富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,138 / 3,215

西池袋の妖怪

しおりを挟む
 磯良を連れ出した水曜日の夜。
 家に帰ると、亜紀ちゃんが麗星から電話があったと言った。
 俺は磯良がいたので、スマホも持ち歩いていなかった。

 夜の9時を回っていたが、麗星に電話した。

 「夜分にすいませんね。今帰った所なんですよ」
 「いいえ、こちらこそ。急ぎの用件ではなかったのですが、御耳に入れて置きたい情報がございました」

 麗星は、また新たな「あやかし」のことが分かったと言った。

 「住所は豊島区西池袋……」

 随分と覚えのある住所だった。

 「前回と同じく、江戸時代の古文書から発見されたのです」
 「そうなんですか」
 「前回もそうだったのですが、今『週刊特ダネ妖怪』のバックナンバーを解読しているところで」
 「……」
 「解読というのは、何しろ癖のある草書で書かれておりますの。大抵の崩し字が読める者でも難儀していますのよ?」
 「そうなんですか」
 「江戸の瓦版屋・一江妖子が作っていたようなんですけどね」
 
 なんか、嫌な名前だ。

 「結構、マニアックなファンが多かったようです。飛脚便で取り寄せる人間までいました。うちも、こういう家柄ですので、一応祖先が全部集めていたようです」
 「妖怪の情報誌のようなものなんですか?」
 「さようでございます。ある旗本と懇意にしていたようで、その旗本の方のご援助で続けていたんですね」
 「旗本の名前は分からないんですか?」
 「いえ、石神虎之介という方のようですね」
 
 御先祖だ。

 「そのお名前を見て、わたくしが解読を命じましたのよ? 石神様の御先祖の方でしょうか!」
 「いえ、分かりませんが」
 「そうですかー。ところで、京都にはいつ頃お出でいただけるのでしょうか」
 「ま、まあ、そのうちに」
 「さようでございますか。わたくし、いろいろ「オモチャ」を集めておりますの」
 「アハハハハ」
 
 俺は丁寧に礼を言い、電話を切った。
 双子を呼んだ。
 マイクロビキニを着ていた。
 両肩に、今日はマングースとハブを着けている。
 「走り」に行くところだったようだ。

 「麗星さんが、また妖怪の情報をくれたぞ」
 「「いくー!」」
 「今日はもう遅いからな。明日の夜に出掛けるか」
 「「うん!」」
 「それでな、場所が西池袋の……」
 「え! 院長先生の隣の土地じゃん!」
 「廃屋が物騒だからって、タカさんが買い取って防衛システムを入れたよね?」
 「そうなんだよ。俺も驚いた」

 双子がお互いの顔を見合っていた。
 恐らく、こいつら特有の超高速思考をしている。
 疑似的に三人の思考を交差して、途轍もない情報処理をしている。

 「そういえば、更地にする時に東雲さんが庭に小さな「御社」があったって言ってたよね!」
 「あ? ああ! そういえば言ってたな!」
 「ああいうのはヤバイんで、そのままにするからって」
 「おう! そうだった!」
 「決まりだね!」
 「おう!」

 俺たちは、明日の晩に出掛けることにした。
 俺は玄関まで双子を見送り、一般の方にはご迷惑はかけるなと言った。
 門の所に、真夜の妹の真昼がいた。
 双子と同じ格好をしている。
 あいつ、あの恰好でうちまで来たのか。
 まあ、三人で楽しそうなのでそれでいい。




 翌日。
 俺は一江を部屋に呼んだ。

 「なんですか?」
 「仕事とは関係ねぇんだけどよ」
 「忙しいんですけど」

 一江の頭を引っぱたく。

 「お前の先祖で、江戸で瓦版屋とかやってた人がいないか?」
 「さー。でも、昭和に入って、先祖の一人が一時印刷業をしてたようですけどね。後に潰れてますが」
 「ざまぁ」
 「はい?」

 俺の呟きは一江には聞こえていない。

 「あ! でも、確かに江戸にいたことはあるらしいですよ。何でも、物凄いイケメンの旗本の人と先祖の一人が恋仲になって。子どもをもうけたんですって!」
 「お前! ぶっ殺すぞ!」
 「なんでですかぁー!」

 一江が怒鳴る。
 俺は気持ちが悪くなった。

 「私が子どもの頃には、よくお母さんから「先祖に超絶美形の血が入ってるから、あなたもきっといつか美人さんになるよ」って言われてました」
 「途中でサルの血とか混じったんだろう」
 「何言ってんですかぁ!」

 一江を部屋から追い出した。
 散々文句を言っていた。

 石神虎之介。
 俺は先祖大好き人間だから、家系のことは結構調べた。
 俺の先祖は戦国時代に大活躍し、そこから江戸時代は旗本の身分で通した。
 虎之介は一江が言った通り、その顔の美しさで有名だったようだ。
 剣の腕前は石神家は全て達人だったが、虎之介は美貌で一層の名を馳せた。
 江戸中の女が夢中になっていたようだ。
 俺自身の子ども時代のこともあり、随分と親近感がある。
 でも、まさか一江の先祖にまで手を出したのだろうか。
 流石に、そこまでの記録はねぇ。





 6時半に家に戻り、俺は急いで夕飯を食べた。
 ハマーで行けないこともないが、何しろ院長宅の隣だ。
 考えた挙句、柳も誘った。
 アルファードで四人で出掛けた。

 俺は助手席に座り、また運転のダメ出しをした。

 「もーう!」

 柳がゲンナリする。

 40分ほどで着いた。
 院長は帰っているはずだが、今日は挨拶しない。

 院長宅の隣は、人が住まなくなってしばらく経ち、荒れ放題になっていた。
 門も壊れ、若い連中の肝試しの場所にもなっていた。
 火事でも起こされると困る。
 だから俺が密かに買い、丁度良かったので防衛システムを入れた。

 建物は鉄筋コンクリートの四角の箱だが、地下に殲滅戦装備のデュール・ゲリエを10体と高速特化の救出用タイプと飛行運搬のためのガーディアン機体がある。
 地上部分にも、偽装されてはいるが、幾つかの超兵器が備わっている。

 ジェヴォーダンの襲撃にも対処できるスペックだ。
 院長夫妻は不気味な隣の廃屋が撤去され、鬱蒼と茂った庭木の枝が敷地内に入って来なくなったので、喜んでいた。


 門を開け、静かに敷地に車を入れた。
 双子が早速庭の隅の「御社」を見つけた。
 元は朱に塗られていただろう社はほとんど塗装が剥げている。
 隣に石の塚もあった。
 多分東雲たちが置いたであろう、カップ酒が供えてあった。
 一通り掃除し、俺は更に持って来た一升瓶と花を供えた。

 「どうだ、何か感じるか?」
 
 双子に聞いた。

 「うーん」
 「ちょっとなー」

 あんまり無いらしい。

 俺はアルファードの中から、「虎王」を持って来た。

 「おい、誰かいるなら出て来い!」
 「「あ!」」

 双子が同時に叫ぶ。

 雰囲気が変わった。
 柳にも感じられたようで、俺にくっつく。

 そのまま何も出て来ないので、俺は「虎王」を抜いた。

 「出て来ないのなら、誰もいないと見做す。この社と塚はぶっ壊すからな」
 
 《出て来てますよー!》

 「「テレパシー!」」

 俺たちは社と塚を見た。
 何も見えない。
 更に近づいてよーく見た。
 なんか手を振ってる。
 塚の上だ。




 アリだった。



 「虫かよ!」
 「アリじゃん!」
 「踏むぞ!」
 「怒鳴られながら来たのに!」

 みんなで散々文句を言った。
 体長8ミリほど。

 「期待外れだったな。じゃあ、帰るか」
 
 《待って!》

 「なんだよ」

 《「虎王」の主様に呼ばれて、役立たずと思われたら、もうこの世界で生きて行けません!》

 「知るかよ。ひっそりと死んでくれ」

 《そんなぁ! 私、お役に立ちますから!》

 「でもなぁ。仲間にするったって、知らないうちに踏んじゃうぞ?」

 《大丈夫です! それに、私、「暗殺拳」を使えますから!》

 「そういうのは間に合ってんだよな」

 尚もギャーギャーと煩いので、俺はタヌ吉を呼んだ。

 「なんでございましょうか」
 「この虫がよ。仲間になりたいって言うんだけど」

 タヌ吉がアリを見た。
 頭を下げる。

 「これは「髑髏王邪々丸様。お久しぶりでございます」
 《ああ、お前か!》

 「こいつ、知り合いなのか?」
 「はい。「死の王」とも呼ばれ、あらゆるものの死を操る方でございます」
 「「「「!」」」」

 「空の王とか地の王に匹敵するのか!」
 「さすがにあそこまでは。ただ、理を殺すことが出来ますので、主に仕えるには十二分の方かと」
 「おし! 命名! 「モハメド」!」

 アリの身体が輝いた。

 《ありがとうございました!》
 
 「アリだけに?」
 
 《?》





 俺は家に帰り全員を集めた。
 今後、アリを見つけても踏まないように気を付けろと言った。
 俺も気を付けなきゃ。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...