富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
235 / 3,215

六花と風花 Ⅲ

しおりを挟む
 ホテルでドアマンが迎え、店の場所を聞くとすぐに案内してくれた。
 風花はとても緊張している。

 個室の豪華な部屋に、また驚き、俺が勧めないと席にもつかなかった。


 風花にジュースを頼み、俺たちもジンジャーエールを頼んだ。
 コースを予約していたが、メニューをもらい、美味そうなものを全部頼む。


 「あの、こんなお店、初めてで」
 「ああ、自由に食べてくれな。ワリカンだけどな」

 「え!」

 「冗談だよ! ちゃんとご馳走するよ」

 風花はちょっと笑ってくれた。




 「本当に突然で申し訳ない。風花さんがどんなに驚いているかと思うと、申し訳ないばかりなんだけどな」
 風花が俺を見ている。

 「でも、この六花は、俺にとって大事な人間なんだ。だから妹がいると分かった時点で、どうしても会わせてやりたかった。本当にごめんね」

 「いえ。私も驚いてはいますが、今まで自分は一人なんだと思ってましたから、お姉さんがいるなんて」

 お姉さんがいて「嬉しい」とは言わなかった。



 俺はもう一度、アレクサンドラ(サーシャ)・アシュケナージさんのことを話す。
 六花の父親の暴力が原因で家を出なければならなかったこと。
 その後、六花も苦労して看護師になったことを話した。

 「その後、転々として大阪に来たらしい。そこである男性と親しくなって、君が生まれた」
 「はい。でも、私が生まれてすぐに母は亡くなったそうですので、私にはまったく記憶はないんです」

 「うん、それも分かっている。大変だったね」
 「ええ、でも施設でちゃんと育ててもらいましたから」
 
 六花は涙ぐんでいた。

 「今のお店は、社長さんがいい人のようだけど」
 「はい! 本当に優しい方で、私は親がいないので就職も難しかったんですが、それでも採用してくださったんです。寮も用意してくださって、よくしてもらってます」

 「そうか。良かった」
 六花もうんうんと頷いている。

 その後もしばらく、塩野社長さんのことや仕事のことを聞いた。
 今は肉の加工部門で働いているそうだ。
 身体はきついこともあるが、自分を雇ってくれた社長さんのために、一生懸命に働きたいと言った。




 料理が運ばれてきて、風花はこんな美味しいものは食べたことがないと言った。
 俺と六花はどんどん食べろと勧める。

 俺はうちの子どもたちのピラニアぶりを話し、風花は大笑いした。



 風花がもう食べられませんと言う。
 俺は少したったらまた喰えるからと、ちょっと休ませた。



 「あの」
 風花はトートバッグから、厚紙に挟んだ一枚の紙を取り出した。

 「これは母の遺書なんです。あの、母は日本語が書けませんでしたから、カセットテープに録音していたそうです。後で警察の方が紙に書いてくれて」

 六花が緊張した。

 「母のものって、これだけなんです。私は顔も知らなくて。六花さんにお見せできるのは」
 「ありがとう!」

 六花は風花の手を握った。
 大粒の涙が毀れてくる。

 「おい、大事なものを濡らすな」
 俺は六花の肩に手を置いて言った。

 「すいません」

 「見せてもらってもいいかな」
 「はい、どうぞ」



 そこには、孤独な女性の悲痛がありありと描かれていた。
 捨ててしまった娘への謝罪。
 そして生まれた娘への一層の謝罪。
 弱い自分を許して欲しいという懇願。
 最後に、故郷へ帰りたいと書かれていた。

 俺が読み上げると、二人とも泣いた。


 俺が調べたサーシャさんのことをすべて話す。
 そして六花は、最後の母親の写真を風花に渡した。

 「綺麗な人だったんですね」

 風花は写真を抱きしめた。




 六花が話す。

 「風花、こんなことを言ってまた困らせてしまうかもしれないけど、良かったら東京で一緒に暮らさない?」
 「え!」

 風花は驚いて、少し考えていた。

 「あの、申し訳ないんですが、私は今の社長にとても感謝しているんです。ですから、私はここで恩を返したいと思います。すいません」

 「いいのよ。それでいい。でも私たちは姉妹なんだから、困ったことがあったら何でも言ってね」
 「はい」



 俺はサーシャさんの墓を建てたことを伝えた。
 納骨も済ませてある。

 俺たちは明日墓参りをするつもりだと言い、よかったら一緒に来ないかと誘った。

 「是非お願いします」

 また朝に店まで迎えに行くこととし、風花を寮まで送った。




 俺と六花は、少し飲もうと言い、夜の梅田を歩いた。

 「なあ、六花」
 「はい」

 「大阪っていうのは暖かくていい街だなぁ」
 「そうですね」

 東京とは違う、人の温もりが溢れているように感ずる。
 派手な店構えやバカみたいなネオンがいい。
 行き交う女性の派手な服がいい。
 大声で怒鳴りあってる酔漢がいい。

 「本当にいい所ですよね」
 「ああ。風花も、ここがやっぱりいいんじゃねぇか?」
 「そうですね」
 六花は寂しそうに笑った。








 俺たちはホテルに戻り、寝た。
 その前に5回やった。




 俺の大阪が泣いているぜ!
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...