富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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挿話: Driving in Death

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 去年の12月初旬。
 栞が車を買ったというので、遊びに行った。
 土曜日の朝9時。

 「へー、ランクルかぁ」

 トヨタのランドクルーザー ZX G-FRONTIERだった。
 トヨタの創立70周年を記念して発売されたモデルだ。
 国産車としては非常に高価だ。
 白いボディは栞に似合っている。

 「エヘヘ、ずーっとペーパーだったんだけどね。知り合いに頼んで練習したんだ」
 「そうなのか」
 「じゃあ、ちょっとドライブに行こう!」
 「おう!」

 「あのね、おじいちゃんにも見せたいの」
 「え?」
 「だから、実家に行ってもいい?」
 「うーん。そんな長距離でも大丈夫か?」
 「平気! 結構練習したんだもん」
 「そうかぁ。でも高速に乗るぞ?」
 「大丈夫だよ! 高速も練習したし」

 不安はあったが、本当に練習をしたらしいので、俺も同意した。
 栞はV8のエンジンを唸らせた。
 一旦道路に車体を出してから、門を閉める。

 「じゃあ行くよ!」
 「おう!」

 物凄いスピードで走り出した。




 「おい、まだ一般道なんだからそんなに飛ばすなよ」
 「えー、まだ全然だよ」

 俺はすぐに不安が現実となった。
 細かい車線変更で、先行車を追い抜いていく。
 
 「もっと車間距離を取れ!」

 前の車の鼻先を掠めるように走る。

 「あぶねぇ!」
 「石神くん、うるさいよ!」
 「おい」

 栞は前を見詰め、獰猛に笑っていた。
 首都高に乗る。
 4号新宿線だ。

 栞はアクセルを踏み切り、また先行車を襲っていく。

 「おい、危ないって!」
 「大丈夫だよ!」
 「だって後ろで横向きで止まったぞ!」
 「アハハハハ!」

 栞は笑っている。

 「あ、間違えちゃった」
 
 三宅坂ジャンクションでバックする。

 「……」

 猛烈にクラクションを鳴らされた。

 「うっさいなー!」
 「おいおい」

 首都高5号池袋線に乗り換える。

 「さー! もうちょっとだー!」
 「頼むからさ、もうちょっと大人しく走ろうぜ」
 「石神くんって、運転は大人しいよね」
 「そりゃな」
 「あー!」
 「どうした!」

 「あれだぁ! ほら、ハンドル握ると人格が変わるってやつ!」

 そりゃお前だ。
 
 「石神くんって本当は激しいのに、運転すると大人しくなっちゃうんだね!」
 「それでいいよ」

 美女木のジャンクションに近づく。
 激しいスキール音(タイヤが路面と擦れ合う音)が響いた。
 
 「お前! 何でドリフトで曲がるんだぁ!」
 「ちょっと魅せたくて」
 「バカ言ってんじゃねぇ!」
 「あー! 4WDのAT車でドリフトするの、結構難しいんだよ?」
 「そんなもん、覚えなくていい!」

 「もーう! 石神くんは怖がりだなー」

 そう言って栞は笑った。
 俺も「花岡」を習得していなければ、栞をぶん殴って止めていたところだ。
 とっくに「絶花」と「金剛花」を使っている。

 ようやく関越自動車道に入った。

 「ここからはー、本気出すよー!」
 「もうやめてって」

 栞は更にアクセルを踏み込む。

 「ほらほら! 見て、ヒールアンドトゥ!」

 栞は自分の足元を指さす。

 「栞に教えた奴って、何者よ?」
 「おじいちゃんの紹介でね。他に仕事はあるらしいんだけど」
 「なんだって?」
 「本人は「自分は「走り屋」が本来です」って。すごいよねー!」
 「お前なぁ!」

 「40代後半なんだけど、なんか渋い人」
 「へー」
 「頭の横がね、金属のプレートなの! 何でって聞いたら、事故で頭蓋骨削っちゃったんだって!」
 「渋過ぎだろう、そいつ!」
 「アハハハハ!」

 数十回もの事故で、車も自分も潰して来たらしい。
 左腕がよく動かないのだと言っていた。

 「右手でね、私のオッパイを触ろうとするから。「タダじゃすまないよ」って言ったの」
 「そうかよ」
 「青い顔して「分かってます」って! それからは一生懸命にテクを教えてくれたよ」
 「ソーデスカ」

 「石神くんなら、いつでも触っていいよ!」
 「ありがとうな」

 関越自動車道では、栞が更に怖い運転をした。
 前方で三台が並ぶように走っていて、追い越せない。

 「もーう!」

 栞はクラクションを鳴らしながら、追い抜き車線に突っ込んで行く。
 前の車が気付き、スピードを落とした。
 栞は一瞬減速して左に車体を寄せ、強引に追い抜き車線に割り込む。
 追い抜いた車がスピンし、路肩に横転した。
 左車線の車は左に避け、もう一台と接触した。
 接触された車は、壁に突っ込んで止まった。

 「おい! 大変な事故だぞ!」
 「脇見運転かなー」
 「栞!」
 「へーきへーき!」

 目がギラついていた。
 その後も1台のトレーラー、8台の乗用車、2台のバイクが餌食になった。
 



 「良く来たのー、栞!」
 
 斬が信じられないほど優しい笑顔で迎えた。

 「よー」
 「なんじゃ、お前病気か?」

 俺たちは家に上がり、出前の鰻を喰った。
 俺のは二重天井だった。

 「石神くんはいつもそうだよね!」
 
 食欲は無かったが、無理矢理呑み込んだ。

 


 「帰りは俺が運転する」
 「えー! 私の車だよ!」
 「俺にも運転させてくれよ」
 「うーん。じゃあ大事に運転してね!」
 「ぉぅ……」

 栞は満腹になったせいか、帰りのほとんどで寝ていた。
 オッパイを触ると「もっとー」と言った。





 家に夕方に戻った。
 
 「またドライブしようね!」
 「二度と乗らねぇ」
 「えー!」

 


 「タカさん、お帰りなさい!」
 「にゃー!」

 亜紀ちゃんとロボが出迎えた。

 「おう、ただいま」
 「栞さんとドライブ、どうでした?」
 俺は手で制して、とにかくコーヒーを淹れてくれと言った。
 コーヒーを飲みながら、子どもたち全員を集めた。

 「いいか! 栞の車には絶対に乗るな!」
 「え?」
 「非常に危険です! だから君たちは絶対に乗らないように!」
 「えーでも私、楽しみにしてました」
 亜紀ちゃんが言った。

 「よし、ついて来い!」

 俺は子どもたちをハマーに乗せ、栞の運転を披露した。
 危険追い抜き、ドリフト走行……

 子どもたちは悲鳴を上げていた。

 「これを、ずっとペーパーだったド素人女がやります」
 「「「「!!!!」」」」

 「分かったな!」
 「「「「はい!」」」」

 その後、レイ、柳にも厳重注意した。
 一江、大森、六花、鷹にも厳命した。
 響子には「ドライブ」と聞いたら逃げろと言った。

 「お前、死んじゃうからな」
 「こわいね」

 

 栞は独りでドライブをたまにする。
 車は毎月修理に出し、タイヤの交換も頻繁だった。
 こないだ、バイクのハンドルがルーフに突き刺さっていた。





 「ドライブっていいよね!」
 「そうだな」

 栞がご機嫌なのはいい。
 栞以外の連中には気の毒だと思う。
 まあ、俺には関係ねぇ。
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