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新宿悪魔 Ⅲ
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土曜日ではあったが、都庁には出勤している職員も多い。
都政の中心の場所だからだ。
何をしているのかは、俺にはサッパリだが。
現場が安全なのが分かったので、「アドヴェロス」の調査班の人間が到着した。
情報を共有し、俺たちは一度「アドヴェロス」の本部へ戻った。
「あー、腹が減ったな」
「早霧さん! あんなものを見た後でよく食欲が湧きますね」
「お前も大丈夫だろう、磯良」
「俺は喰えませんよ」
「そうか?」
愛鈴さんが俺の後ろから肩に両手を乗せた。
「磯良は私に気を遣っているの?」
「そんなことは!」
「食べ盛りなんだから、遠慮しないで食べてね」
「まあ、そうですね」
「磯良、ありがとうね」
「いいえ」
愛鈴さんが気分を悪くしたのは分かっていた。
酷い現場だったのだから無理は無い。
以前よりも慣れては来ただろうが。
まあ、早霧さんや俺のように平然と出来る人間の方が特殊なのだ。
妖魔化して獣性を増したライカンスロープは、凄まじい人体の破壊を行なう。
これまでもそういう遺体はあったが、今回のように8人もの人間がじっくりと「食事」をされたのは珍しい。
ライカンスロープは人間の脳髄を食べる。
その他にも、人間の殺害、そして特に人体の破壊そのものに性的興奮に似たものを感じているらしい。
今回のライカンスロープはその両方の欲求を思う存分に満たしていた。
これまでは一人の脳髄を捕食すれば満足していたが、今回のライカンスロープが単独の個体でのことであれば、脅威的だ。
それは恐らく相当な強さを持っていると考えられる。
何故ライカンスロープが人間の脳髄を食べるのかは諸説あるが、エンドルフィンのような脳内ホルモンを摂取しているのではないかというのが有力な仮説だった。
今までに分かっていることは、強い個体ほど、脳髄接種の間隔が短いということだった。
ならば、一度に8人もの人間の脳髄を喰らうライカンスロープは、非常に強力な個体であると推測できる。
早乙女さんが言った。
「早霧、なだ万の弁当を手配するけど、それでいいか?」
「いいですね!」
「愛鈴も少し食べろよ」
「分かりました」
俺が愛鈴さんに緑茶を煎れた。
少しでも気分を戻して欲しかった。
「ありがとう、磯良。サッパリするわ」
「そうですか!」
愛鈴さんが笑ってくれた。
早霧さんが立ち上がって作戦室を出て行った。
多分、味噌汁でも作りに行ったのだろう。
早霧さんは食事にうるさい。
美味い物はもちろん好きだが、それ以上にちゃんと食べる、ということを徹底している。
副官の成瀬さんと葛葉さんは北海道へ行っている。
ロシアと最も近い北海道は以前から警戒はしていた。
ある情報を掴んで、「アドヴェロス」の人間10人ほどで調査をしているはずだ。
葛葉さんは成瀬さんたちの護衛だった。
弁当が届くまでの間、一旦休憩となった。
「愛鈴さん、マッサージしますよ」
「ほんとう? じゃあお願いしようかな」
「はい!」
愛鈴さんは笑って俺を自室へ連れて行った。
「どうぞ」
「失礼します」
12畳ほどの寝室に、キッチンとバストイレ、それに収納の6畳ほどの部屋がついている。
洗濯も出来、生活空間としては完結している。
家具は早乙女さんの揃えたもので、結構いいものが揃っている。
ベッドもソファセットもデスクも本棚も、一流メーカーのものだった。
愛鈴さんが「Ωコンバットスーツ」を脱いで下着姿になった。
そのままベッドにうつぶせになる。
俺は上に乗ってマッサージを始めた。
「あー、気持ちいい!」
「そうですか。良かったです」
背中を指圧していくと、愛鈴さんが気持ちよさそうな声を上げる。
「磯良は優しいね」
「そんな! 愛鈴さんにはいつも良くしてもらってますから」
「エヘヘヘヘ」
愛鈴さんが言った。
「磯良、今度の相手は相当だよね?」
「そうですね。便利屋さんも、言ってましたね」
「うん。私も感じた。邪悪な知性があるよ。これまでもライカンスロープはみんな冷酷だったけど、今回の奴は違う。獣が冷酷なのとは違って、人間を苦しめて殺すことに喜びを感じている」
「はい」
「あれだけのことをして、大した痕跡も残していない。もしかしたら、私たちをミスリードすることまでしているかもしれない」
「気を付けないといけませんね」
愛鈴さんが身体を回してあおむけになった。
俺を下から抱き締める。
「磯良、必ず私が護るからね」
「はい、お願いします」
「うん」
「俺も愛鈴さんを絶対に護りますよ」
「うん」
愛鈴さんが俺の頭を撫でた。
そして一層強い力で抱き締められた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
早乙女から連絡が来た。
「おう! なんだ、どうした?」
「石神、事件だ。都庁の議事堂前で8人もの人間がライカンスロープに襲われた」
「多いな」
「うん。まだ何も掴んでいないけど、8人とも脳髄を喰われていたよ」
「なんだと?」
「これまでの奴らとは違うんじゃないかと思う。便利屋さんもそう言ってる」
「そうか。俺たちも手伝うか?」
「まだいい。今後の流れて、また頼むかもしれない」
「ああ、いつでも言ってくれ。俺たちも準備をしておこう」
「ありがとう、いつも助かる」
「俺たちは仲間だ。当然だよ」
「ありがとう、石神」
丁度昼食を食べる所だったので、全員を集めて早乙女の話をした。
「ルー、後で早乙女から資料が送られてくる。全員に配ってくれ」
「はい!」
昼はキノコと鶏肉団子のスープパスタだった。
俺は少し大きめのスープボウルだが、子どもたちは5人前が入るでかいラーメン丼でズルズルと食べる。
「タカさん、妖魔の可能性は?」
「便利屋がライカンスロープだと言っているそうだ。特殊個体のようだけどな」
「そっかー」
ルーが食べながら俺に話す。
皇紀は浮気問題でまだ顰蹙を買っているので、大人しい。
可愛そうに。
折角フィリピンでの大仕事を終えて帰って来たのに。
まあ、自業自得的な問題だが。
みんな風花が大好きだからしょうがない。
「吉野に行く前に片付くといいね」
「う、うん……」
「ルー! 折角タカさんが忘れようとしてるのに!」
「あ、そっか」
ハーがルーを怒っている。
ほんとにヤメて。
「タカさん! 『虎は孤高に』を一緒に観ましょうか!」
亜紀ちゃんが俺に気を遣ってと自分が楽しみたいのとで言う。
「いいよ。柳と一緒に観ろよ」
「石神さん!」
「じゃあ、柳さん! 後で!」
「わ、私鍛錬があるから!」
「えぇー!」
ロボが亜紀ちゃんに近づいて、足をペタペタする。
「あ! ロボ、一緒に観る?」
「にゃー」
「嬉しい!」
みんなホッとした。
亜紀ちゃんに付き合うのは大変だ。
俺がボウルを持ってキッチンに入るので、子どもたちが見ていた。
酢を取り出して、軽く一回り掛ける。
「うん」
味見して満足し、テーブルに戻った。
「タカさん! 今お酢を入れたの?」
「ああ、ちょっと味を変えたくてな」
子どもたちが一斉にキッチンに行き、丼に酢を垂らした。
スープの味を確認する。
「美味しいよ!」
「なんだこれ!」
喜んでいた。
皇紀も持って来た。
「あ?」
亜紀ちゃんに睨まれた。
「……」
すごすごと引き返した。
仕方なく俺が酢を持って皇紀の丼に入れてやった。
「お前ら! いい加減に仲良くしろ!」
「「「「はーい」」」」
亜紀ちゃんが俺から酢を受け取って、ドボドボと皇紀の丼に入れてやった。
「……」
はぁー。
都政の中心の場所だからだ。
何をしているのかは、俺にはサッパリだが。
現場が安全なのが分かったので、「アドヴェロス」の調査班の人間が到着した。
情報を共有し、俺たちは一度「アドヴェロス」の本部へ戻った。
「あー、腹が減ったな」
「早霧さん! あんなものを見た後でよく食欲が湧きますね」
「お前も大丈夫だろう、磯良」
「俺は喰えませんよ」
「そうか?」
愛鈴さんが俺の後ろから肩に両手を乗せた。
「磯良は私に気を遣っているの?」
「そんなことは!」
「食べ盛りなんだから、遠慮しないで食べてね」
「まあ、そうですね」
「磯良、ありがとうね」
「いいえ」
愛鈴さんが気分を悪くしたのは分かっていた。
酷い現場だったのだから無理は無い。
以前よりも慣れては来ただろうが。
まあ、早霧さんや俺のように平然と出来る人間の方が特殊なのだ。
妖魔化して獣性を増したライカンスロープは、凄まじい人体の破壊を行なう。
これまでもそういう遺体はあったが、今回のように8人もの人間がじっくりと「食事」をされたのは珍しい。
ライカンスロープは人間の脳髄を食べる。
その他にも、人間の殺害、そして特に人体の破壊そのものに性的興奮に似たものを感じているらしい。
今回のライカンスロープはその両方の欲求を思う存分に満たしていた。
これまでは一人の脳髄を捕食すれば満足していたが、今回のライカンスロープが単独の個体でのことであれば、脅威的だ。
それは恐らく相当な強さを持っていると考えられる。
何故ライカンスロープが人間の脳髄を食べるのかは諸説あるが、エンドルフィンのような脳内ホルモンを摂取しているのではないかというのが有力な仮説だった。
今までに分かっていることは、強い個体ほど、脳髄接種の間隔が短いということだった。
ならば、一度に8人もの人間の脳髄を喰らうライカンスロープは、非常に強力な個体であると推測できる。
早乙女さんが言った。
「早霧、なだ万の弁当を手配するけど、それでいいか?」
「いいですね!」
「愛鈴も少し食べろよ」
「分かりました」
俺が愛鈴さんに緑茶を煎れた。
少しでも気分を戻して欲しかった。
「ありがとう、磯良。サッパリするわ」
「そうですか!」
愛鈴さんが笑ってくれた。
早霧さんが立ち上がって作戦室を出て行った。
多分、味噌汁でも作りに行ったのだろう。
早霧さんは食事にうるさい。
美味い物はもちろん好きだが、それ以上にちゃんと食べる、ということを徹底している。
副官の成瀬さんと葛葉さんは北海道へ行っている。
ロシアと最も近い北海道は以前から警戒はしていた。
ある情報を掴んで、「アドヴェロス」の人間10人ほどで調査をしているはずだ。
葛葉さんは成瀬さんたちの護衛だった。
弁当が届くまでの間、一旦休憩となった。
「愛鈴さん、マッサージしますよ」
「ほんとう? じゃあお願いしようかな」
「はい!」
愛鈴さんは笑って俺を自室へ連れて行った。
「どうぞ」
「失礼します」
12畳ほどの寝室に、キッチンとバストイレ、それに収納の6畳ほどの部屋がついている。
洗濯も出来、生活空間としては完結している。
家具は早乙女さんの揃えたもので、結構いいものが揃っている。
ベッドもソファセットもデスクも本棚も、一流メーカーのものだった。
愛鈴さんが「Ωコンバットスーツ」を脱いで下着姿になった。
そのままベッドにうつぶせになる。
俺は上に乗ってマッサージを始めた。
「あー、気持ちいい!」
「そうですか。良かったです」
背中を指圧していくと、愛鈴さんが気持ちよさそうな声を上げる。
「磯良は優しいね」
「そんな! 愛鈴さんにはいつも良くしてもらってますから」
「エヘヘヘヘ」
愛鈴さんが言った。
「磯良、今度の相手は相当だよね?」
「そうですね。便利屋さんも、言ってましたね」
「うん。私も感じた。邪悪な知性があるよ。これまでもライカンスロープはみんな冷酷だったけど、今回の奴は違う。獣が冷酷なのとは違って、人間を苦しめて殺すことに喜びを感じている」
「はい」
「あれだけのことをして、大した痕跡も残していない。もしかしたら、私たちをミスリードすることまでしているかもしれない」
「気を付けないといけませんね」
愛鈴さんが身体を回してあおむけになった。
俺を下から抱き締める。
「磯良、必ず私が護るからね」
「はい、お願いします」
「うん」
「俺も愛鈴さんを絶対に護りますよ」
「うん」
愛鈴さんが俺の頭を撫でた。
そして一層強い力で抱き締められた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
早乙女から連絡が来た。
「おう! なんだ、どうした?」
「石神、事件だ。都庁の議事堂前で8人もの人間がライカンスロープに襲われた」
「多いな」
「うん。まだ何も掴んでいないけど、8人とも脳髄を喰われていたよ」
「なんだと?」
「これまでの奴らとは違うんじゃないかと思う。便利屋さんもそう言ってる」
「そうか。俺たちも手伝うか?」
「まだいい。今後の流れて、また頼むかもしれない」
「ああ、いつでも言ってくれ。俺たちも準備をしておこう」
「ありがとう、いつも助かる」
「俺たちは仲間だ。当然だよ」
「ありがとう、石神」
丁度昼食を食べる所だったので、全員を集めて早乙女の話をした。
「ルー、後で早乙女から資料が送られてくる。全員に配ってくれ」
「はい!」
昼はキノコと鶏肉団子のスープパスタだった。
俺は少し大きめのスープボウルだが、子どもたちは5人前が入るでかいラーメン丼でズルズルと食べる。
「タカさん、妖魔の可能性は?」
「便利屋がライカンスロープだと言っているそうだ。特殊個体のようだけどな」
「そっかー」
ルーが食べながら俺に話す。
皇紀は浮気問題でまだ顰蹙を買っているので、大人しい。
可愛そうに。
折角フィリピンでの大仕事を終えて帰って来たのに。
まあ、自業自得的な問題だが。
みんな風花が大好きだからしょうがない。
「吉野に行く前に片付くといいね」
「う、うん……」
「ルー! 折角タカさんが忘れようとしてるのに!」
「あ、そっか」
ハーがルーを怒っている。
ほんとにヤメて。
「タカさん! 『虎は孤高に』を一緒に観ましょうか!」
亜紀ちゃんが俺に気を遣ってと自分が楽しみたいのとで言う。
「いいよ。柳と一緒に観ろよ」
「石神さん!」
「じゃあ、柳さん! 後で!」
「わ、私鍛錬があるから!」
「えぇー!」
ロボが亜紀ちゃんに近づいて、足をペタペタする。
「あ! ロボ、一緒に観る?」
「にゃー」
「嬉しい!」
みんなホッとした。
亜紀ちゃんに付き合うのは大変だ。
俺がボウルを持ってキッチンに入るので、子どもたちが見ていた。
酢を取り出して、軽く一回り掛ける。
「うん」
味見して満足し、テーブルに戻った。
「タカさん! 今お酢を入れたの?」
「ああ、ちょっと味を変えたくてな」
子どもたちが一斉にキッチンに行き、丼に酢を垂らした。
スープの味を確認する。
「美味しいよ!」
「なんだこれ!」
喜んでいた。
皇紀も持って来た。
「あ?」
亜紀ちゃんに睨まれた。
「……」
すごすごと引き返した。
仕方なく俺が酢を持って皇紀の丼に入れてやった。
「お前ら! いい加減に仲良くしろ!」
「「「「はーい」」」」
亜紀ちゃんが俺から酢を受け取って、ドボドボと皇紀の丼に入れてやった。
「……」
はぁー。
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