富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,439 / 3,215

大雪の日

しおりを挟む
 2月下旬の木曜日。
 久し振りに大雪が降った。
 予報で分かっていたので、俺は病院の手の空いている人間を総動員して、朝の6時に集合して地下鉄口から病院までの雪かきをした。
 元々、近所の煎餅屋が無償でうちの病院までやってくれたのだ。
 だから前回はお礼を兼ねてうちでやろうとしたら、またやって頂く羽目になった。
 しかも、うちが人手を出したお礼だと、店の美味しい煎餅まで大量に頂いてしまった。
 本当に申し訳ない。
 
 そこで、今年は早朝の集合にした。
 絶対にうちで雪かきをする。
 
 


 幸いに、夜明け前に雪はやんでいた。
 うちの病院の人間は10人。
 俺もやる。
 
 「強制では無いが、明日の早朝にうちの病院の周辺の雪かきをする!」

 夕べ子どもたちを集めて俺が言った。

 「強制ではないぞ? でも、やりたい奴は朝の5時半に出発だ!」
 「「「「「……」」」」」

 全員来てくれた。
 うちからスコップなどの道具も積んで来た。
 亜紀ちゃんと柳は日比谷線神谷町駅から。
 皇紀と双子は銀座線虎ノ門駅から。
 俺は煎餅「ハリマン屋」周辺を。
 他の10人は病院の周辺をやらせた。

 大雪と言っても、東京だ。
 歩道の雪を車道へ投げて行けば通行の車が踏んで溶かしてくれる。
 量が多い場合は車道の脇に積み上げて行った。
 俺の指示通りに子どもたちが動く。
 病院の10人は玄関から敷地の通り道を雪かきして行く。
 それと駐車場の入り口周辺。
 俺はハリマン屋の入り口や社員さんの通りそうな場所の雪をどけていった。
 途中で警備員が出て来たが、名刺を渡し、以前にうちの病院への道の雪かきをしていただいたのだと言うと、感謝された。

 「前回の大雪の時にもうちでやろうとしたんですけどね。ここの社員さんの方が手際がよくて」
 「そうだったんですか!」
 「今年こそは、うちでやらせていただきますよ!」
 「それはそれは。まだ誰も出勤していないので申し訳ありません」
 「とんでもない! こちらこそです!」

 作業に戻った。
 動いていると暑くなり、俺はボンバージャケットを脱いで薄手のセーターになった。
 それでも汗が出て来た。
 



 7時頃になると、子どもたちが既に分担の作業を終えて来た。
 まだ時間は余っているので、周辺のビルなども入り口までの雪かきをさせた。
 異例の大雪のため、子どもたちは休校だった。
 交通機関が動いていないものが多い。
 
 8時になり、周辺はほぼ終わった。
 病院内も綺麗に道が整っている。
 ハリマン屋の方らしい人間が挨拶に来た。

 「石神先生! 今年は申し訳ありませんでした!」
 「いいえ、何度もうちがお世話になってましたので。今年こそはと頑張りましたよ!」

 俺が明るい笑顔で笑うと、ハリマン屋の人も笑ってくれた。
 俺は子どもたちに言って、食堂からでかい寸胴を3つ持って来させた。
 一緒にハリマン屋まで行く。

 「みなさん、寒い中を集まられて冷えたでしょう。甘酒を作りましたので、どうぞ召し上がって下さい」
 「そんな! 石神先生!」

 子どもたちが寸胴から紙コップに注いで渡して行った。
 俺たちもハリマン屋の敷地で一緒に頂く。

 「前回はうちが何もしないのに、美味しいお煎餅まで頂いてしまって。今年は全部うちでやらせてください」
 「困りましたなぁ」
 
 名刺を交換すると、支店長さんだった。
 トップ自ら陣頭指揮を執るなんて、大した店だ。

 「あとでうちの煎餅を持たせますので、みなさんで召し上がって下さい」
 「いいえ! それも前回で恥ずかしい思いをいたしました。みなさんにやって頂いた上に労われてしまいまして。どうか今年はうちに全部やらせてやってください」
 「そう言われましても」

 俺は何とか納めてもらった。
 それでも支店長さんも納まらず、人数も少ないということで、一袋だけ頂いた。

 病院の人間と子どもたちを食堂へ連れて行き、朝食を食べさせた。
 朝から何も食べていないので、みんな空腹だった。
 厨房長の岩波さんが、食事を用意してくれていた。
 材料はうちの持ち込みだ。
 
 けんちん汁。
 焼き鮭(50切れ)。
 目玉焼き(50枚)。
 ハム焼き(厚切り100枚)。
 それに漬物。

 みんなで頂いた。
 岩波さんたちにお礼を言って、子どもたちは帰った。
 俺はスーツに着替えて仕事に入った。

 響子に頂いたカレー煎餅を持って行くと喜んだ。
 響子の好物だ。

 「美味しいね!」
 「そうか」

 六花と一緒に嬉しそうに食べていた。




 その夜、8時頃に家に帰り、夕食を食べた。
 カレーだった。

 「お替り」
 「え?」

 亜紀ちゃんが不思議そうな顔をする。
 
 「なんだよ?」
 「それで最後です」
 「あんだと!」

 「だって、カレーですよ?」

 残るわけがないと言われた。
 そういう家だった。

 俺も諦めて風呂に入り、酒の用意をした。
 つまみに焼きウドンを作った。
 亜紀ちゃんに半分喰われた。

 「今日は御苦労さん」

 亜紀ちゃんと柳に言った。

 「寒かったですよね」
 「そうだな」
 「みんなで虎温泉に入りました」
 「優雅だな!」
 「アハハハハハ!」

 何となく酒の回りが早かったので、俺は切り上げて寝ることにした。
 
 「なんか寒いな」
 「そうですか?」
 「暖房は入ってるよな?」
 「それはもう。私は温かいですよ?」
 「私もです」

 亜紀ちゃんと柳が不思議がった。

 「そうか。まあ、もう寝るわ」
 「あ! 私もー!」
 「じゃあ、私もー!」

 俺は笑って、早く片付けて来いと言った。
 部屋で横になると、ロボが寒いのでくっついてくる。

 「お前の身体も冷たいなー」

 寒い。
 ロボが寒いだろうと抱き締めてやる。
 本当に身体が冷たくて可哀そうだった。

 亜紀ちゃんと柳が入って来て、一緒にベッドに潜る。

 「タカさん、あったかいですね!」
 「ほんとだ!」

 二人が喜ぶ。
 俺は二人の身体が冷たいので参った。
 寝ようと思ったが、寒くて眠れない。
 亜紀ちゃんと柳は温かいと喜んでいる。
 
 おかしい。

 それでも徐々に温まり、俺も眠った。
 夢を見た。

 久し振りに、日本地図が天井に浮かび上がり、それが徐々に黒く塗りつぶされて行く。
 俺が子どもの頃から何度も見た、高熱を発した時の夢だ。
 意識が明滅する。
 不味いと思うすぐ後で意識を喪う。
 それを繰り返した。
 身体を動かそうとするが、意識が途切れ夢の中と現実が交錯する。
 何も出来ない。
 




 「タカさん! タカさん!」

 亜紀ちゃんと柳が俺を揺り起こそうとしている。

 「柳さん! タカさんに声を掛け続けて」
 「うん!」

 亜紀ちゃんが離れてすぐに戻って来た。

 「44度!」

 亜紀ちゃんの叫び声が聞こえた。
 そのまま部屋を飛び出して行った。




 次に目が覚めた時、俺は意識を取り戻していた。

 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが泣いていた。
 柳が部屋に入り、氷を洗面器に入れて来た。

 「おう。熱が出たようだな」
 「タカさん! 大丈夫ですか!」
 「ああ、大分いいよ。熱を測ってくれ」

 亜紀ちゃんが枕元の体温計を見た。
 
 「42度です!」
 「下がったか」
 「覚えているんですか!」
 「44度というのはな。久しぶりだ」

 亜紀ちゃんが抱き着いて来る。
 
 「薬剤庫に「アセトアミノフェン」の錠剤がある。柳、分かるか?」
 「はい! 探してきます!」
 「頼む」

 解熱させなければ、身体が不味い。
 下がらなければ、また氷風呂だ。
 そういうことを亜紀ちゃんに話した。

 「用意をしておきます」
 「まだいい。薬を飲んでみてからだ」
 
 亜紀ちゃんが心配そうだ。

 「ああ、柳に経口補水液も持って来るように言ってくれ。冷蔵庫に在庫があるはずだ」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが走って行った。
 すぐに見つけて持って来る。
 俺はコップにあけて一杯飲んだ。
 身体に染みわたる感覚がある。
 やはり、脱水症状を呈していたようだ。
 その自覚も無いままでいた。
 あまり良い状態ではない。

 「院長先生をお呼びしますか?」
 「まだいい。薬で経過を見てからだ」
 「はい」

 柳が薬を持って来た。
 俺が確認して二錠口に入れて経口補水液で呑み込む。

 双子が亜紀ちゃんに呼ばれて入って来た。
 泣きそうな顔になって俺に抱き着いて来た。

 「タカさん! すぐに治すから!」
 「待っててね!」

 俺に「手かざし」をした。
 身体がどんどん楽になっていく。

 「ああ、気持ちがいいぞ」
 「「うん!」」

 


 俺は眠った。 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...