富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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笑ってはいけない Ⅳ

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 ロシアの情報は、9年前から定期的に様々な方法で情報収集をしてきた。
 その中で「虎」の軍でも諜報機関を立ち上げ、また各国のそのような機関からも情報をもらっていた。
 特にアメリカのCIAや軍の情報機関、そして何よりもルイーサの「ローテスラント」からの情報が多く手に入っていた。
 諜報員も多かったし、政府高官や有力者たちにも枝を伸ばし、ロシアの状況はありありと手に取るように分かった。
 まだ「業」の浸食がそれほど高くはなかった時代だ。
 しかし「業」は本格的にロシアを握り、徐々に情報が得られなくなって行った。
 今では鷹が率いる「ブレイド・ハート」と偵察衛星「御幸群」からの観測情報のみしかない。
 数年前からロシアは全ての国との国交を閉じ、貿易もその他の交流も全て途絶えた。
 国際社会からは大いに批判もあったが、最初の頃は弁明もあった。
 ロシアらしい自画自賛、そして道理を引っ繰り返す強硬な意見も出た。
 今思えば、あの時はまだ「ロシア」だったのかもしれない。
 しかしそれも通信手段も無くなってからは、闇に閉ざされた。
 7年前にルイーサと共に「グレイプニル」を率いて首都モスクワを壊滅させた。
 あの時は既にロシアは「業」の浸食を深く受けて、情報も入りにくくなっていた頃だった。
 ルイーサの眷族のハインリヒとエリアスが最期までロシア国内に残り、重要な情報を集めていてくれた。
 もうロシアはかつてのものでは無くなっていたことが分った。
 一時はエネルギー資源が枯渇したロシアに対して、「ヴォイド機関」による送電を開始したが、それもやがてロシア側からの一方的な打ち切りで終わった。
 
 そしてそのことは、ロシア国内に既に人間はほとんどいないということを示していた。
 エネルギーが必要なのは人間だけだ。
 僅かな資源は、「業」の周辺にいる者たちで独占しているだろう。
 果たしてそいつらが人間かどうかは分からないが。
 「業」がこれから生産するのはバイオノイドやジェヴォーダンだけだろう。
 もうライカンスロープすら必要無い。
 ライカンスロープは《ニルヴァーナ》の開発までの実験だったのだ。
 人間に妖魔を憑依させるための実験であり、既にそれは完成している。
 だからもう、「デミウルゴス」の供給も無い。
 《ニルヴァーナ》が完成した今、それを使って人類を滅ぼそうとしているだけだ。
 
 《オペレーション・チャイナドール》で、中国が壊滅していたことが分かった。
 汚染の広がりが酷いことは分かっていたのだが、それでも中国にはある程度の生存者がいると俺たちは考えていた。
 以前から中国政府は利権を巡って様々な連中が権益を争ってはいた。
 だから「業」の人類壊滅の戦略に対してもまだ甘く考えていて、単なる世界侵略と捉える人間が数多くいた。
 もちろん、「業」の情報操作もある。
 中国は四分五裂していたことは、俺たちにも分かっていた。
 「虎」の軍に協力的な人間もいたが、主には俺たちの戦力に屈した奴らが多かった。
 言い換えれば「業」の利権にあぶれた連中だ。
 そうした中で中国国内の《ニルヴァーナ》の汚染が酷くなったことを知り、俺たちは《オペレーション・チャイナドール》発動を決断した。
 ヨーロッパや中近東に陸続きの中国でパンデミックが起きているのだから、それを浄化する必要があったのだ。
 しかし、その時には既に全ての都市は壊滅し、小さな農村まで《ニルヴァーナ》の感染で全滅していたのだ。
 生存者は1万人にも満たず、それらの人々は危険を察知しながら、サバイバルの素養があった人々だ。
 山中で何とか自給自足をしながら生き延びていた。
 感染者《ソリッド・バイオレンサー》は生きた人間を逃さない。
 人間を求めてどこまでも追っていく。
 「人間を襲う」という本能だけになるのだ。
 それによって中国は10億近い人口を喪った。

 それではロシアはどうなのか。
 「ブレイド・ハート」の偵察によると、やはりほぼ壊滅だった。
 しかし、中国よりも生存者がいる可能性も高かった。
 俺たちが徹底的に「業」の脅威を訴え続けて来たためだ。
 通信が途絶えてからも、ビラを空中から散布し、拡声器で呼び掛けて来た。
 中国ではそれ以上のことをしていたのだが、国民性なのか反応は薄かった。
 だがロシアは中国よりも利権にしがみつく人間が少なかったようだ。
 逸早く都市を捨てて移動を開始する者が多くいた。
 現実に国内の状況の悪化に、俺たちの言葉に耳を傾けてくれた結果だ。
 もしかしたら、内部に協力者がいたのかもしれない。
 俺は密かに敵の中心にいる《タイニー・タイド》のことを思った。
 主にやはり山中に逃げて暮らす人々がいるようだ。
 開けた平野部や海浜では隠れる場所がないことが主な理由だろう。
 遮蔽物の多い、また食糧のある山中に逃げたのだ。
 言い換えれば町で隠れていた人間や平野部や海浜に逃げた人間は全て殺されたのだろう。
 だが多くは家屋を持たず、この冬を超えることは難しいと思われた。
 ロシアの冬は過酷だ。
 彼らの多くは東のシベリアの密林地帯にいるようだった。
 恐らく多くの都市から離れ、広大な場所で息を潜めているのだろう。
 大規模な侵攻作戦の前に、出来るだけ生存者を救出したかった。
 だがそのためには幾つかの解決しなければならない問題がある。




 少し前にルーとハーが緊急招集をかけ、二人が調べ上げた重要方法を「虎」の軍のトップが知り、それに伴って動いて来た。
 その状況を踏まえて、定例の作戦会議を開いた。
 今回は俺と聖、ターナー大将、蓮花、一江、大森、ルーとハーのいつものメンバーに加え、茜と葵、羽入と紅も呼んで会議を行なった。
 茜や羽入たちは、今後の重要な作戦に参加するメンバーだ。
 大々的なロシア侵攻に先立って、ロシア国内の生存者の救出作戦を行なう。
 そのために「トラキリー」と共に羽入と紅の手を借りる予定だ。
 今回の定例会議では、前回の双子のもたらした幾つかの情報への対処の進展が話し合われる予定だった。
 一つは《ディラック・クラウド》への対処、
 そして「ゲート」への新たな攻略法、
 もう一つは《青い剣士》への対抗手段だ。
 全てが機密事項のため、事前に情報は何も知らされていない。
 だが今日の定例会議では重要な案件が話し合われることは全員が承知していた。





 双子が《ディラック・クラウド》について説明した。
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