富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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 7時頃に起こされた。

 「タカさん、夕飯ですがどうですか?」
 亜紀ちゃんが心配そうにそう言った。

 「ああ、そうか。ありがとう、食べるよ」
 うちの夕飯は早い。
 大体6時頃で、時には5時に食べることもある。
 だから、子どもたちは先に済ませているはずだ。
 俺が「夜」が好きなので、その時間を多く空けるためだ。
 自然に子どもたちもそのようになった。

 映画鑑賞会をしたり、恐らくは別荘での「幻想空間」の体験のためだ。
 「夜」の美しさを知った、ということだろう。





 亜紀ちゃんが心配そうに見ている。

 「おい、どうした?」
 「タカさん、大丈夫ですか?」
 「ああ。ちょっとまだ完全じゃねぇけどな」
 「本当に大丈夫ですか?」
 「なんだよ、一体」
 「いいえ。大丈夫ならいいんです」

 亜紀ちゃんは先に降りた。
 俺は軽く顔を洗って降りる。
 少し身体が重く感じる。
 痛みも増した感じがある。
 ロボが一緒に降りた。

 リヴィングに降りて、みんなが俺を見る。
 驚いた顔をしている。

 「石神先生!」
 鷹が叫んだ。

 「ああ、鷹。茶碗蒸しだよな。楽しみだぁ」
 「石神先生! お身体は大丈夫ですか!」
 「大丈夫だよ」
 「だって、一層痩せられて、お顔も真っ青ですよ」
 「そうか?」
 洗面所では灯をつけなかった。
 それに、俺は自分の顔を鏡でそんなに見ない。
 良い面なのは、40年も生きてて知ってる。

 「大丈夫だって」
 俺は笑ってテーブルについた。
 鷹が茶碗蒸しを温めて持って来てくれる。
 美味そうな匂いだ。
 銀杏が三つ入っている。
 
 「俺は銀杏が大好きなんだよ! 三つも入ってるじゃないか」
 鷹が嬉しそうな顔をする。
 良かった。
 俺は銀杏を食べ、茶碗蒸しを堪能した。
 本当に美味かった。

 一口ごとに美味いと言い、笑った。
 鷹も子どもたちも俺を見て笑顔になる。
 あと二口ほどで食べ終わる、という時。

 俺は咳き込んだ。
 胃が猛烈に痛み、テーブルに突っ伏して吐いた。
 折角鷹が作ってくれた茶碗蒸しが出てしまった。
 息を整え、鷹に謝った。

 「鷹、すまない! 折角お前が作ってくれたのに」
 「石神先生!!」

 鷹が大きな声を出す。
 同時に子どもたちも叫んだ。

 「タカさん! すぐに寝て下さい!!」
 亜紀ちゃんが言った。

 「おい」

 亜紀ちゃんが指さすテーブルを見た。
 吐瀉物に大量の血が混じっていた。
 亜紀ちゃんの指示で、双子が院長に電話する。
 鷹は一江と話しているようだ。
 俺は亜紀ちゃんに抱えられ、ベッドに寝かされた。






 10分後、俺はまた高熱を出した。
 最初の時ほどではないが、尋常な熱ではない。
 意識の混濁が始まった。
 亜紀ちゃんが温度計を向けている。
 
 「た、タカさん!」

 すぐに風呂場に移動された。
 半狂乱で皇紀と双子に氷が必要だと指示している。
 鷹も来て、水に浸しながら俺の服を脱がせていく。
 ハーが氷屋を何とかしてくれと大声で叫んでいるのが聞こえる。
 皇紀とルーの声は聞こえない。
 多分、氷を買いに行ったのだろう。




 どれほど時間が経ったか。
 院長が風呂場にいた。
 俺に懸命に手をかざしている。

 「ダメだったか」
 「い、いんちょ」

 「喋るな! いいか石神、よく聞け。お前は多分死ぬ」
 「……」

 「俺も精一杯やったが、やはりアレは尋常ではない。人間がどうこうできるものではない」
 「……」

 「お前は、俺が出会った中でも最高の人間だった。お前のことは決して忘れんぞ!」

 院長は涙を流した。

 「こ、こど」
 「分かってる! 安心しろ! 子どもたちのことは俺が責任をもって育ててやる!」

 俺は安心した。
 これで最後の勝負に出られる。
 身体は最悪だったが、院長の「光」のお陰で意識を取り戻した。
 院長はずっと俺に「光」を注いでくれている。
 徐々に、意識が鮮明になり、何とか話せそうな気がする。




 「こ、こーき」

 院長が皇紀を呼んでくれた。

 「お、お、おれ……を…さぎょ……こや……へ」
 「タカさん!」

 「お姉ちゃん! タカさんが作業小屋へ運べって!」
 「わ、分かった!」

 俺は何とか皇紀の肩を掴んだ。
 ほとんど力は入らない。
 抱える亜紀ちゃんに言った。

 「こ……うきと……ふた……り」
 「え?」

 「お姉ちゃん、タカさんは僕と二人でって言ってる!」
 「ダメよ!」

 俺は亜紀ちゃんを見つめた。

 「私も行くから!」
 「うる……せぇ!」

 亜紀ちゃんが俺を見て、大粒の涙を零した。
 皇紀が俺を亜紀ちゃんから奪って抱えた。

 「とにかく僕が運ぶ! タカさんがそう言ってるんだ!」

 ハーが鍵を皇紀に手渡す。
 俺は目を閉じた。
 少しでも体力を温存しなければ。
 みんながついてくるが、皇紀が玄関で待つように言った。





 皇紀が作業小屋を開け、俺を中に入れた。
 俺を床にそっと横たえる。

 「タカさん! 作業小屋です。何をすればいいですか!」
 「おめ……が」
 「!」

 「ふ……ん……まつ……お……ろ」
 「分かりました! すぐにやります!」

 皇紀は「Ω」を取り出す段取りに入った。
 冷凍庫からチタンケースを取り出し、作業テーブルに置く。
 ケースの蓋を開け、グラインダーのダイヤモンドカッターで羽を削りだした。

 「ちくしょー!」

 皇紀が泣きながらカッターのブレードを交換する。
 何度か繰り返した。

 俺に、ティースプーン四分の一程度の粉を見せた。
 オロチの皮を二センチ四方に切ってあるものも持っている。
 俺は小さく頷いた。

 一旦それらをテーブルに置き、皇紀は俺を壁に寄りかからせて座らせる。
 俺は最後の力を振り絞って口を開けた。
 皇紀がスプーンで俺の口に「Ω」の粉末を入れた。
 俺の身体の中で、何かが爆発した。
 
 「オロチも寄越せ!」
 「は、はい!」

 俺は皮を咀嚼した。
 また違う爆発が起きる。

 「「Ω」を仕舞え! 急げ!」
 「はい!」

 俺は皇紀が手順通りに仕舞うのを見ていた。
 きちんと仕舞った後で、皇紀が俺に抱き着いて来た。

 「タカさん……」
 「よくやった」

 俺が皇紀に抱えられて外に出ると、みんなが玄関からこちらを見ていた。
 
 「皇紀、ルーとハーを呼べ。「Ω」がちゃんと仕舞われたかチェックさせろ」
 「はい! ルー、ハー!」

 双子が吹っ飛んでくる。
 皇紀が説明する。
 二人は皇紀から鍵を受け取り、すぐに中へ入った。

 「タカさん!」
 亜紀ちゃんが皇紀から俺を奪う。

 「皇紀を褒めてくれ。ちゃんとやってくれた」
 「タカさんはこんな時まで、もう!」
 亜紀ちゃんは、皇紀に礼を言った。
 既に大泣きだ。
 涙が俺の胸に零れ落ちてくる。

 「石神」
 「石神先生!」
 院長と鷹が叫ぶ。

 「やることは全部やりました。あとは天命ですね」
 「お前は何を……」
 「三途の川に轟閃花」
 「何を言ってる」

 双子が戻って来る。
 「便利屋に、氷屋をキャンセルさせろ。大騒ぎになるぞ」
 「「はい!」」








 俺は中へ運ばれた。
 全力を振り絞り、花壇に向けて中指を立てた。
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