美しい魔術師・ユーリーだった。  ――あれ、私どこかでこの魔術師と会ったことある?  これは、見覚えがあるけど思い出せない魔術師・ユーリーと、幸薄め公爵令嬢フェリシアのラブストーリー。 ※「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※別名義の作品のストーリーを大幅に改変したものになります。 ※表紙はAIイラストです。(5/23追加しました)

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

謹んで婚約者候補を辞退いたします

四折 柊
恋愛
 公爵令嬢ブリジットは王太子ヴィンセントの婚約者候補の三人いるうちの一人だ。すでに他の二人はお試し期間を経て婚約者候補を辞退している。ヴィンセントは完璧主義で頭が古いタイプなので一緒になれば気苦労が多そうで将来を考えられないからだそうだ。ブリジットは彼と親しくなるための努力をしたが報われず婚約者候補を辞退した。ところがその後ヴィンセントが声をかけて来るようになって……。(えっ?今になって?)傲慢不遜な王太子と実は心の中では口の悪い公爵令嬢のくっつかないお話。全3話。暇つぶしに流し読んで頂ければ幸いです。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。

処理中です...