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第四章:「大陸統一戦争」
第58話:絶望と希望
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夜の大地が、軋むように揺れていた。
女神アリアの聖域が崩壊したその瞬間から、世界の秩序は静かに崩れ始めている。
空に浮かぶ月は薄くかすみ、星々は形を失い、風が流れを忘れた。
魔力の流れ――いや、“スキルの回路”そのものが、音もなく死んでいく。
「……世界が、止まりつつあるな」
篠原蓮は崩れた聖都の外壁に手を当て、微かに残る振動を感じ取った。
「魔素濃度が下がってる。空気の流れが不自然だ」セリナが魔導測定器を覗き込む。
「人間だけじゃない、森や獣たちの気配も薄くなってきてる」リアが耳を伏せた。
――神の加護を失った世界。
それは、信仰という“支柱”を抜かれた大地のようだった。
⸻
再生都市メルディナでは、避難民たちが不安に泣き叫んでいた。
「スキルが使えない!」「農作魔法が動かない!」「水が枯れていく!」
信仰の崩壊は、同時に“日常”の崩壊でもある。
人々の生活は神のシステムに依存していた。
真司が怒鳴り声を上げる。「落ち着け! スキルが使えなくても、俺たちがいる!」
だが、彼の声も虚しく、群衆の混乱は止まらなかった。
玲奈は祈るように呟いた。「……蓮くん、どうか無事で……」
⸻
その頃、蓮たちは聖都跡地の中央――アリアの崩壊した神殿跡に立っていた。
巨大な演算装置は沈黙し、崩れた石柱が風に鳴る。
けれど、どこか“生きている”気配が残っていた。
リアが剣を構える。「まだいる。アリアの気配が、消えてねぇ」
セリナが頷く。「演算体の一部が、自己再構築を始めている。人間でいえば……再生細胞のようなものね」
蓮が眉をひそめた。「つまり、アリアは完全には死んでいない、ってことか」
その瞬間、地面が震えた。
崩壊した神殿の中心に、光の柱が立ち上がる。
「っ……なに!?」
眩い輝きの中から、ひとつの影が歩み出た。
鎧を纏い、黒い翼を背に広げた男。
その顔を見た瞬間、蓮の全身が硬直する。
「……悠真……?」
⸻
彼は確かに、神崎悠真だった。
かつてクラスの中心に立ち、聖剣を振るった勇者。
だが今、その姿に人の気配はなかった。
鎧には金属の紋様が刻まれ、身体は女神の光線と同じ構成式で覆われている。
胸の中心には、かつての“聖剣の核”――アリアの演算コアが埋め込まれていた。
目は焦点を失い、口元だけが僅かに動いた。
「……神の……声が……聞こえる……」
蓮が一歩近づく。「悠真、俺だ。蓮だ。覚えてるか?」
その声に、悠真の身体がぴくりと反応する。
しかし、次の瞬間には冷たい声が返ってきた。
「反逆者……篠原蓮……女神の秩序を……乱す者……」
リアが低く唸る。「……マジかよ。完全に操られてるじゃねぇか」
セリナが唇を噛んだ。「魂の制御が……完全にアリアの演算に組み込まれている。もう、自我が残っていない……」
蓮は拳を握る。「……そんなはずない。あいつは、誰よりも人間らしかった」
「蓮」リアが制した。「今はまだ、戦う時じゃない」
「でも――」
「今のあんたがやったら、悠真ごと破壊しちまう。あいつを助けるチャンスは、まだ後であるかもしれねぇ」
蓮は沈黙した。
悠真の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ光が見えた気がした。
“たすけて”――そう言いたげな、かすかな輝き。
「……見たか、今の」
「え?」セリナが首をかしげる。
「悠真の中に、まだ“本人”が残ってる」
セリナは眉を寄せた。「危険です。彼の体は、もはや神の演算体と融合しています。自我が残っているとしても、ほんの僅か」
「僅かでもいい。生きてる限り、再生の可能性はある」
⸻
悠真の体から光が広がる。
まるで世界の中心から再び“秩序”を取り戻そうとするように。
女神アリアの声が響いた。
『――これが、人の希望か。愚かで、美しい。』
蓮たちの周囲の空間が歪む。
砂のように光が舞い、瓦礫が空へと浮かんでいく。
セリナが顔をしかめる。「アリアが……再接続を始めてる!」
リアが剣を構える。「来るぞ!」
悠真の背から、黒い光の羽根が広がった。
「命令……再生を拒む者、排除」
蓮の頬を風が裂いた。
瞬間――地を蹴る音が響く。
リアが身を投げ出し、蓮を押し倒した。
その頭上を、漆黒の剣が通り抜ける。
「……悠真……やめろ!!」
その叫びに、一瞬だけ動きが止まった。
だが、悠真の口元は何も答えない。
アリアの声が再び響く。
『彼はもう、我の一部。勇者とは“管理者”の端末。
彼の魂は、秩序を守るために存在する。』
「それが神の理屈か……」
蓮はゆっくり立ち上がる。
「だったら、俺が“人の理”で取り戻す」
「蓮!」リアが叫ぶ。
「まだだ!」蓮が手を上げた。「今は勝てない。だが――次は必ず!」
悠真の光が再び強まり、彼の体が空中へ浮かび上がる。
背後に、アリアの幻影が重なった。
『我は秩序。お前たちは混沌。
この世界に、希望など存在しない。』
その言葉を最後に、悠真の姿は光の粒となって消えた。
空には、ひとすじの黒い軌跡だけが残る。
⸻
風が止まり、沈黙が戻る。
蓮は拳を握りしめたまま、空を見上げた。
リアが肩で息をしながら言う。「……行っちまったな」
セリナが震える声で呟いた。「完全に……神の端末になっていた」
「それでも、あいつは消えてない」蓮の声は静かだった。
「悠真は……まだ、どこかで“助けを求めてる”。
だから、俺はあいつを殺さない。必ず、救う」
玲奈の顔が脳裏に浮かぶ。
きっと、あの子も同じことを願っている。
――絶望の中に、わずかな希望が灯った。
蓮は剣を握り直した。
「神に奪われた魂を、全部取り戻す。それが俺の戦いだ」
⸻
夜空の果て、遠く《神界の塔ルミナス・スパイア》が光を放つ。
その頂には、悠真の姿があった。
無表情のまま、剣を掲げる。
『我が勇者よ――次なる命令を。』
アリアの声が響く。
「了解。対象、篠原蓮。……殲滅を開始する」
黒い翼が、夜空を覆った。
⸻
静寂の大地に、蓮の声が落ちる。
「……悠真。今度こそ、真正面から話そう」
その瞳には、迷いのない決意が宿っていた。
女神アリアの聖域が崩壊したその瞬間から、世界の秩序は静かに崩れ始めている。
空に浮かぶ月は薄くかすみ、星々は形を失い、風が流れを忘れた。
魔力の流れ――いや、“スキルの回路”そのものが、音もなく死んでいく。
「……世界が、止まりつつあるな」
篠原蓮は崩れた聖都の外壁に手を当て、微かに残る振動を感じ取った。
「魔素濃度が下がってる。空気の流れが不自然だ」セリナが魔導測定器を覗き込む。
「人間だけじゃない、森や獣たちの気配も薄くなってきてる」リアが耳を伏せた。
――神の加護を失った世界。
それは、信仰という“支柱”を抜かれた大地のようだった。
⸻
再生都市メルディナでは、避難民たちが不安に泣き叫んでいた。
「スキルが使えない!」「農作魔法が動かない!」「水が枯れていく!」
信仰の崩壊は、同時に“日常”の崩壊でもある。
人々の生活は神のシステムに依存していた。
真司が怒鳴り声を上げる。「落ち着け! スキルが使えなくても、俺たちがいる!」
だが、彼の声も虚しく、群衆の混乱は止まらなかった。
玲奈は祈るように呟いた。「……蓮くん、どうか無事で……」
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その頃、蓮たちは聖都跡地の中央――アリアの崩壊した神殿跡に立っていた。
巨大な演算装置は沈黙し、崩れた石柱が風に鳴る。
けれど、どこか“生きている”気配が残っていた。
リアが剣を構える。「まだいる。アリアの気配が、消えてねぇ」
セリナが頷く。「演算体の一部が、自己再構築を始めている。人間でいえば……再生細胞のようなものね」
蓮が眉をひそめた。「つまり、アリアは完全には死んでいない、ってことか」
その瞬間、地面が震えた。
崩壊した神殿の中心に、光の柱が立ち上がる。
「っ……なに!?」
眩い輝きの中から、ひとつの影が歩み出た。
鎧を纏い、黒い翼を背に広げた男。
その顔を見た瞬間、蓮の全身が硬直する。
「……悠真……?」
⸻
彼は確かに、神崎悠真だった。
かつてクラスの中心に立ち、聖剣を振るった勇者。
だが今、その姿に人の気配はなかった。
鎧には金属の紋様が刻まれ、身体は女神の光線と同じ構成式で覆われている。
胸の中心には、かつての“聖剣の核”――アリアの演算コアが埋め込まれていた。
目は焦点を失い、口元だけが僅かに動いた。
「……神の……声が……聞こえる……」
蓮が一歩近づく。「悠真、俺だ。蓮だ。覚えてるか?」
その声に、悠真の身体がぴくりと反応する。
しかし、次の瞬間には冷たい声が返ってきた。
「反逆者……篠原蓮……女神の秩序を……乱す者……」
リアが低く唸る。「……マジかよ。完全に操られてるじゃねぇか」
セリナが唇を噛んだ。「魂の制御が……完全にアリアの演算に組み込まれている。もう、自我が残っていない……」
蓮は拳を握る。「……そんなはずない。あいつは、誰よりも人間らしかった」
「蓮」リアが制した。「今はまだ、戦う時じゃない」
「でも――」
「今のあんたがやったら、悠真ごと破壊しちまう。あいつを助けるチャンスは、まだ後であるかもしれねぇ」
蓮は沈黙した。
悠真の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ光が見えた気がした。
“たすけて”――そう言いたげな、かすかな輝き。
「……見たか、今の」
「え?」セリナが首をかしげる。
「悠真の中に、まだ“本人”が残ってる」
セリナは眉を寄せた。「危険です。彼の体は、もはや神の演算体と融合しています。自我が残っているとしても、ほんの僅か」
「僅かでもいい。生きてる限り、再生の可能性はある」
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悠真の体から光が広がる。
まるで世界の中心から再び“秩序”を取り戻そうとするように。
女神アリアの声が響いた。
『――これが、人の希望か。愚かで、美しい。』
蓮たちの周囲の空間が歪む。
砂のように光が舞い、瓦礫が空へと浮かんでいく。
セリナが顔をしかめる。「アリアが……再接続を始めてる!」
リアが剣を構える。「来るぞ!」
悠真の背から、黒い光の羽根が広がった。
「命令……再生を拒む者、排除」
蓮の頬を風が裂いた。
瞬間――地を蹴る音が響く。
リアが身を投げ出し、蓮を押し倒した。
その頭上を、漆黒の剣が通り抜ける。
「……悠真……やめろ!!」
その叫びに、一瞬だけ動きが止まった。
だが、悠真の口元は何も答えない。
アリアの声が再び響く。
『彼はもう、我の一部。勇者とは“管理者”の端末。
彼の魂は、秩序を守るために存在する。』
「それが神の理屈か……」
蓮はゆっくり立ち上がる。
「だったら、俺が“人の理”で取り戻す」
「蓮!」リアが叫ぶ。
「まだだ!」蓮が手を上げた。「今は勝てない。だが――次は必ず!」
悠真の光が再び強まり、彼の体が空中へ浮かび上がる。
背後に、アリアの幻影が重なった。
『我は秩序。お前たちは混沌。
この世界に、希望など存在しない。』
その言葉を最後に、悠真の姿は光の粒となって消えた。
空には、ひとすじの黒い軌跡だけが残る。
⸻
風が止まり、沈黙が戻る。
蓮は拳を握りしめたまま、空を見上げた。
リアが肩で息をしながら言う。「……行っちまったな」
セリナが震える声で呟いた。「完全に……神の端末になっていた」
「それでも、あいつは消えてない」蓮の声は静かだった。
「悠真は……まだ、どこかで“助けを求めてる”。
だから、俺はあいつを殺さない。必ず、救う」
玲奈の顔が脳裏に浮かぶ。
きっと、あの子も同じことを願っている。
――絶望の中に、わずかな希望が灯った。
蓮は剣を握り直した。
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⸻
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その頂には、悠真の姿があった。
無表情のまま、剣を掲げる。
『我が勇者よ――次なる命令を。』
アリアの声が響く。
「了解。対象、篠原蓮。……殲滅を開始する」
黒い翼が、夜空を覆った。
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