富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
154 / 3,215

しょうもない話 Ⅱ

しおりを挟む
 7月の初旬。

 院長室に呼ばれた。

 「石神、入ります!」
 「おう。座れ!」

 ソファに腰掛けると、院長が麦茶を運ばせた。

 「暑いなぁ」

 そうだから、その暑苦しい顔を見たくねぇんだけどな。

 「今日、スペイン大使館から月末にやるコンサートの誘いが来たんだよ」
 「そうですか」

 「なんでも、新進気鋭の女性ヴァイオリニストが来るらしい。コンサートのスケジュールは決まっているらしいんだが、その前に一部の関係者やマスコミを招いて、プレ・コンサートを開くんだってよ」
 「はぁ」

 面倒くせぇ話がきやがった。


 「俺が行ってもなんなんで、お前が行け」
 「分かりました」

 「お前、大使のサンチェスとは仲がいいだろう」
 「そうですね」

 「サンチェスから、お前を主賓にする、と言ってきてるぞ」

 じゃあ、あんたが行ってもなんだから、じゃねぇだろう!

 「主賓ですか?」
 「そうだ。お前もちょっとは世界で名が知られるようになったからな」
 「響子の件ですか」
 「当たり前だ。サンチェスもお前を主賓にして、格を上げたいんだろうよ」

 サンチェスは駐日大使だが、非常に気さくで面白い人物だった。
 就任のパーティに呼ばれた後日、俺が深夜に病院近くのコンビニに行くとばったり会った。
 大使自らコンビニに来るとは思わなかった。

 俺がスティックのアイスクリームを買って、二人でコンビニの前で話し込んだ。
 それ以来、サンチェスは俺を気に入り、何かと誘ってくるし、一緒に都内を案内したり食事をしたりして遊んでいる。


 


 俺は斎藤を呼び、コンサートに行く旨、そしてそのための花束の手配を命じた。
 主賓として呼ばれているから、それに見合う花を用意しろと言った。
 俺が気に入っている青山の花茂で手配するように伝えた。

 こういう仕事の手配も慣れていかないとなぁ。
 切った張っただけじゃねぇんだ、この病院は。

 「お前も一緒についてこい」
 「え、わ、分かりました!」


 当日、俺はベンツを出し、夕方に会場へ向かうつもりだった。
 会場は新橋の広いコンサートホールを貸し切ってのものだった。

 斎藤が花束を抱えて帰ってきた。

 でけぇ。

 直径1メートルもあるかという、異常な大きさだった。
 
 「お前! なんだよ、このバケモノは!」
 「いや、だって主賓だからということで」
 「バカか、お前は!」

 斎藤はシュンとなっている。
 もう時間もねぇ。

 「しょうがない、それを持って行くぞ!」
 「はい!」

 助手席に斎藤が花束を抱えて座るが、運転席まではみ出してくる。

 「お前! もっと右に寄れ!」
 「これ以上は無理です!」
 「窓を全開にしろ!」
 「は、はい!」

 窓から半分はみ出して、やっと運転ができるようになった。

 俺は新橋に向かって走る。

 「部長、なんだか見られてますよねぇ」
 「……」

 アホがバカなことやってると見えるんだろう。

 

 会場に着いて、斎藤はよろけながら俺の後ろをついてくる。
 20キロくらいあるそうだ。
 バカが!


 コンサートホールに入ると、早速サンチェスが俺に近づいてくる。

 「イシガミ! よく来てくれた!」

 ハグをしてくる。
 そして賓客を何人か俺に紹介し、挨拶を交わした。
 大手企業の社長や音楽関係の有名な人々。
 
 みんな笑顔で名刺交換し、握手を交わす。

 しかし、全員が俺の後ろの花束に注目していた。




 俺は斎藤に離れるように手で合図する。

 「え、なんですか、石神部長?」

 でかい声で斎藤が叫ぶ。
 こいつ、前が見えてねぇ。



 時間が近づき、俺は最前列中央に座らされた。
 隣はもちろん斎藤だ。
 花束が俺の席まではみ出ている。



 女性ヴァイオリニストが登場した。
 バスク人のなかなかの美人だ。
 満面の笑みで会場に投げキッスなどもする。
 結構なパフォーマーでもあるようだ。


 そして中央の演奏位置につくと、俺の方を見てギョッとしている。
 俺は笑顔で手を振った。
 彼女もニコッと笑い、手を振り返す。
 大した女だ。


 演奏は前評判に劣らず、見事なものだった。
 俺の知らないスペインの作曲家の、受難曲ということだった。

 
 演奏が無事に終わり、観客は総立ちになり褒め称えた。
 拍手がしばらく鳴り止まない。

 そして俺がサンチェスに導かれ、最初に彼女に花束を渡すことになっている。
 斎藤を従えて、ステージに上がる。
 
 会場が静まり返って、俺たち、いやバカの塊を見ている。



 斎藤がバカの塊を渡そうと、彼女に寄った。

 「No puede(ノ・プエデ)」

 彼女が首を横に振った。
 受け取ろうとしてくれないので、困った斎藤が俺に聞く。

 「何て言ってるんですか?」
 「無理だってよ」

 俺は一本のバラを抜き取り、差し出した。
 彼女は笑顔になり、そのバラを髪に挿す。

 会場が再び沸く。




 俺は彼女の演奏のどこが素晴らしかったかを語り、マイクを持った通訳がそれを彼女に伝えた。
 俺の頬にキスをしてくれ、また会場が喝采した。

 俺は一礼をし、下がる。
 そのままコンサートホールを出た。




 
 扉が閉まると、斎藤の尻を蹴飛ばした。

 「さっさと駐車場へ行け!」


 駐車場に行くまでに、俺は8回斎藤の尻を蹴った。



 病院へ戻り、俺はでかい花瓶を20本も集めた。
 見舞い客用に用意しているものだ。たくさんある。

 斎藤に全部活けるように命じ、その花瓶を斎藤の机に置く。

 「あの、部長。僕、仕事ができません」

 俺はそれに答えず、そのまま斎藤を帰宅させた。



 翌朝、異様な光景に部下たちが斎藤の机を見ていた。

 斎藤は、花が枯れるまで、倉庫で仕事をした。
 倉庫にはエアコンは無かった。









 「ところで斎藤、あの花束は幾らしたんだ?」
 「はい、15万円ほど」
 「おい、そんなもの、経理が受理すると思うか?」
 「え?」









 俺が全額出した。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...