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第三章:「クラスメイトとの再会」
第29話:玲奈の動揺
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廃都メルディナの夜風は冷たく澄んでいた。
昼間、あの勇者・悠真が倒れた余韻が、まだ街全体に残っている。
静寂の中にあるのは、歓声ではなく、言葉にならない「ざわめき」だ。
――信じられない。あの勇者が、敗れた? それも、かつての「落ちこぼれ」に。
玲奈は、人々のそんな視線を避けるように路地裏を歩いていた。
胸の奥が痛む。あの瞬間の光景が何度も脳裏をよぎる。
悠真が聖剣を振るい、蓮が壊れた刃を手に立ち向かったとき。
昔と立場が逆転していた――あの時、心のどこかで“ざまあみろ”と思ってしまった。
その感情が、今はただの罪悪感に変わって、胸の中をじわじわと焦がす。
「……あたし、何をしてるんだろう。」
玲奈は、薄暗い路地に腰を下ろした。
街灯の光が、崩れた石壁の影を長く伸ばしている。
かつての自分が信じていた「正義」は、もう何処にもない。
悠真の隣で笑っていたあの頃――蓮を見下ろしていた自分。
全部、取り返しのつかない過去だ。
「……逃げてるだけじゃないか、私。」
そんな独り言を呟いたとき、風の匂いが変わった。
獣のような、でもどこか懐かしい匂い。
振り返ると、そこには狼耳を揺らした少女――リアが立っていた。
「おい、ひとりで何やってんの。こんなとこで腐ってる場合か?」
玲奈ははっと顔を上げる。
リアは腕を組み、じっと見下ろしていた。
その眼差しは鋭く、けれど不思議と温かい。
「……リア、ちゃん。」
「ちゃん付けやめろ。あたしはそんな柔い関係じゃねぇ。」
「……ごめん。」
沈黙が落ちる。
玲奈は視線を逸らし、両手をぎゅっと握りしめた。
「私ね……ずっと、間違ってたと思うの。
蓮くんを“弱い”って決めつけて、自分の居場所を守るために笑ってた。
本当は、怖かったんだと思う。自分が何も持ってないことが。」
リアはため息をついた。
「人間ってめんどくせぇな。……けど、あんたの言うこと、少しわかるかもな。」
「え?」
「うちら獣人も、弱ぇ奴は切り捨てられてきた。
でも蓮は違った。あいつは“壊れたもんを捨てねぇ”。
だから、あたしは信じた。あいつなら何かを変えられるって。」
玲奈の胸に、リアの言葉が深く刺さる。
壊れたものを、捨てない――。
かつて蓮を笑った自分には、その意味が痛いほどわかる。
もしあの時、自分が勇気を出して手を差し伸べていたら……。
蓮の目に、あの孤独な影は宿らなかったかもしれない。
「リア……蓮は、私を恨んでると思う?」
「さぁな。けど、あいつは“過去を捨てる”タイプじゃねぇ。
“再利用”するんだ。お前の後悔も、あいつなら意味を変えるかもしれねぇ。」
その言葉に、玲奈は思わず笑みを漏らした。
皮肉じゃなく、少しだけ救われた気がした。
「ありがとう……」
「礼なんかいらねぇよ。どうせ明日にはまたバカみたいに真面目な顔してるんだろ?」
「……ふふ。そうかも。」
リアが背を向ける。
その背中を見送りながら、玲奈はふと夜空を見上げた。
崩れかけた塔の上に、星が瞬いている。
――蓮は、あの星の下で何を考えているのだろう。
場面は移る。
廃都の中心部、再生された広場で蓮がセリナと並んでいた。
戦闘後の修復作業を終え、静かな夜気の中で話している。
セリナが手元の魔導具に光を宿しながら、言った。
「勇者の再起動、王国が動き出すでしょう。悠真は……ただの敗者で終わりません。」
「わかってる。だからこそ、今は“備える”時だ。」
「あなたは、優しすぎますね。玲奈という少女にも、手を差し伸べるつもりでしょう?」
蓮は小さく笑った。
「俺は“捨てられたもの”を拾うだけだよ。あとは……その先に意味があるかどうか。」
セリナが目を細めた。
「あなたという人は、本当に面白い。“再生”という言葉の意味を、誰よりも知っている。」
蓮は街を見下ろす。
灯火の向こうに、人々が少しずつ笑いを取り戻していた。
あの光は、確かに彼の力の象徴だった。
壊れたものを直し、捨てられたものを再び輝かせる力。
だが、それ以上に――人の心を繋ぎ直す力が、今は必要とされている。
その時、遠くで鐘の音が鳴った。
王国からの伝令だ。
「……動きが早いな。」
「ええ。勇者隊、再編の報せです。」
蓮は目を閉じる。
新たな嵐の気配が、すぐそこまで迫っていた。
だが、彼の胸の奥には確かな光がある。
“誰も捨てない”――その誓いが、いまも彼を支えていた。
玲奈は遠くの塔の上で、その光を見つめていた。
かつて見下ろしていたはずの男が、今は誰よりも遠く、そして眩しい。
頬を伝う涙を、夜風がそっと拭い去っていった。
――それは、過去を悔いる涙ではなく。
未来へ歩き出すための、最初の雫だった。
昼間、あの勇者・悠真が倒れた余韻が、まだ街全体に残っている。
静寂の中にあるのは、歓声ではなく、言葉にならない「ざわめき」だ。
――信じられない。あの勇者が、敗れた? それも、かつての「落ちこぼれ」に。
玲奈は、人々のそんな視線を避けるように路地裏を歩いていた。
胸の奥が痛む。あの瞬間の光景が何度も脳裏をよぎる。
悠真が聖剣を振るい、蓮が壊れた刃を手に立ち向かったとき。
昔と立場が逆転していた――あの時、心のどこかで“ざまあみろ”と思ってしまった。
その感情が、今はただの罪悪感に変わって、胸の中をじわじわと焦がす。
「……あたし、何をしてるんだろう。」
玲奈は、薄暗い路地に腰を下ろした。
街灯の光が、崩れた石壁の影を長く伸ばしている。
かつての自分が信じていた「正義」は、もう何処にもない。
悠真の隣で笑っていたあの頃――蓮を見下ろしていた自分。
全部、取り返しのつかない過去だ。
「……逃げてるだけじゃないか、私。」
そんな独り言を呟いたとき、風の匂いが変わった。
獣のような、でもどこか懐かしい匂い。
振り返ると、そこには狼耳を揺らした少女――リアが立っていた。
「おい、ひとりで何やってんの。こんなとこで腐ってる場合か?」
玲奈ははっと顔を上げる。
リアは腕を組み、じっと見下ろしていた。
その眼差しは鋭く、けれど不思議と温かい。
「……リア、ちゃん。」
「ちゃん付けやめろ。あたしはそんな柔い関係じゃねぇ。」
「……ごめん。」
沈黙が落ちる。
玲奈は視線を逸らし、両手をぎゅっと握りしめた。
「私ね……ずっと、間違ってたと思うの。
蓮くんを“弱い”って決めつけて、自分の居場所を守るために笑ってた。
本当は、怖かったんだと思う。自分が何も持ってないことが。」
リアはため息をついた。
「人間ってめんどくせぇな。……けど、あんたの言うこと、少しわかるかもな。」
「え?」
「うちら獣人も、弱ぇ奴は切り捨てられてきた。
でも蓮は違った。あいつは“壊れたもんを捨てねぇ”。
だから、あたしは信じた。あいつなら何かを変えられるって。」
玲奈の胸に、リアの言葉が深く刺さる。
壊れたものを、捨てない――。
かつて蓮を笑った自分には、その意味が痛いほどわかる。
もしあの時、自分が勇気を出して手を差し伸べていたら……。
蓮の目に、あの孤独な影は宿らなかったかもしれない。
「リア……蓮は、私を恨んでると思う?」
「さぁな。けど、あいつは“過去を捨てる”タイプじゃねぇ。
“再利用”するんだ。お前の後悔も、あいつなら意味を変えるかもしれねぇ。」
その言葉に、玲奈は思わず笑みを漏らした。
皮肉じゃなく、少しだけ救われた気がした。
「ありがとう……」
「礼なんかいらねぇよ。どうせ明日にはまたバカみたいに真面目な顔してるんだろ?」
「……ふふ。そうかも。」
リアが背を向ける。
その背中を見送りながら、玲奈はふと夜空を見上げた。
崩れかけた塔の上に、星が瞬いている。
――蓮は、あの星の下で何を考えているのだろう。
場面は移る。
廃都の中心部、再生された広場で蓮がセリナと並んでいた。
戦闘後の修復作業を終え、静かな夜気の中で話している。
セリナが手元の魔導具に光を宿しながら、言った。
「勇者の再起動、王国が動き出すでしょう。悠真は……ただの敗者で終わりません。」
「わかってる。だからこそ、今は“備える”時だ。」
「あなたは、優しすぎますね。玲奈という少女にも、手を差し伸べるつもりでしょう?」
蓮は小さく笑った。
「俺は“捨てられたもの”を拾うだけだよ。あとは……その先に意味があるかどうか。」
セリナが目を細めた。
「あなたという人は、本当に面白い。“再生”という言葉の意味を、誰よりも知っている。」
蓮は街を見下ろす。
灯火の向こうに、人々が少しずつ笑いを取り戻していた。
あの光は、確かに彼の力の象徴だった。
壊れたものを直し、捨てられたものを再び輝かせる力。
だが、それ以上に――人の心を繋ぎ直す力が、今は必要とされている。
その時、遠くで鐘の音が鳴った。
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「……動きが早いな。」
「ええ。勇者隊、再編の報せです。」
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だが、彼の胸の奥には確かな光がある。
“誰も捨てない”――その誓いが、いまも彼を支えていた。
玲奈は遠くの塔の上で、その光を見つめていた。
かつて見下ろしていたはずの男が、今は誰よりも遠く、そして眩しい。
頬を伝う涙を、夜風がそっと拭い去っていった。
――それは、過去を悔いる涙ではなく。
未来へ歩き出すための、最初の雫だった。
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