最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.

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第一章:「召喚と追放」

第2話:森の少女リア

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 森の夜は冷たかった。
 焚き火の火が小さく揺れ、黒い煙が梢へ細く昇っていく。
 篠原蓮は剣を膝に置き、疲れた体を木にもたせかけていた。
 魔物の血が乾いて鉄臭い。火の明かりが肌を照らし、泥の跡と傷の数を浮かび上がらせる。

 呼吸は荒く、腹は空っぽ。
 だが、生きている。
 《リサイクル》の力で折れた剣を直し、灯りをともした。それだけのことで、奇妙な実感があった。
 見捨てられたのに、終わってはいない――そう思えるだけで、胸の奥がかすかに温かい。

 焚き火の奥から、かさりと音がした。
 蓮は反射的に剣を取る。月明かりが木々を切り取り、銀の影が滑るように近づいた。

「……っ!?」

 獣の耳と尻尾――しかし、人の姿。
 長い銀灰色の髪が夜気に溶け、金色の瞳が警戒に光る。
 少女だった。

 背丈は蓮と同じくらい。
 肩から腰にかけて黒い毛皮のマントをまとい、腰には二本の短剣。
 全身が緊張の弦のようで、今にも跳びかかってきそうな気配を纏っていた。

「……人間、か?」

 低く、かすれた声。
 蓮は動きを止め、ゆっくりと両手を上げた。

「待ってくれ。敵じゃない」

 少女の耳がぴくりと動く。
 鼻をひくつかせ、火の向こう側で彼を値踏みするように見つめた。

「血の匂い。……魔物を斬ったな」
「ああ。落ちてきたら、囲まれてた」

「ふん。普通の人間なら死んでる。……その剣、どうした?」

 視線が蓮の手にある刃へ向く。
 折れていたはずの剣。いまは白銀に輝き、刃の根元に淡い紋が浮かんでいる。

「……壊れてたのを、直した」
「直した? そんなふうには見えない」

 少女が一歩踏み出した。火の光が彼女の顔を照らす。
 年は十六、十七。野生の気配をまといながらも、表情には人間の理性があった。
 その目の奥に、警戒だけでなく、かすかな興味が混じっているのを蓮は見逃さなかった。

「俺のスキル、《リサイクル》っていう。壊れたものを再利用する力だ」

「……そんなの、ただの生活魔法だろ」

「そう思ってた。でも、ただ元に戻すだけじゃないらしい。形を変えて、より強く……“進化”させられる」

 言葉にしてみて、自分でも信じられなかった。
 だが実際に、この剣は折れる前より軽く鋭い。魔物の皮膚を易々と裂いた。

 少女は腕を組み、火越しに彼を睨む。
「人間のスキルなんて、信用できない。あんたたちは、それで私たち獣人を追い出した」

「……追い出した?」

 蓮が聞き返すと、少女は鼻で笑った。

「知らないのか。人間は“加護を持たない者”を化け物扱いする。力を持たない獣人は、国から捨てられた。私たちはこの森の奥で生きてる。……生きるしかない」

 言葉に滲むのは怒りと諦めだった。
 蓮は拳を握った。胸の奥に何かが刺さる。

「俺も、似たようなもんだ。クラスの中で一番の“はずれスキル”で、追い出された」

「……ふん、人間に同情する気はない」

 吐き捨てるように言いながらも、少女は剣を収めた。
 火の向こう、じっと蓮の目を見据える。

「名前は?」

「篠原蓮。君は?」

「リア。――リア・フェンリル」

 名前を名乗った途端、風が一瞬だけ止まった。
 月の光が二人の間に落ち、焚き火の影が揺れる。

「フェンリルって……聞いたことがある。獣神の一族?」

「今はもうそんな立派なものじゃない。森の底で、飢えを凌ぐだけの“捨てられた民”さ」

 リアは座り、火の枝を足でつついた。
 蓮はその隣に少し距離を取って腰を下ろす。
 沈黙。夜の虫の声が、やけに鮮明に聞こえた。

「……手当て、しないの?」
「え?」
「傷。腕、血が出てる」

 リアが指差す。蓮の腕にはゴブリンの爪でつけられた浅い切り傷。
 火の明かりでじんじんと痛みが蘇る。
 リアは腰の袋から小さな小瓶を取り出した。中には青い液体が入っている。

「薬、だ。これを使え」
「いいのか?」
「礼なんていらない。見てられないだけ」

 瓶を受け取った蓮は、小声で「ありがとう」と呟いた。
 薬を塗ると、傷口が温かくなり、すぐに痛みが引いた。
 その不思議な効き目に驚きながら、リアの横顔を見る。
 獣の耳が火に照らされて微かに動く。
 鋭い目をしているのに、不思議と安心する雰囲気があった。

「リア、さっき言ってた“獣人の村”って、どんなところなんだ?」

「……廃村。昔は王国の支配下だったけど、今は誰も来ない。獣人は“役に立たない”って理由で迫害された。人間たちは家を焼いて、子どもまで奪った」

 リアの声は淡々としていたが、その指が火の枝を強く握っていた。
 蓮は黙って聞くしかできなかった。
 この世界では、“使えない力”を持つ者は捨てられる。
 それはまるで、今の自分と同じだった。

「……明日、村へ行ってみてもいいか?」
「は?」
「君の村。俺にできることがあるかもしれない」

 リアが目を細める。
「人間が何をするっていうんだ。あんたのスキル、ゴミを拾うだけだろ」

「ゴミを拾う。それでいいじゃないか。誰かが捨てたものを、俺が拾って、もう一度使えるようにする。――それが俺の力だ」

 焚き火の光が、蓮の目に映る。
 そのまっすぐな瞳に、リアは一瞬言葉を失った。
 やがて、小さく鼻を鳴らす。

「勝手にすれば。森の出口までは案内してやる。それ以上は知らない」
「十分だよ」

 蓮は微笑み、剣を磨き直す。
 夜風が枝葉を揺らし、火の粉が二人の間を舞った。

 ――見捨てられた者と、捨てられた民。
 奇妙な出会いは、やがて世界を覆す始まりとなる。
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