富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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映画鑑賞『蒲田行進曲』

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 子どもたちが地下に降りてくる。
 楽しそうにみんなでワイワイと騒いで階段を下ってきた。
 俺はソファの好きな場所に座るように言い、照明を絞った。
 部屋が暗くなると子どもたちは興奮してくる。

 「今日は『蒲田行進曲』という映画だ。これは松竹という映画製作会社の「蒲田撮影所」という場所が舞台になっている。戦前から戦後の、映画の黄金時代の話だよ。じゃあ、まずは観てくれ」

 白い大きなスクリーンに投射され、一般家庭でのテレビの音量・音質ではないスピーカーからの音声に、子どもたちは一層興奮した。
 描かれる映像に、笑い、時には怒り、そして泣く。
 昔の日本人の純粋な姿が描かれていく。
 映画バカと呼ばれる連中の、尊い魂が輝く。
 優しい人間も、バカな人間も、厳しい人間も、弱い人間も、みんなそれぞれに良い。
 人生とは何なのかが感じられる。
 今の時代に喪われてしまった大事なものが描かれていく。

 映画が終わると、みんな顔を輝かせて喜んでいた。

 「亜紀ちゃん、どうだったかな?」
 ちょっと目を赤くした亜紀ちゃんが俺に向く。
 「はい、とても面白かったです。映画ってあまり観たことはないのですが、これからどんどん観ようと思いました」
 「そうか。印象に残ったシーンはあるかな?」
 「はい、銀ちゃんに女性を押し付けられたヤスが、一生懸命に尽くす姿が良かったです」
 「うん、なかなかいい感想だな。銀ちゃんというのは、スターだ。ちょっと落ち目になりかけているけど、スターであることを自分の誇りにしようとしているな。反発したい部分も多いけど、ああいう人間は素晴らしいんだ。自分の核を持っている、ということだからな」
 「核ですか」
 「うん、そうだ。自分はこうあるべき、という信念と言うかな。他人の評価なんか、どうでもいい。人間は自分なりの核を持つことが重要だ」
 「核があるから、ヤスは銀ちゃんに惚れ込んでいる、ということですか?」
 「その通りだ。まあ、ヤスもスターになりたかった男なわけだよ。でも、ヤスにはそれができなかった。だからスターを輝かせる、ということがヤスの夢になり、核になったということだな」
 亜紀ちゃんは考え込んだ。
 自分にはまだ理解できないが、そういうものがある、ということだけは分かったようだ。

 「じゃあ、この映画で重要なポイントをみんなに話しておこう」
 俺がそう言うと、みんなが注目してきた。
 「映画の中で、監督がヤスに言っただろう。「おい、ちょっと階段落ちをしてくれ。死ぬかもしれないけどな!」って」
 思い出してみんながまた笑う。
 「いいよなぁ、ああいう映画バカは。バカというのは、昔はものすごい褒め言葉であることも多かったんだよ。要するに、一つの物事に心底惚れ込んで、自分の何もかも全てを捧げるという人間の尊称だ。いいか、人間はこういうバカにならなければいかん!」
 子どもたちが笑う。

 「あの監督はいいシーンを撮りたいとしか考えてない、ということだな。だから人が死んじゃってもいいんだよ。これほどのバカは本当にいいよなぁ。またそれを受けるヤスも見事だ。ヤスは映画全体の出来もそうだけど、銀ちゃんを輝かせるということだけで生きている。だから引き受けたわけだよな」
 子どもたちは理解してくれたようだ。
 「今の日本映画は目も当てられないくらいに落ちぶれたけど、昔の日本映画っていうのはこういう映画バカが作っていたからな。素晴らしい作品も多いんだ」

 「ああ、この部屋は俺に一言いえばいつでも使っていいからな。機材の使い方は説明するから。好きな映画を観ていい。隣の部屋にゴッソリあるからなぁ。アニメもあるぞ」
 瑠璃と玻璃が喜んだ。

 「皇紀、エッチなのはねぇからな」
 「見ませんよ!」
 亜紀ちゃんが睨んでいた。

 一通り大騒ぎしながら棚のDVDやBDを見ていた子どもたちは、一向に終わる気配がない。
 「おい、今日はずい分と遅くなったから、そろそろ風呂に入って寝ろ」
 俺が声をかけると、「はーい」と応えて階段を上がっていく。
 亜紀ちゃんが振り返り、俺に向く。
 「タカさん、今日はありがとうございました」
 頭を下げてそう言うと、他の三人も
 「ありがとうございました!」
 と言う。

 「ああ、また来週な」

 喜んでくれたようだ。




 一階に着いたところで、俺は言った。
 「おい、そういえば、今年の夏休みはみんなどこにも行ってないよな」
 子どもたちは立ち止まって振り返る。
 無理もない。
 つい先日、こいつらは最愛の両親を喪ったのだ。

 「もう残り少ないが、俺の別荘にでも出掛けるか?」
 俺の提案に、みんなが明るい表情になる。
 「またあの車に乗るの?」
 瑠璃が嬉しそうに言った。
 「でも、ご迷惑なんじゃ……」
 亜紀ちゃんが、遠慮がちにそう言った。
 「大丈夫だよ。俺もこれから夏休みを取っているし、どうしようかと思っていたところだからな」
 「じゃあ、また宜しくお願いします」
 亜紀ちゃんが頭を下げると、他の三人もそれに倣った。

 「よし、じゃああさってくらいから出掛けるぞ」
 双子が嬉しそうにくっつきながら、部屋へ戻っていく。


 勉強は、子どもたちを悲しみから離れさせる意味もあった。
 何か役割に邁進することで、人間は悲しみから逃れられる。
 今日の映画もその一つだ。
 俺はまた別なことで、そうさせてやりたかった。 
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