富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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挿話: 石神家 第二回「これだけは喰うな!」大会

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 少し先の4月半ばの月曜日の夜。
 俺は仕事から帰り、少し疲れていた。
 甘い物が欲しかった。

 「おい、木村から送られて来たリンゴがまだあっただろう?」
 「はい」

 亜紀ちゃんが返事をする。

 「誰か、焼きリンゴを作ってくれ」
 「はーい!」

 ハーが手が空いていたので用意する。
 キッチンの隣の食品貯蔵部屋へ行った。

 「タカさーん!」

 ハーが段ボールを持って来る。
 俺に見せた。

 「ほら! ほとんど傷んじゃってますよ!」
 「なんだと!」

 木村はよくうちに食べ物を送ってくれる。
 俺が山中の子どもを引き取ったことを知ってから、特にそうだ。
 海産物が多いが、果物、特にリンゴを年に何度か送ってくれる。
 
 俺はリンゴはあまり好きではないので、子どもたちに主に食べさせている。
 ただ、焼きリンゴは好きなので、そうやって時々食べる。

 「亜紀ちゃん!」
 「すいません!」
 「ちゃんと管理しろよ! 木村がお前たちのことを思っていつも送ってくれるんだから!」
 「本当にすみません!」

 亜紀ちゃんが何度も頭を下げて謝る。
 食品管理は亜紀ちゃんの管轄だ。

 「しょうがねぇ、全部処分しておくように」
 「はい!」

 その夜、亜紀ちゃん、柳と軽く飲んだ。

 「タカさん、本当にすみませんでした」
 「もういいよ。まあ、うちはたくさん物が贈られるから大変なのは分かるしな」
 「いいえ! 普段あんなに食べ散らかしているのに、本当に恥ずかしいです」
 「そう気にするな。亜紀ちゃんも一人で大変なら、誰かに手伝ってもらえよ」
 「亜紀ちゃん、私、手伝うよ!」
 「柳さん!」

 亜紀ちゃんが泣きべその顔で柳の手を握った。

 「こういうのはな、他の人間にも気に掛けるようにした方がいいぞ。思いも寄らない発見もあるかもしれない」
 「はい! みんなに頼んでおきます!」

 その晩はそうやって終わった。




 そして土曜日。

 「みんな! 頼んでいたことは大丈夫かな!」
 「「「「はーい!」」」」

 「おい、何をしたんだ?」

 昼食の席で亜紀ちゃんが他の子どもたちを集めていた。

 「ええ! 石神家 第二回「これだけは喰うな!」大会を開催いたします!」
 「「「「わーい!」」」」

 ぱちぱちぱちぱち。

 「おい! またあれをやるのかよ!」

 俺は驚いて叫んだ。

 「今回は大丈夫ですよ! みんな前回の恐怖は忘れてませんから。ただ「不味い」ものを探して来るようにしただけです」
 「ほんとかよ。鍋横商店街はかなりディープだぞ」
 「あ、タカさんには普通のお食事を用意してますから! ロボもね!」
 「にゃ!」
 「まあ、俺も付き合うよ」

 亜紀ちゃんが涙目で笑った。

 「じゃー! 最初はルー!」
 「はい! 私は「頑固百年煎餅」を買ってきましたー!」
 「ああ、「うちの煎餅は百年もちます」って店か」
 「はい、タカさんはよく御存知で」
 「まあ、煎餅はそれほど好きじゃねぇから買ったことないけどな」
 
 ルーがテーブルのみんなの皿に配る。
 やけに袋が黄ばんでいる。

 「美味しくないって評判でした」
 「へぇー」

 みんなで袋を開けた。
 
 「かったーい!」
 「割れないよー!」
 
 味もおかしい。
 物凄く塩酸臭い。
 俺は袋の表示を見た。

 《明治42年製作》

 「百年以上前じゃねぇか!」
 
 「あ! これ!」

 柳が表示で見つけた。

 「《腐りませんが、歯が折れることもありますのでご注意下さい》だって!」
 「とんでもねぇな!」

 みんなで捨てた。



 「じゃー、次は柳さん!」
 「はい! 私は「〇〇クリーニング」で置いている《石鹸饅頭》を」
 「へぇー」
 「ちょっと食べてみたんですけど、不味いのなんのって」
 「そんなにか」

 みんなの皿に柳が配る。
 ハーが最初に齧った。

 「まっずー!」

 喋っているうちに、口からどんどん泡が出て来た。
 たまらずに皿に戻す。

 「ちょっと不味すぎだよ! 食べらんないよー」

 ハーがキッチンでうがいをした。
 俺は包の表示を見た。

 《石鹸です。口に入れないで下さい》

 「石鹸じゃねぇかー!」
 「え!」
 「饅頭型のただの石鹸だよ!」

 柳がハーに頭を引っぱたかれた。



 「気を取り直して、じゃあ、ハー!」
 「はーい!」

 ハーがみんなの皿に、直径10ミリほどの何かの卵を盛って行く。

 「なんだこりゃ?」
 「何の卵ですかね?」

 「これは「未来食堂」から貰ってきました。そのままでも食べれるそうですが、煮ても焼いてもいいそうです」
 「ふーん」
 「でも気味が悪いですね」

 透明なゼリーのような中に、黒い核がある。
 カエルの卵に似ている。

 「カエルの卵のようです」
 「やっぱそうか!」
 「写真を貰ってきました!」

 みんなでハーに近寄って見る。

 「カエルですかね?」
 「でも足が8本あるぞ!」
 「未来ですから」

 「角もありますね」
 「ネジくれてんぞ!」
 「未来ですから」

 俺が危ないから喰うなと言った。

 廃棄。



 「え、えーと」
 「亜紀ちゃん、もう辞めようぜ」
 「いいえ、折角ですから。じゃあ、皇紀!」
 「はい! 僕は「ハイジおばさん食堂」に行きました」
 「おい! あれは幽霊ババァが始めた店だぞ!」
 「えぇ! だから「お久しぶり」なんて言われたんだ!」
 「何を貰って来たんだよ!」
 「ちくわです」
 「みんな喰うなぁ! 廃棄!」

 全員が皇紀の尻を蹴った。



 「じゃあ、最後に私が……」
 「しゅーりょー!」
 「タカさん!」
 「お前ら、ヤバ過ぎだってぇ!」
 「私のはまともですよー」
 「信じられん!」
 「だって、いつも使ってた「〇〇精肉店」ですから!」
 
 梅田精肉店と取引する前は、毎日のように使っていた。
 今でも時々は買い物をする。
 高級な肉を扱っている店だ。

 「あそこで不味い肉なんか売ってるのかよ!」
 「ありましたよ! 何でも最近新しく取引をするようになったんですって」
 「へぇー」
 「不味いっていうか、あんまり美味しくはないっていうか」
 「そうなのか」
 「だから他の肉と合挽にして安く売ってるそうです」
 「ふーん」

 確かにまともそうだ。

 「富士の青木ヶ原樹海の中にある牧場らしいです」

 俺は嫌な予感がした。

 「おい、あんなところに牧場なんかねぇぞ!」
 「え、でも確かに樹海の中だって……」

 「タマ!」
 「なんだ、主」

 俺が呼ぶと、すぐに着物姿のタマが出て来た。

 「この肉が何の肉か分かるか!」
 「ああ、人肉だな」
 「!」

 タマがじっと見ている。

 「自殺者の肉のようだな。食べない方が良いぞ」
 「……廃棄……」




 「亜紀ちゃん」
 「はい」
 「結局全部廃棄だったな」
 「はい」

 「食べ物は大事にしような」
 「はい」

 亜紀ちゃんは以前にも増して、しっかりと食糧管理をするようになった。   
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