富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,402 / 3,215

千鶴・御坂 石神家へ X

しおりを挟む
 「ケロケロ」

 千鶴に、怒貪虎さんが近付いた。
 どうやら怒貪虎さん自ら相手をしてくれるらしい。

 「ケロケロ」
 「はい!」
 「ケロケロ」
 「分かりました!」

 返答している間も、千鶴の身体は震えていた。
 激痛に耐え切れずに、身体を捩っている。
 まっすぐに立っていられないようだった。
 千鶴の様子を見て、虎白さんが呟いた。

 「真白の奴、本気でやりやがったな」
 「え?」
 「まったく無茶しやがる。ありゃ、相当辛いぞ」
 「そうなんですか!」

 虎白さんは真白の鍼灸の術を高く評価していた。

 「あいつは多分日本で最高の腕前だよ。怒貪虎さんが中国に行かせてよ。向こうで最高の漢方の術師に弟子入りしたんだ」
 「そうなんですか」
 「死人も生き返らせるって程の人だったらしいぞ」

 東洋医学は深い。
 西洋医学で治せない病気や怪我も治す人間がいる。
 もちろん偽者も多いが。

 千鶴は激痛に喘ぎながら、怒貪虎さんの前に立っていた。
 怒貪虎さんはまったく動かない。
 しかし、もう何かが始まっているのを感じていた。
 千鶴は必死に何かに抗っている。
 千鶴も剣を握ってはいるが、まったく動かしていない。
 持っていることで精いっぱいなのが分かる。
 
 「タカさん! マンロウちゃんが!」
 「もう無理だよ! 止めてあげて!」

 双子が泣きながら叫んだ。
 双子には何かが見えているのだろう。
 俺はそれを聞きながら動かなかった。
 
 「ケロケロ」
 「!」

 怒貪虎さんが千鶴に何か言い、千鶴の目が変わった。
 恐らく百目鬼家の「神聖瞳術」を使ったのだろう。
 怒貪虎さんがそれを使うように言ったのか。

 千鶴はどうにか立っているという状態だった。
 剣は握ってはいるが、やはりまったく動かせないでいる。
 体中の激痛に耐えることで精一杯なのだ。
 その中で、何とか「神聖瞳術」を出した。

 千鶴の瞳を確認し、怒貪虎さんが剣を振り始めた。
 鋭い剣筋であり、当然千鶴はまったく反応できない。
 しかし怒貪虎さんの剣は千鶴には当たっていない。
 精妙に操作され、千鶴の皮膚すれすれを薙いでいる。

 千鶴の身体が揺れてきた。
 俺は剣圧でそうなっているのかと思っていたが、徐々にそうではないことに気付いた。
 千鶴の身体は何かをされて動いているのだ。

 (斬られているのか!)

 マンロウ千鶴は、彼女が感ずる現実の中で、怒貪虎さんに実際に斬られているのではないか。
 そう感じるように、怒貪虎さんは誘導しているのではないか。

 「ケロ!」

 怒貪虎さんの鋭い突きが、千鶴の左眼に向かった。
 千鶴は目を閉じる間もなく、その突きを喰らった。

 「おい!」
 「出やがったぞ!」
 「なんだありゃ!」
 「両眼から噴き出しているのはなんだ!」
 「全身の「虎相」もおかしいぞ!」

 剣士たちが驚いて叫んでいた。
 俺も「虎眼」を使っているので見えた。
 千鶴は両眼から激しい炎を噴き出し、更に全身は焔に覆われているばかりでなく、背中から二対の翼のように広がって伸びていた。
 恐らく石神家の「虎相」とは別なものだ。

 千鶴が突然倒れ、同時に焔も消えた。

 虎蘭と虎水が駆け寄って千鶴を運んだ。
 双子も駆け寄る。

 「マンロウちゃん!」

 ハーが「手かざし」をし、ルーが「Ω」と「オロチ」を口移しで飲ませた。
 御坂もよろけながら来た。

 「千鶴!」

 手足が思い通りに動かず、千鶴の傍で倒れた。
 虎水が抱きかかえて千鶴の傍に寄せる。

 「大丈夫だよ。ボロボロだけどね」
 「はい!」

 石神家の血が無ければ出現するはずのない「虎相」が、マンロウ千鶴にも出た。
 もしかすると「虎相」とは違うものなのかもしれないが。
 怒貪虎さんには、その可能性が見えていたのだろうか。
 石神家だけでなく、日本中の武道や武術をその身に宿した人だ。
 だから、千鶴に何が起きるのかが予測出来たのか。
 だが、千鶴は御坂以上の激痛を味わったようだ。
 身体がまったく動かせないほどの苦痛だった。
 御坂の場合は石神家の血が流れているので、そこまでのものは必要なかった。
 しかし、千鶴の場合は、ある意味でゼロから生じ展開させる必要があったのだ。

 それを為した千鶴の精神力はもちろんだが、発現させた怒貪虎さんの知識、そしてそれを言われずともやった真白の深さ。
 石神家は本当にとんでもない連中だ。

 俺は無言で佇む怒貪虎さんに、畏怖の念を抱いた。
 真白は離れた場所から見ていた。
 その眼は、不断のふざけたものではなかった。
 自分の施術の結果を冷静に見届ける、求道者のものだった。
 あの女は只者ではない。
 中国で最高の漢方医の下で修行したと聞いた。
 鍼灸だけではないのかもしれない。
 東洋医学には漢方薬も気功もある。
 中国の文化は相当深い。
 それに怒貪虎さんには吉原一族の道教、仙術の技まである。
 真白がどこまでそれを習得しているのかは分からない。
 普段は下品な老女を演じてはいるが、石神家で全員から頼りにされている。
 何大抵の人物ではないはずだ。

 「千鶴、聞こえるか」
 「……」

 口は動かさないが、千鶴は俺の眼を見た。

 「お前、やったぞ。「虎相」を出した」
 「……」

 千鶴が何とか口元に笑みを浮かべた。
 精一杯の返事だ。

 「御坂もよくやったな」
 「はい!」
 「いい「虎相」だった。みんながお前はいい剣士になれるってさ」
 「ほんとですか!」

 御坂は喜んだ。
 まだ口を利くのも辛そうだが、千鶴よりはましだった。
 虎蘭と虎水は鍛錬に戻った。
 「小雷」が使えるようになった剣士は、次に魔法陣を描く訓練に入る。
 双子も手伝いに行った。

 剣聖たちは魔法陣を描けるようになった剣士に、《神雷》を教えて行く。
 その剣聖たちも、《神雷》に「轟雷」を重ねる訓練をして行く。

 怒貪虎さんだけは、独りで何かをやっていた。
 魔法陣を幾つか描いてみている。
 俺は気になって近づいた。
 魔法陣は、外周のルーン文字を入れ替えたものだった。

 「怒貪虎さん!」

 出力調整の仕組みを理解したのか!
 怒貪虎さんであればルーン文字を知っていることはあり得るが、あの魔法陣の構造までこんなにも早く解析したとは。

 「ケロケロ」

 何かうなずいて、怒貪虎さんが《神雷》を撃った。

 「でかいですよ!」

 直径1200メートルの《神雷》が上空に飛んだ。
 やはり時空の裂け目が出来た。

 「不味い!」

 怒貪虎さんは即座に別な魔法陣を描き、そこにまた《神雷》を撃つ。
 今度は直径2000メートル以上の巨大な柱が続いて行った。
 時空の裂け目から出て来た山羊頭の黒い怪物が吹っ飛ばされ、時空の裂け目も消えた。

 「!」

 他の剣士たちもそれを見ていた。

 「ケロケロ」

 怒貪虎さんが俺を見て笑っていた。






 とんでもねぇことをする人だ。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

処理中です...