富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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砧の妖怪

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 「タカさーん! どんなのがいるんだろうねー!」

 ルーはご機嫌だ。

 「早く見てみたいよねー!」

 ハーももちろんだ。

 「砧(きぬた)なんだから、タヌキとかじゃねーの?」
 「「それだ!」」

 俺たちは笑った。

 今は水曜日の7時。
 俺たちは世田谷区の砧公園に向かっている。
 まあ、遊び半分だ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 麗星から電話が来た。
 昨日の夜のことだ。

 「石神様。新たな「あやかし」の情報が入りました」
 「は?」
 「もしかしたら、石神様の御役に立つかもしれません」
 「え?」
 「場所は東京の世田谷にある砧公園です」
 「だから?」

 麗星の話では、江戸時代の古文書から最近発見されたらしい。
 東京は、昔はただの未開地だった。
 北条氏が鎌倉に幕府を開いたが、東京などは湿地帯も多く、見向きもされなかった。
 発展を始めたのは太田道灌からだ。
 しかし、本格的な幕府を置いた徳川家康が、江戸を大改革し、世界最大の都市を敷いた。
 麗星の言う江戸時代の文献であれば、つじつまは合う。
 麗星は、江戸を開くに当たり、ある「あやかし」の存在の力が大きかったのだと言った。

 「徳川家康が江戸を初めて見た時、ただの小さな寒村のようだったと言っています。そこから短期間で大都市を築いたのは、その「あやかし」の力のお陰だと」
 「へー」
 「わたくしの、あ、いえ「みんなの」石神様!」
 「なんでもいいよ」

 「石神様はこれから大規模な都市を築くこともあるでしょう」
 「そんな計画はないんですけど」
 「その時には、きっとその「あやかし」が役に立つと!」

 相変わらず、他人の話を聞かない女だった。

 「申し訳ありませんが、文献からはどのような「あやかし」かは分かりかねます。ですが、恐らく建設関連に特化したものではないかと」
 「そんなのがいるんですか」
 「はい。「あやかし」によっては建築資材を大量に用意したり、石組みを得意とするものなどが」
 「でも、現代建築ではどうでしょうねー」
 「分かりません。ですが、一度確認するだけでも」

 麗星は文献で現在の砧公園の辺りに封印、もしくは眠っていると言っていた。

 「あの、詳しいお話も差し上げたいので、一度そちらへ伺いたく」
 「あー、来週の土曜日とか」
 「はい! 喜んで!」
 「うちの全員で別荘に行きますので、誰もおりません」
 「……」

 面倒なので、俺が直接行ってみると言った。
 別に興味も無いが、ちょっとした肝試し的な感覚だ。
 双子を誘った。
 幽霊的なものでなければ、双子は興味を持っている。
 タマなどは、時々呼んで双子と話をさせるようになった。
 「あやかし」の量子力学的な解析を始めたようだ。
 多次元構造の量子的世界構築が分かって来たと言っていた。
 俺には興味はないが、話し相手にはなってやっている。

 《エントロピーの法則は、「観測者」の無知だ》
 
 俺が出した命題を、双子は唸って賞賛した。

 「マックスウェルのデモンは、秩序を再構成できる」

 コップの水を海に注げば、二度とコップの水の分子を取り戻すことは出来ない。
 拡散し、他の分子と結合したり分解されるからだ。
 しかし、果たしてそうなのか。
 そういうことを御喋りの合間に提示した。

 俺自身はどうでもいい。
 俺はそのうちに死に、宇宙はそのうちに停止する。
 何か不都合が?

 まあ、それまでは楽しむことにしよう。
 俺は双子に麗星の電話の内容を伝え、一緒に出掛けようと言った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「どんなタヌキかなー」
 「ちょっとカワイイ系?」

 双子はハマーの後ろのシートでウキウキしている。
 俺も、二人とドライブが出来て嬉しい。
 夕飯は済ませているが、砧には「不二家」のレストランがあったはずだ。
 帰りにちょっと何か食べてもいい。

 ほどなく、砧公園に着いた。
 俺は「虎王」を手に、車を降りる。
 双子もドアを開けて降りて来た。


 「どうだ、何か気配はあるか?」

 俺が聞く前に、二人は一帯を観察している。

 「何もないっぽい」
 「たぬきー!」

 俺は歌った。

 ♪ たんたんタヌキのー ♪

 「「ギャハハハハハハ!!」」

 双子が大笑いした。
 俺の知っている中で、エロ話で最高に気が合うのが、双子だった。
 俺のどんな下品なジョークにも、ついて来れなかったことはない。

 俺たちはしばらく様子を伺っていたが、何も無かった。
 まあ、こんなものだろう。

 俺は「不二家」で、ちょっと摘まんで帰ろうと言った。

 「おい! 「ちょっと」だからな!」
 「「はーい!」」

 公園を出口に向かおうとすると、離れた場所に犬がいた。
 飼い主の姿は無い。
 俺は「ゴールド」効果に注意し、犬の動向を見守った。

 「おいでー」

 ハーが犬を呼んだ。
 犬が駆け寄って来た。
 目の前で立ち止まる。

 「それは「虎王」ですか?」
 「「「はいーーー?」」」

 犬が喋った。
 俺は咄嗟に「虎王」を抜いた。
 双子も構えた。

 「や、やめてやめて!」

 犬が脅えた声を出した。
 よく見ると、白い狐だった。

 「「タヌキじゃないじゃん!」」

 双子が怒った。

 「え?」
 「きぬたなんだから、タヌキでしょ!」
 「いえ、そんなことを言われても」
 「おい、タヌ吉!」
 「!」

 俺が呼ぶとキツネが硬直した。

 「いきなり名付けぇ!」
 「なんだと??」
 「はい! もうあなた様の僕でございます」
 「なに?」
 
 俺はベンチに座り、ルーに缶コーヒーを買ってくるように言った。
 お前も飲むかと聞くと、タヌ吉は頷いた。
 俺は缶をタヌ吉の前に置いた。

 「……」

 フタを開いてやった。

 「それでよー、お前はなんなのよ? 江戸を作ったって聞いたけど?」
 「徳川様に協力し、江戸の町を作りました」
 「へー。それからずっとここにいんの?」
 「はい」
 「他の土地へ行けないとか?」
 「いいえ」
 「じゃあ、なんで」
 「はい? 別に移動する理由もありませんので」
 「なるほど」

 命じられなければ何もしないタイプか。
 今はそんなのも多い。

 「お前、何ができんの?」
 「土地の霊的防衛などを」
 「へー」
 「じゃあ、なんかやってみろ」

 タヌ吉が広い場所に向いた。
 一瞬光ったかと思うと、地面にでかい文字が刻まれた。

 俺たちは驚いて近づいた。
 
 《偉大なる石神高虎様 別宅予定地 20××年 タヌ吉建設》

 「ルー! 消せ!」

 ルーが「虚震花」を連発して文字を吹き飛ばした。
 タヌ吉の頭を引っぱたく。

 「ああ、面白かった。じゃあな」
 「あの、私は……」
 「呼ぶまで待ってろ」
 「はい」


 俺たちは「不二家」へ寄った。
 三人でメロンクリームソーダを頼み、双子はそれにミックスグリルを付けた。

 「タカさん、タヌ吉はどうするの?」

 ハーが聞いて来た。

 「別になー」
 「タカさん、これなかなか美味しいよ!」
 「そうか」  

 誰も、別にタヌ吉に興味は無かった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「あれが石神様……」

 美しい着物の女が、石神たちが去った方角を向いて呟いた。

 「お話ししちゃったー!」

 地面を軽く跳ねる。

 「あれが今の「虎王」の主ねー。カッコイイ人!」

 両手を頬に充て、顔を赤らめた。



 来るべき戦いにおいて、有用な戦力を得たことを石神はまだ知らない。
 道間麗星の率いる「赤龍」軍と、石神が独自に集めた「蒼虎」軍は、「業」の「百鬼夜行」軍と壮絶な戦いを展開する。
 まだ先の話である。  
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