富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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亜紀ちゃんと蓮花研究所 Ⅱ

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 「俺は山中の家族を支えると約束したんだ。俺にとっても大事な人間たちだからな」
 「タカさん……」
 「まさか奥さんまでいなくなっちゃうとはな。あー、山中たちに会いてぇなー!」
 「そうですね」

 「亜紀ちゃんなんて、こんな美人になっちゃって。優しいしな!」
 「亜紀ちゃん、優しいですよ!」
 「アハハハハハハ!」
 「エヘヘヘヘ」

 俺は亜紀ちゃんの頭を撫でてやった。
 亜紀ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
 明るく、美しい笑顔だった。




 俺たちは風呂を出て、食堂へ行った。
 蓮花も浴衣に着替えていた。
 酒の用意をしていると、浴衣を着たミユキが来た。

 「ミユキさん!」

 亜紀ちゃんが近付く。

 「亜紀様、初めまして。ミユキでございます」

 深々と礼をする。
 亜紀ちゃんも頭を下げた。

 「私、どうしてもミユキさんにお会いしたくて」
 「恐縮でございます」

 ミユキが微笑んだ。

 「さあ、ミユキも座って。石神様、ミユキはお酒があまり」
 「いいよ。好きな物を飲んで付き合ってくれ」
 「はい」

 ミユキは梅酒をソーダで割ったものが置かれる。
 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキーのロック。
 蓮花は日本酒の冷酒を。
 ツマミは鮎の塩焼きと茹でたソラマメ、それに高野豆腐とシイタケの煮物など。

 「ミユキさん! 明日は相手して下さいね」
 「こちらこそ、宜しくお願い致します」

 亜紀ちゃんは嬉しそうだ。

 「ミユキ、亜紀様は私たちの中で最強なんですよ」
 「はい、伺っています。胸をお借りできて光栄です」
 「ミユキさんは、いつも誰を相手にしているんですか?」
 「大抵は前鬼と後鬼と。時折、外の方とも組み手をします」
 「外の方?」

 蓮花が説明する。

 「主に、斬様の道場の方です。最近は千万組の方ともたまに」
 「へぇー!」

 「あいつらの中でも、結構やる奴が出て来たよな」
 「はい、石神様。石神様と亜紀様を信奉している方々が特に」
 「私も?」
 「はい、亜紀様。亜紀様のような美しい方が滅法強いので。皆さんの憧れですよ」
 「エヘヘヘヘ」

 亜紀ちゃんは嬉しそうに笑った。

 「あー、ミユキさんたちとやるのが楽しみだなー!」
 「亜紀ちゃんにはデュール・ゲリエともやってもらうからな」
 「ああ、ロボットですよね?」
 「ああ。あれもなかなかだぞ。人間と違って迷いが無いからな」
 「へぇー!」
 「まあ、楽しめ」
 「はい!」

 ミユキが亜紀ちゃんに尋ねた。

 「亜紀様は普段、どのような相手と?」
 「まあ、一番まともなのは栞さんかなー」
 「花岡栞様ですよ、ミユキ」
 「ああ、あの方ですか。先日もお相手して頂きました」

 栞はゴールデンウィークに実家に帰っていた。
 ここにも立ち寄ったのだろう。

 「お強い方です」
 「そうよね! あとは兄弟と、たまーにタカさん?」
 「なんで疑問形なんだよ」
 「だってぇー! 全然相手にならないんですもん!」
 「石神様は特別ですよ。人類最強です」
 「そんなことはないよ」
 「そうだ! 聖さんがいますよね?」

 亜紀ちゃんが言う。

 「そうだな。あいつとは決着が着かないよなぁ」
 「どなたですか?」

 ミユキ。

 「タカさんの大親友。今は傭兵派遣会社の社長だけど、全然現役なんです。私もニューヨークで鍛えてもらったんだけど、もう全然敵いませんでした」
 「そうなんですか!」

 「ミユキ、世の中には化け物のように強い連中が幾らでもいるよ」
 「そうですね」





 「タカさん、綺羅々のことは話しても?」
 「ああ、いいぞ」

 亜紀ちゃんが公安の赤星綺羅々の話をした。

 「元の身体でも2メートル以上あったの」
 「元の身体?」
 「うん。それに筋肉が物凄くて。なんでしたっけ、アレ?」
 「「ミオスタチン関連筋肉肥大症」な。筋肉を作るホルモンが異常放出する体質だ」
 「そうなんですか」

 「でもね、それだけじゃなかったの。身長が8メートルにもなってね」
 「はい?」
 「身体は真っ黒。それに顔が鬼みたいになって、大きな角まで」
 「それは現実のものなんですか?」
 「そう! 「虚震花」はまったく効かない。「私たちの花岡」の技もどんどんかわされて」
 「それでどのように決したんですか?」
 「タカさんが「虎王」で両断した。あれは私じゃ厳しかったなー」
 「亜紀ちゃんがもっと奥義を出せばな。でもそうすれば地表が無事じゃ済まない」
 「埼玉、消えちゃいますよね?」
 「そうだよな」

 ミユキが目を丸くして驚いている。

 「ミユキさん、化け物って本当にいるんだよ?」
 「はい、亜紀様の御言葉を信じます」
 「うん!」

 亜紀ちゃんは二杯目の酒を注いだ。

 「それとねー、ヤクザ!」
 「千万組の方々ですか?」
 「違う違う! まあ、稲城会とはやったけどね。でも、あれは全然相手にならないよ」
 「はい」

 「京都の修学旅行でだなー」

 蓮花が口を押えて笑った。
 俺が話した時には大笑いしていた。

 「亜紀様は本当に楽しい方です」

 亜紀ちゃんも笑った。

 「夜に飲みに行ったら、地下の酒場でバッタリ遭遇したの。「神(ジン)」って名前の奴だったけど、10秒先の未来が見えるんだって。だから私のどんな攻撃も通用しなかった」
 「そんな!」

 「動きが速い奴でもないの。攻撃力も全然。でも当たらないのね。それにいいようにやられて、逃げられた。あんな経験も初めて」
 「まさか、亜紀様が」
 「もちろん最初から広範囲の攻撃で仕留めることは出来るよ? でもそうすれば被害が大きくなっちゃうからね」
 「なるほど」

 「ミユキ、戦闘は必ずしもこちらの思うようには運ばない。だから様々な状況で勝てるようにしなければならない」
 「はい!」
 「亜紀ちゃんもミユキたちも、圧倒的に実戦経験が足りない。今亜紀ちゃんが言ったように、戦いに慣れている奴は、桁違いに強い相手ともやり合えるということだ。戦いは平面じゃない。状況を喰い破れ。それが一人前の戦士だ」
 「はい! 必ず!」



 
 その後、蓮花がここに皇紀が来た時の話を始めた。

 「皇紀様は本当にお優しい方で。わたくしもミユキも大好きなんです」
 「皇紀がですかー?」

 亜紀ちゃんが笑っていた。

 「はい。亜紀様といえども、皇紀様をなじられるとわたくしたちの敵になりますよ?」
 「そーなんですか!」
 「明日から、お肉は出しません」
 「それは困ります!」
 「はい!」

 ミユキも笑った。
 ミユキには、ユーモアを解する心が育っていた。

 「石神様。皇紀様にいただいたシロツメクサを、庭で育てているんです」
 「そうか。あいつが喜ぶだろう」
 「あ、私写真を撮っておきますね」
 「亜紀様、明日のお肉は御期待ください」
 「ほんとですか!」

 みんなで笑った。



 俺たちは切り上げ、寝ることにした。
 部屋に戻って、亜紀ちゃんと横になる。

 「タカさん」
 「なんだ?」
 「蓮花さんもミユキさんも、いい人ですね」
 「お肉を焼いてくれるからか?」
 「アハハハハ!」

 「皇紀もちゃんとやってるようで、安心しました」
 「あいつはそういう奴だよ。中学生だとは思えん」
 「そうですね」
 「あいつはやっぱり、山中にそっくりだ。優しくて優しくて、もうどうしようもない」
 「はい」
 
 



 亜紀ちゃんはやがて寝息をたてる。
 高校生のくせに大酒呑みで、ヤクザをぶっ潰し、怪物を瞬殺する。

 しかし、その静かな寝息からは、山中の優しさが漏れ出している。
 俺を幸せにする、優しい音だ。

 俺も温かな音に包まれて、いつしか眠った。
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