富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
847 / 3,215

榎田さん

しおりを挟む
 店に入って来たのは、昔俺を可愛がってくれた方々だった。
 みんな俺に駆け寄って、抱きしめてくれた。

 「トラぁ!」
 「相変わらずでけぇな!」
 「元気そうじゃないか!」
 「なんですぐに来なかった!」
 「お前、良かったなぁ!」

 みんなでソファに移動し、乾さんは折り畳みの椅子を出して自分で座る。
 亜紀ちゃんは俺のソファの肘宛に座った。
 しばらく、みんなにいろいろ説明させられた。

 「それで今は港区の病院に勤めてて、4年前に親友の子どもたちを引き取って」
 「おう! その一人がこのお嬢さんか!」
 「はい! 亜紀です!」

 亜紀ちゃんが挨拶する。

 「へぇー! 美人だな!」
 「エヘヘヘヘ!」

 話は尽きない。
 みなさんも、自分のことを簡単に話してくれた。

 「榎田、一月前にな、この亜紀さんが連絡をくれたんだ」
 「そうなんだ」
 「トラに偶然話を聞いてな。その翌日にうちを調べて会いに来てくれた」
 「へぇー! やっぱりトラの娘だな!」
 「エヘヘヘヘ!」

 「こいつは俺以上に大食いですよ」

 みんなが笑った。

 「ああ、冗談でもなんでもなくてですね。さっき陳さんのお店で8人前喰ってきましたから」
 「「「「「「エェー!」」」」」」
 「エヘヘヘヘヘ!」

 そしてみんなが爆笑した。



 榎田さんが話した。

 「俺もこないだ陳さんの店に家族で行ってな。ちょっと前にライダースーツで来た二人の話を聞いたんだ」

 みんなが聞いている。

 「それがさ、物凄い美男美女で。それで二人の背中に「六根清浄」って刺繍があったって。俺はびっくりしたんだよ」
 「トラ! お前か!」

 乾さんが叫んだ。

 「ああ、一度付き合ってる女と行きましたね。美味しいものを喰うとそりゃ嬉しそうに笑う奴でして」
 「六花さんですね!」

 亜紀ちゃんが言う。

 「ああ。北京ダックをまた喜んで喰ってなぁ」
 「アハハハハ!」
 「俺はまさかって思ったんだ。陳さんも従業員から聞いたってだけだしな。でもやっぱりお前だったんだなぁ」
 「すいません。みなさんに教えてもらって、あそこより美味い店って知らなくて。勝手に使わせてもらいました」
 「何言ってんだよ。俺たちの店じゃないしな。でも、あそこまで来てたんならなぁ」

 俺はまたみんなに責められた。

 「お嬢さん、こいつの昔の話は聞いてるかい?」
 「はい、いろいろと! ピエロを潰したり、鬼愚奈巣を冤罪で潰したり、宇留間の目を潰したり、それとー」
 「おい、もうやめろ!」

 みんなが爆笑した。

 「そうなんだよ、こいつもう無茶苦茶でなぁ。「赤虎」って言ったら、この辺でも有名でな。俺たちも最初はビビった」
 「あー! 聞きました。タカさんのチームが乾さんたちを停めちゃって」
 「そうそう。乾が自分がやられてる間に逃げろってな」
 「え、そうだったんですか!」
 「そしたらさ、なんかすげぇ礼儀正しいの!」

 みんなが笑った。

 「だからまたみんなで驚いてなぁ。乾が呼び寄せて、そっから仲良くなったんだよな」
 「仲良くだなんて。俺はみなさんにお世話になりっぱなしで」
 「いやいや、俺たちも散々助けてもらったじゃない。うちの由香里の時だってさ」
 「あ、あれは」



 俺が止めるのも聞かず、榎田さんが話し出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 榎田さんは、大地主だった。
 当時もビルやマンション、アパートを幾つも持っていて、その収益で暮らしていた。

 俺も知らなかったが、ある中国系マフィアと揉めていたらしい。
 ビルを貸したら、その組織の拠点となり、榎田さんは立ち退きを要求した。
 それで恨みを買っていた。



 俺はまた乾さんに呼ばれ、乾さんの店に向かっていた。
 馬車道をスピードを落として進んでいると、前方で子どもが白いカローラに入れられるのを見た。

 「なんだ?」

 遠目でよくは分からなかった。
 でも、自分で乗り込んだのではない。
 大人が押し込んだように見えた。

 不審に思い、確かめようと、そのカローラを追った。
 人気の無い道に入り、俺はバンに接近した。
 助手席から男が上半身を出し、拳銃を撃って来た。
 カウルの一部が吹っ飛ぶ。

 「チョ、チョ、チョッー!」

 俺は慌てた。
 咄嗟に運転席側に移動した。

 「あっぶねぇー!」

 喧嘩はしょっちゅうだったが、チャカを使う奴は一回しかいない。
 宇留間のキチガイだけだ。

 俺は、確実に誘拐なのだと確信した。
 ナンバーは覚えた。
 警察に通報すれば、それでいい。
 でも、俺は後ろのシートで泣き顔で俺に向いていた女の子の顔を見てしまった。

 「しょーがねぇー! やるかぁー!」

 俺はバイクから1メートルのステンレス棒を抜いた。
 スピードを上げ、運転席の横に並んだ。
 運転していた男が叫んだ。

 「ホン・フー!」
 「はい?」

 俺はステンレス棒の先を、運転手の頭に突っ込んだ。
 激しく助手席側に倒れ、意識を喪った。

 車が止まった。
 反対側の助手席の男が倒れ込んだ男をどかそうとしている。
 俺はカローラの上に乗り、フロントウィンドウからまたステンレス棒を突っ込んだ。
 助手席の男の顔面、右目に入った。
 後ろから二人の男が出て来る。
 ナイフを持っていた。

 「ほ、ホン・フー!(紅虎!)」
 「ウェイ・シェン・ミー・ホン・フー・ツァイ・ツェー・リー!(なんで紅虎がここに!)」
 「はい?」

 3秒で沈めた。

 丁度車が通りかかった。
 俺は助けを求めて手を振った。
 運転手が物凄い顔をして、悲鳴を上げながら走って去った。

 「あ」

 俺は血まみれのステンレス棒を持ち、足元には血だらけの男たちがいることに気付いた。
 男たちを車の中に入れ、ステンレス棒を拭ってRZに戻し、女の子を脇に抱えて次に来た車を止めた。

 「この子が誘拐されかかったんです! この子を乗せて、警察を呼んで下さい!」
 「え! わ、分かりました!」

 中年の女性だった。
 女性はすぐに助手席に女の子を乗せてくれた。

 「ありがとうございます! おい、もう大丈夫だからな!」

 女の子は俺を見て笑った。

 「お! 強いなー! じゃあな!」

 俺は現場に残った。

 「あー、今日は乾さんとこに行けないなぁ」

 腹が減った。
 警察のパトカーが何台も来て、俺は警察署へ連れて行かれた。

 「あの、連絡しなきゃいけないとこがあるんです!」

 最初、真っ赤な特攻服を着て男たちを半殺しにした俺は、暴行の現行犯逮捕だった。
 徐々に誤解が解け、犯人たちが拳銃を持っていたことから、俺の話が聞いてもらえた。
 俺は電話を借り、乾さんに連絡した。

 「トラ! お前どうしたんだよ」
 「すいません。ちょっとトラブルで。今日はそちらへ行けそうもないです」
 「あ? そうなのか。いや、こっちもちょっと大変なことがあってな」
 「どうしたんです?」
 「実はな、榎田の娘が誘拐されて」
 「えぇ! 俺、すぐにそっちへ行きますよ!」
 「いやいや、それはいい。もう解決したからな!」
 「そうなんですか! よかったぁー!」

 俺は心底安心した。

 「お前は何かあったのか?」
 「それがですね。車で攫われた子どもを助けて、今警察署で取り調べを受けてるんですよ」
 「そうだったのか。大変な目に遭ったな」
 「そうなんです」

 「ん?」
 「あ?」




 榎田さんが飛んで来た。
 地元の名士でもあり、俺はすぐに解放された。
 泣かれて散々礼を言われた。

 「後日、必ず礼をさせてくれ」
 「いいえ! 今まで散々お世話になってるじゃないですかー!」
 「でも、トラ」
 
 俺も困ってしまった。
 乾さんの店に行き、乾さんにも力を借りて何とか礼は断った。

 「じゃあ、トラ。この弾かれたカウルを新調してやろう」
 「え! ほんとですか!」

 乾さんがそう提案してくれた。

 「ついでにオーバーホールもしてやるよ。今よりも速くなっぞ!」
 「ありがとうございます!」

 榎田さんもそれで何とか納得してくれた。
 俺はRZを預け、来週取りに来ることになった。

 「あの、それでですね」
 「なんだよ、トラ?」
 「すいません。電車賃貸してもらえませんか?」

 乾さんと榎田さんが大笑いした。

 「あと、腹減っちゃって。水を飲んでもいいですか?」

 大爆笑された。
 俺は二人に陳さんの店に連れて行かれ、たらふくご馳走になった。
 帰りに榎田さんから一万円を握らされた。

 駅まで、乾さんのドゥカティで送ってもらった。





 俺は電車の中で、物凄く浮いていた。 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...