富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,929 / 3,215

「セイントPMC」訓練

しおりを挟む
 翌朝。
 美味しい朝食を頂いて、俺は院長夫妻を誘って街に出た。
 送りだけ、ロックハート家の車を出してもらった。

 「五番街へ行って下さい」
 「かしこまりました」

 お二人はニューヨークは初めてだ。
 しかし、観光などはそれほど興味も無いだろう。
 外国の街の雰囲気を味わって頂こうと思った。
 子どもたちは連れていない。
 大勢では動きにくいからだ。
 子どもたちは先に「セイントPMC」に行ってもらう。

 車を降りて、ゆっくりと歩いた。

 「まあ、東京以上にビルが高いな」
 
 院長が見上げて言った。
 高級店が並んでいる。
 俺はティファニーに二人を案内した。

 「俺から何かプレゼントをさせて下さい」
 「おい、こんな高い店で困るぞ」
 「いいからいいから!」

 俺は笑って静子さんにリングやペンダントを見せた。
 静子さんも宝石店など滅多に入らないので緊張している。

 「このルビーのリングなんか如何ですか?」
 「私にはもったいないわ」
 「そんなこと無いですよ。一度嵌めてみましょう」

 店員に言って、静子さんの指に入れてもらった。

 「ほら! お似合いですよ! ねえ、院長?」
 「ああ、そうだな。よく似合っている」

 院長が微笑みながら言った。
 静子さんが目を輝かせて自分の手を眺めていた。

 「じゃあ、静子さんはこれで」
 「え! これは頂けないわ!」
 「ダメですよ」
 「石神、高いものはダメだ」
 「高くないですよ! 俺が幾ら持ってると思ってんですか!」
 「まあ、お前の資産は凄いだろうが」

 俺は無理矢理プレゼントさせてもらった。

 「親孝行をさせて下さい」
 「石神さん……」
 「お袋にはあまりこういうことをしてやれなかった。だからお願いします」
 「分かったわ」

 静子さんも納得してくれた。

 「じゃあ、院長にはですねー」
 「おい、俺は宝石なんかいらないよ!」
 「ああ、お面にしましょうか?」
 「石神!」

 静子さんが笑った。
 俺はマネージャーを呼んで、ペンと紙を借りた。
 スケッチをする。

 「柄をこういうデザインにして。ここにブラックダイヤモンドで、こっちにはルビーを、それから……」

 俺は幾何学模様のデザインを描いて、宝石の場所を指示した。
 ステッキだ。

 「握りは18金のホワイトゴールドで、胴は黒檀にして下さい」
 「かしこまりました。デザイナーに作らせます」
 「急がないでいいですよ。見積もりはこのメールアドレスに」
 「はい」
 「前金も渡しますからね」
 「ありがとうございます」

 院長はよく分からないでいた。
 
 「ステッキにしましょうよ。院長は足腰は大丈夫でしょうが、こういうものを持つとカッコイイですよ?」
 「そ、そうか」
 「ゴリラの顔を付けます?」
 「い、いらない」

 緊張しているのか、俺を怒鳴らなかった。

 セントラルパークに行って、暑いので小さなカップアイスとコーヒーを買い、ベンチで三人で飲んだ。
 アメリカらしい公園だ。
 人々が自由気ままに利用している。
 ジョギングをする人間や、犬と散歩する人間。
 寝そべって音楽を聴いている人も、何人かでお喋りに興じている人もいる。

 「ここは何をしてもいいんだな」
 「そうですね。都会の中で、これだけ広い面積の「自由な空間」を作っている。アメリカの良い所ですね」
 「そうだなぁ」

 公園の近くのカフェに入った。
 お二人はそれほど食事を召し上がらないからだ。
 ベーグルサンドのランチを頼んだ。

 「お前は足りないだろう?」
 「大丈夫ですよ。俺だって毎回大食いじゃないんですから」
 「俺たちに合わせる必要は無いんだぞ」
 「そうじゃないですって」

 俺は院長たちに楽しんでもらいたかっただけだ。
 食事なんてどうでもいい。

 「午後はちょっと聖の所へ行きますんで」
 「そうか」
 「お二人はロックハート家でのんびりしてて下さい」
 「石神」
 「はい?」
 「俺たちも一緒に行っては不味いか?」
 「え?」

 聖の会社で何をするのか、院長たちも知っている。

 「でも、戦闘訓練ですよ?」
 「知ってる。一度俺たちも見てみたいんだ」
 「えーと、楽しいものでもないですよ?」
 「構わない。お前たちが一生懸命に戦おうとしているんだ。俺もそれを見ておきたい」
 「うーん」
 「やっぱり不味いだろうか?」
 「別にいいんですけどねー。じゃあ、一緒に行きますか!」
 「ああ、頼む」
 「静子さんも?」
 「ええ。石神さんたちの戦う姿も見ておきたいわ」
 「分かりました」

 もう院長たちも部外者でもない。
 まあ、面白くもないだろうが、院長の言う通り俺たちのことを見せておいてもいいかもしれない。

 キャブを拾って直接「セイントPMC」へ向かった。
 途中で静江さんに電話をし、院長たちも連れて行くと伝えた。

 



 「ここですよ」

 門衛がキャブから降りた俺の顔を見て敬礼する。

 「中に入るぞ」
 「はい、どうぞ!」

 電動のゲートを開いてくれた。
 
 「いつもの訓練場にみなさんいらっしゃいますので」
 「ありがとう」

 俺は院長たちを連れて、砲撃訓練場へ向かった。
 近づくと、子どもたちの大声と兵士たちの悲鳴と絶叫が聞こえて来る。
 鉄扉を押して入ると、200人の兵士が子どもたちに訓練を受けている。

 「はい、そこ! また全滅だからね!」
 
 ハーが一杯いた。

 「ハーちゃん!」
 「あれ? 文学ちゃん?」

 みんな頭にウンコを乗せている。
 「ウンコ分身」を使っているのだ。
 ルーも離れて同じことをして兵士をぶっ飛ばしている。

 「これはなんだぁー!」
 「「ウンコ分身」だよ?」
 「なんだと!」

 静子さんは呆然と立っている。

 「ルーとハーにガードに付けた妖魔の技なんですよ。凄いでしょ?」
 「凄いってお前……」
 「石神さんも出来るの?」
 「冗談じゃないですよ!」

 絶対に嫌だ。

 「トラー!」

 聖が来た。
 院長たちは見学だと言った。

 「どうだよ、調子は?」
 「ああ、やっぱ実戦を知ってる人間はいいな。みんな勉強になってるよ」
 「あ! お前喰らったのか!」

 聖が臭かった。

 「ワハハハハハハ! 思わずな。あいつら以前よりも強くなったな」
 「お前よー」

 亜紀ちゃんと柳は離れた場所で格闘戦を指導していた。
 柳は主に「オロチストライク」の指導をしている。
 亜紀ちゃんの所は、半分がぶっ倒れて動かないでいた。

 聖がテーブルと椅子を用意させてくれた。
 院長たちに座ってもらう。
 アイスティーをもらい、二人は訓練を眺めた。

 「どうですか?」
 「凄いな。こういうものだったか」
 「ええ。御帰りになる時には俺たちの誰にでも声を掛けて下さい」
 「ああ、分かった。ありがとう」

 俺も着替えて訓練指導に入った。
 俺が実際に「クロピョン」を呼び出して、兵士たちに攻撃をさせた。
 太い触手が俺の指示で兵士たちを襲う。
 数十メートルも吹っ飛ばされるが、もちろんインパクトを加減されているので怪我はない。

 「移動しながら一点集中を狙え! 硬い奴にも有効だ!」

 兵士たちは俺の指示を聞きながら、懸命に触手に「ゴースト」を使ってアタックしていく。
 中級妖魔レベルに「クロピョン」に調整させており、有効なダメージが溜まると消滅するようにしていた。
 慣れて来た兵士たちには、「上級妖魔」や複数の「中級妖魔」を相手にさせる。
 俺が「クロピョン」を使い出し、他の兵士もみんなその訓練に移って行った。

 子どもたちが休憩にし、院長たちと同様にテーブルと椅子を用意して一休みしていった。
 聖は「上級妖魔」相手に「ゴースト」と「セイント・ヘリカル」を使った訓練をしていた。
 俺も現場を離れて、院長に聞いた。

 「どうですか?」
 「こういう訓練があるんだな。見て良かったよ」
 「そうですか」
 「お前たちは命懸けで戦っている。今日はそのことがよく分かった」
 「静子さん、大丈夫ですか?」
 「ええ。最初はハーちゃんに驚いたけど」
 「こいつはちょっとねぇ」

 みんなで笑った。

 「最初はみんなバカにしてたんだよ!」
 「そうか」
 「だからウンコ塗れにしてやったの!」
 「ワハハハハハハ!」

 


 院長が真剣な眼差しで訓練をする兵士たちを見ていた。
 その瞳の奥でどのような思いが巡っているのかは分からない。
 院長にとって、楽しい物ではないはずだ。
 しかし、しっかりと見据えようとしている。
 俺は巻き込んでしまったとはいえ、院長がそれを受け止めようとしていることが嬉しかった。
 背中に回って、頭を下げた。 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...