富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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皇紀の出発

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 「じゃあ、皇紀。宜しく頼むな」
 「はい!」

 3月下旬の金曜日。
 皇紀はこれからフィリピンへ行く。
 年明けから交渉をしていたが、フィリピン政府の態勢が整い、「虎」の軍の軍事基地建設の承諾を得た。
 実際の作業は、皇紀が現地で土地の選定を行ない、それから建設業者などを決めて行く。
 多くはアラスカの基地を建設した業者が担うことになるが、フィリピン人の作業員も募集することになるだろう。
 細かい実務レベルの打ち合わせは、今後ということだ。

 先週の土曜日に皇紀の壮行会を開き、みんなから頑張れと言われた。
 危険は無いと思われるが、俺は蓮花と皇紀の護衛兼秘書官として2体の特別なデュールゲリエを作った。
 これまでの技術を結集し、最高性能の機体だ。
 また現地では千万組の真岡を中心に、真岡の仲間たちにも協力を仰ぐ。
 但し、もう政府と話は付いているので、然程のフォローも必要はないと思われる。
 皇紀をハマーに乗せて家を出た。
 大量の皇紀のスーツなどを積んでいる。
 フィリピンでは大統領や政府の高官たちとも会うので、ブリオーニなどでスーツを10着作り、靴なども揃えた。
 まだ子どもの皇紀が舐められてはいかん。
 
 「タカさんは明日はCDの録音ですよね?」
 「あー、もう! 折角忘れていたのに!」
 「え、すみません!」

 橘弥生に会うのが怖い。

 「ところで、「タイガーファング」で行くんですよね?」
 「そうだよ。一応お前の安全のためにな。普通の航空機では何があるか分からんからなぁ」
 
 戦闘機やミサイルで攻撃されるかもしれない。
 皇紀は大丈夫でも、他の乗客を巻き込んでしまう。
 それに護衛のデュールゲリエもいる。
 手続きをすれば一緒に搭乗できるが、めんどくさい。 

 「あの、いつもの「花見の家」では不味かったんですか?」
 「そうじゃないよ。お前の準備のためだ」
 「僕の?」
 「ああ」

 まだ詳しくは話さない。
 こいつが抵抗すると厄介だ。
 
 「お前はまだ子どもだし、顔つきも山中に似て来て優しいからな」
 「そうですか!」

 皇紀が父親に似て来たと言われて喜んだ。

 「服装は揃えたけど、素のお前を何とかしなきゃならん」
 「はい!」
 「髪とか整えるからな」
 「なるほど!」

 皇紀は嬉しそうに笑った。
 皇紀は俺の髪を真似て、サイドバックにして上の髪を緩く流したようなセットをしていた。
 指揮者のカラヤンのイメージだ。
 ただ、学校へ通わなくなってから、俺の指示で髪を伸ばし始めた。
 そこから後ろで髪をまとめるような感じで過ごして来た。
 時々双子に三つ編みや団子にされた。
 随分と伸びた。
 今は背中の中間くらいまである。
 時々総髪的にセットすると、双子がカッコイイと褒めて皇紀が喜んだ。
 
 「お前の持ち味は優しさだけどな。でも今回は相手にインパクトが必要だ」
 「インパクトですか」
 「何しろ俺の名代なんだからなぁ」
 「はい!」

 皇紀が喜んだ。
 荻窪の理髪店に着く。
 
 「石神さん! 皇紀君!」

 桜が店の前で立って待っていた。
 皇紀が驚く。

 「桜さん! どうしてここへ?」
 「石神さんに呼ばれまして。今日はアドバイザーです」
 「そうなんですか」

 三人で店に入った。
 すぐに店主が皇紀の頭を触り、頭骨の形や髪の質などを丹念に調べた。
 その道の一流の人間だ。
 最初に髪を洗い、整髪料などを落とす。
 長い髪なので、結構時間が掛かった。
 俺と桜は用意された参考写真などを見て話し合っていた。

 「角刈じゃ不味いんですね」
 「お前なんかはそれでいいけどよ、もっとインパクトがなぁ」
 「はい」
 「お、これなんかいいな!」
 「すげぇですね」
 「おう! その感想が欲しいんだよ!」
 「なるほど!」

 桜も段々分かって来た。
 インパクトだ。
 奥さんが俺たちにコーヒーを持って来てくれ、一緒に飲みながら話した。

 皇紀の洗髪が終わる。




 俺たちと店主で皇紀の顔を眺めた。

 「こいつ、やっぱ優しい顔だよな」
 「そうですねぇ」
 「インパクトですね」

 店主も俺たちの会話で分かったようだ。

 「金髪にすっか」
 「いいですね!」
 「鬼剃りも決めっぞ!」
 「はい!」

 「た、タカさん……」

 皇紀がビビっている。

 「このリーゼントがいいかなぁ」
 「こっちも迫力がありますよ!」
 「おお、いいな!」
 
 座っている皇紀をよそに、俺たち三人は話し合った。

 「タカさん! どうか普通で」
 「バカヤロウ! お前は俺の名代なんだぞ!」
 「ハウッ!」

 基本的にこいつは俺たちに抵抗しない。
 優しいのだ。

 大体構想が決まった。

 「じゃあ、金髪にして頭頂から前のポンパドールは荒々しく前面に付き出す感じで。後ろはロングのリーゼントで首まで垂らす。両脇は剃り上げて、この二本の刀の交差の紋を入れるのな! ああ、両脇は黒いままでいいからな」」
 「すげぇです!」
 「これは腕が鳴りますねぇ!」

 俺が皇紀の髪型をスケッチし、三人で確認した。
 皇紀は座ったまま見てない。

 「タカさん! 金髪って必要なんですか?」
 「タリメェだぁ! お前が舐められねぇようにだろうが!」
 「はぁ」

 皇紀は不安がったが、俺たちは有無を言わさずにやった。
 最初にカットから始め、ポンパドールとリーゼント部分を脱色し、後に金髪に染めた。
 結構時間が掛かり、俺たちは合間に昼食の出前を取った。
 鰻と寿司。
 もちろん店主と奥さんの分も俺が出した。

 「すいませんね、自分らまで」
 「いいんだよ! 最高の腕を振るって貰えるんだからなぁ!」
 「アハハハハハ!」

 皇紀は染めの最中なので、バーバーチェアに座ったままだ。
 意外に普通にして食べている。

 「おい、皇紀! 楽しみにしてろよな!」
 「はい!」

 まだ実感が無いのかもしれない。
 食事を終えて、店主が染めの具合を確認した。
 
 「いいですよ!」
 
 俺と桜も眺めた。
 綺麗な金髪に染まった。
 店主が両頬を叩いて気合を入れ、カットに掛かった。
 両脇を電動バリカンで剃って行く。
 更に剃刀で日本刀の紋様を入れて行く。

 「おお! 剃刀でやるのか!」
 「はい! これが一番でさぁ!」
 「プロだな!」
 「プロですね!」
 「ワハハハハハハ!」

 皇紀は段々不安そうに見ている。

 「皇紀、二本の日本刀の交差はよ。石神家の裏紋なんだ」
 「え!」
 「滅多に表には出さねぇ。普通は違い羽の武家の紋だけどな。いざって時には特別にその紋を使うんだ」
 「タカさん!」
 「お前には背負って行ってもらいたいんだよ」
 「ありがとうございます!」

 なんか喜んだ。
 チョロい奴だった。

 実に6時間も掛かった。
 今日は店は貸切だ。
 途中でヒマなので、桜と表に遊びに行ってゲーセンで楽しんだ。
 店に帰ってから寝た。

 


 「出来ましたよ!」
 
 店主が叫んで俺たちは起きた。

 「「オォォォーー!!」」

 ぶったまげる奴がいた。
 身長170センチの皇紀が、180センチにもなっている。
 トサカのように突き上げたボリュームのある金色のポンパドールが巻き上げられ、前面では角のように飛び出している。
 金髪が所々で違う色が混ざっていて、迫力を増している。

 「なんだ、メッシュも入れてくれたのか!」
 「はい。どうも一色だと綺麗過ぎて」
 「あんた、天才だな!」
 「ありがとうございます!」

 店主に任せて良かった。
 桜と一緒に前後左右で見て回る。

 「完璧だな!」

 皇紀が俺の顔と鏡の自分を交互に観る。

 「タカさん、これって……」
 「俺の名代はこうじゃなくっちゃなぁ!」
 「……」

 俺たちは皇紀の写真を撮りまくり、店主や奥さんも呼んでみんなで撮影もした。
 泣きそうな顔になっていた皇紀だが、俺が「笑え」と言うと笑ってみせた。
 



 桜はそのまま帰り、俺と皇紀はハマーで「花見の家」に戻り、待っていた「タイガーファング」で送り出した。
 俺の他には見送りはいない。
 青嵐と紫嵐が呆然と皇紀を見ていた。

 「じゃあ、しっかりやって来いよ!」
 「……」

 皇紀は何とか笑顔を作り、俺に手を振った。

 「タカさん、お帰りなさーい!」
 「おう」
 「随分と遅かったですね」
 「ああ、ちょっと桜と遊んでた」
 「え、そうなんですか!」

 亜紀ちゃんが聞いていないのでちょっと驚いた。

 「皇紀は無事に出発したよ」
 「そうですか。しっかりやってくるといいですね」
 「そうだな」




 まあ、知らねぇ。
 俺が事前に手配してるから大丈夫だろう。
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