富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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愛の旅路

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 パムッカレでの戦闘は、大きな傷跡を幾つも残した。
 諸見さんと綾さんが戦死し、保奈美さんも亡くなってしまった。
 そして避難民の方々も124名亡くなった。
 全て《刃》によるものだ。
 三カ所に現われた《刃》は、タカさん、石神家のみなさん、そして聖さんによって斃された。
 パムッカレを襲った《刃》は、完全に私たちの作戦の裏を掻いたものだった。
 「虎」の軍の戦力を西安と蓮花研究所に誘導し、タカさんの大切な人間の命を奪った。
 恐らくは、パムッカレ基地を破壊する目的だっただろうが、予想外の犠牲が出たのだ。
 まだタカさんには伝えられていない。
 目覚めたタカさんは、どれほど悲しむだろうか。
 それを思うと、私たちの心は苦しい。
 栞さんは、タカさんが保奈美さんと会っているのではないかと言っていたけど。
 でも、諸見さんと綾さんのことは知らないのだ。
 タカさん……

 そして、聖さんは再び動けなくなった。
 復調してきた所へ、聖さんは保奈美さんを助けるために無茶をしたのだ。
 数十カ所の骨が砕け、神経がズタズタになっている。
 回復は出来るようだけど、またしばらくは動けない状態だ。
 あれだけ聖さんが必死になっても、保奈美さんを助けられなかった。
 唯一、茜さんと葵は助かった。
 茜さんは保奈美さんに助けられた形だ。
 茜さんのショックも大きいだろう。
 あの激戦で茜さんは意識を喪っていた。
 でも、保奈美さんが自分に覆いかぶさったことは覚えているに違いない。
 みんな、茜さんが保奈美さんを探すために必死に頑張っていたことを知っている。
 タカさんが眠っている今、私たちがなんとか茜さんを支えなければ。


 


 茜さんがタカさんの病院に入院し、やっと意識を取り戻した。
 「虎の穴」から連絡を受け、私は柳さんと一緒にお見舞いに行った。

 やはり茜さんは大きなショックを受けていた。
 目を覚ましてすぐに泣きだした。
 最後の時のことを覚えているのだ。
 声を挙げずに、ただ茫然と涙を零した。
 自分が何としても助けたかっただろうに。
 私も柳さんも、泣いている茜さんを見ていることしか出来なかった。

 「茜……」
 「……」

 響子ちゃんが見舞いに来た。
 六花さんが車椅子で運んで来た。
 茜さんが目を覚ましたのを聞いて来たのだろう。
 響子ちゃんが茜さんのベッドの横で、大きな声で謝った。

 「茜……、ごめんなさい!」
 「響子?」

 茜さんがやっと視線を響子ちゃんに向けた。
 響子ちゃんも大泣きだ。
 最初は、どうしてそんなに泣いているのか分からなかった。
 単純に、茜さんが目を覚ましたことを喜んでいるのかと思った。

 「私の力が足りなかったの! 茜! ごめんなさい!」

 六花さんが響子さんを落ち着かせ、何とか話を聞いた。
 みんな、想像もしていなかった話だった。

 「私ね、保奈美さんの未来を観たの」
 
 響子ちゃんには母親の静江さんと同じく、予言の力がある。
 響子ちゃんは泣きながら、ゆっくりと話してくれた。





 最初に観たのは、保奈美さんが戦場で亡くなった「夢」だったそうだ。
 聖さんの指揮の作戦で、ある町の救出作戦だったようだった。
 そこで死ぬ間際の日本人女性を聖さんが見つけ、聖さんがその人が保奈美さんだと気付いた。
 でも、救いようがなく、保奈美さんは死んだ。
 どこかで手に入れた旧式の「Ωスーツ」を上半身だけ着込んでいた。
 そして下半身を喪って死んだのだ。
 悲嘆に暮れている聖さんに向かって、私が野辺山の月見草の群生地に運ぼうと言ったそうだ。
 響子ちゃんは保奈美さんのことも知らないし、野辺山の思い出も知らないはずだ。
 だから、本当に「予言」だったのだろう。

 もう一つは諸見さんたち。
 綾さんとの美しい愛の日々。
 アラスカで、勿忘草の群生地での思い出。
 その「予言」では綾さんが先に諸見さんを助けて《桜花》で自爆した。
 綾さんの記憶のバックアップがあるとタカさんと蓮花さんが伝えたが、諸見さんは綾さんのデータの再生を拒んだそうだ。
 
 「綾さんが自分のために死んだことが嘘になってしまう」

 そう諸見さんが言った。
 聞いた全員が衝撃を受けて泣いた。
 諸見さんと綾さんの真の愛を感じたからだ。
 その後、パムッカレ基地でジェヴォーダンの襲撃を受け、諸見さんが「龍刀」で削った鉄骨で防いだ。
 そのお陰で、六花さんと「紅六花」のみなさんが間に合った。
 諸見さんの身体は爆散し、六花さんと「紅六花」のみなさんで集めたそうだ。
 タカさんも来て、諸見さんが胸に仕舞っていた綾さんの遺髪も見つけた。
 綾さんの髪はまるで諸見さんを護るように、ジェヴォーダンの身体に突き刺さっていたのだと。

 壮絶で荘厳な話だった。

 「だからね、私、どうしてもホナミを救いたくて」
 「……」

 「竹流君が保奈美さんに「花岡」を教えることが出来た。それに最新の「Ωコンバットスーツ」も渡して上げられた」

 私たちも知っている。
 アゼルバイジャンで竹流君は保奈美さんと会い、「花岡」を教え、「Ωコンバットスーツ」を差し上げたと。
 その時は竹流君は「西野さん」と言っており、タカさんが探している保奈美さんとは気づかなかったのだが。

 「あれは響子ちゃんが!」
 「何とか別な未来を引き寄せようとしたの。「夢」では保奈美さんは上半身しか着てなかった。しかも旧式の「Ωスーツ」だったの。だから下半身が潰されてた。でもね、タカトラが創ったスーツだったから、保奈美さんは上半身は護られてたのよ! タカトラの愛なの!」

 よく分かっている。
 今回は保奈美さんは最新の「Ωコンバットスーツ」を着ていた。
 それでも通常ではあの《刃》の猛攻は絶対に防げない。
 でも実際に保奈美さんは何度もあの攻撃から護られていた。
 「Ωコンバットスーツ」はタカさんとの絆が強い程、性能を発揮する。
 保奈美さんは……

 「諸見さんもね、千石さんのお陰で「花岡」の上級技を習得出来たって聞いたの! だからもう諸見さんも大丈夫だって思ってたのに!」

 響子ちゃんがまた泣いた。
 そう言えば前にタカさんから聞いたことがあった。
 偶然、諸見さんが上級技を覚えたと嬉しそうにタカさんが話した時、響子ちゃんがやけに喜んでいたのだと。
 そういうことだったのか。

 六花さんが響子ちゃんを抱き締めている。
 響子ちゃんは弱り切った身体で、独り、そんな苦悩を抱えていたのだ。
 響子ちゃんの「予言」は容易く口に出すことは出来ない。
 それはタカさんが言っていたことだけど、きっとこの世界の運命に関わることだったからだ。
 口に出すことで未来が不味い方向に確定してしまうこともある。
 それを響子ちゃんも分かっていたからこそ、独りで抱え込んで頑張っていたんだ。
 響子ちゃんの懸命の努力で、多分未来は大きく変わって来たのだろう。
 きっと、他にもいろいろなことで響子ちゃんの祈りで変わってきていることが多くあると感じた。
 保奈美さんと諸見さん、綾さんは亡くなってしまったけど、きっと前の運命よりもずっと良いものになっていたと信じたい。

 諸見さんと綾さんは一緒に逝けた。
 大勢の人間を救って。
 諸見さんたちの犠牲は、きっとこれからの戦いに大きな影響がある。
 私にはそう感じられた。

 そして保奈美さん。
 今、きっとタカさんと一緒にいる。
 



 どうかそれが、二人にとって幸せなものになりますように。
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