富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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聖の引退

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 別荘から戻った俺は、ニューヨークへ行き聖を見舞った。
 二度の《刃》との激闘で、聖の身体は無理をして多大な負荷を掛けてしまった。
 元々傷の癒えていない状態の聖に、念のために石神家の《刃》討伐に付き合ってもらった。
 本来は聖は必要無かった。
 むしろ、まだ傷の癒えていない身体を休ませるべき状況だった。
 でも俺としては、虎白さんたちが《刃》を斃すところを聖に見せたかったのだ。
 《魔法陣》を使った高威力の技で《刃》を瞬殺することで、聖を喜ばせたかった。

 しかし、状況は激変し、《刃》が3カ所で同時に出現した。
 しかも、混乱する状況の中で保奈美が見つかったのだ。
 完全に敵に裏をかかれる状況で、俺は咄嗟に聖に保奈美たちの救出へ向かってくれるように頼んだ。
 秒を惜しむ状況の中で、「タイガーファング」を手配する間も無かった。
 だから聖は「飛行」でまず無理をし、その上で《刃》を撃退したが、保奈美も諸見と綾も救えなかった。
 そのことで、聖は激しく取り乱し、俺に泣きついて謝った。
 もちろん、俺に聖を難ずることは何一つ無い。
 必死に飛んで保奈美たちを救おうとしてくれたことに、感謝しかない。
 結果は関係ないのだ。

 俺が保奈美たちを助けるように頼んだことで聖は相当な無理をし、聖はまた瀕死の状態になり、その後の回復もままならなかった。
 今もベッドに縛られた状態で治療と養生を続けている。
 聖の入院している病院には亜紀ちゃんたちも一緒に来たがったが、俺が許可しなかった。
 今の聖を見て良いのは俺だけだ。
 それと、「連中」だけだ。

 俺は「タイガーファング」でニューヨークへ向かった。
 「飛行」ではなく、「虎」の軍の機体を用意し、堂々と乗り込んだ。
 俺が聖を見舞うことを知らせるために、だ。
 アメリカへの入国にあたり、きちんと関係各所に「虎」の軍の最高司令官《タイガー》が向かう旨を伝えている。
 聖が入院している病院にももちろんだ。
 聖の病室は厳重な警戒態勢が敷かれている。
 だから俺の訪問は事前に連絡が必要なのだ。
 聖にも見舞いの日時を伝え、聖が非常に喜んだ。
 俺も聖に会いたかった。

 「タイガーファング」はセイントPMCの敷地に着陸し、そこからロックハート家のリムジンで移動した。
 当然、入国管理などは受けない。
 俺は実質的なアメリカの支配者だからだ。
 俺はマウントサイナイ病院に着き、病院のスタッフが俺を聖の病室へ案内した。
 この病院は以前に院長夫妻を案内した、アメリカ最高の病院だ。
 そして以前から「虎」の軍に対して、非常に協力的に対応してくれている。
 だから聖をここへ預けた。
 聖は特別な患者なので、入院フロアは塞がれており、一帯には警備の人間と専任の医師と看護師、そして聖しかいない。
 4つのゲートがあり、厳重に出入りの人間、荷物を検査される。
 妖魔の侵入も万全で「ルドンメ」が直々に見張っている。

 俺だけはフリーパスで全てのゲートをくぐった。

 



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







 「よう、久しぶりだな!」
 「トラぁ!」

 ベッドで聖が喜んだ。
 100平米の広い部屋であり、採光も素晴らしい居心地の良い部屋だ。
 俺は特別に聖のカルテを見られる。
 先ほど一通り見て、状態は把握していた。
 聖の専任看護師のイリヤードもいた。
 俺を見て頭を下げた。
 イリヤードはもちろん、聖の状態を全て把握している。

 「どうだよ、どこか痛むか?」
 「ああ、背中が酷いかな。全身のだるさは少し良くなったよ」
 「そうか。足のリハビリはどうだ?」
 「まだ全然動かない。医者はもう駄目だろうと言っている」
 「諦めるな、まだ続けろよ」
 「うん!」

 聖が明るく笑った。
 聖の両足は腰の損傷が酷く、今でも動かない状態だった。
 最初の《刃》の襲撃の時に俺が懸命に神経を繋いだのだが、二度目の出撃で無理をし過ぎた。
 神経は完全に断裂し、一応は修復の処置をしたが、未だに繋がってはいない。

 「トラ、俺は引退だな」
 「まあ、仕方ないな。そのうちにアラスカへ移送するよ。そこでのんびりしてくれ。リハビリを続ければ、もしかすると歩くくらいは出来るかもしれないぜ」
 「悪いな、トラ。俺は何も出来なくなっちまった」
 「そんなことはねぇ。お前は十分にやってくれたし、これからだって作戦本部でも活躍してくれるだろうよ」
 「ああ、せいぜい頑張るぜ」

 俺が聖を外へ出したいというと、イリヤードが聖をベッドから抱えて車いすに乗せてくれた。
 俺であれば、自由に聖を連れ出せる。
 念のために、イリヤード看護師も一緒に来る。
 屋上に出て、聖に日光を浴びさせた。

 「暑いけど気持ちいいな」
 「そうか。こっちは日本と違って湿度がねぇもんな」
 「日本か、なんか懐かしいな」
 「いつでも連れてってやるぜ。言ってくれ」
 「ああ」

 いい感じだ。
 聖もリラックスしている。
 日陰に入って休ませ、俺はカップのアイスクリームとコーヒーを持って来た。
 聖が喜ぶ。

 「美味いな」
 「そうか、アイスはゆっくり食べろ」
 「うん」

 聖は内臓もやられている。
 本来は冷たい物は摂らせない方が良いのだが、今日のような暑い日にはいいだろう。

 「トラ、子どもたちはどうだ?」
 「ああ、中南米とアフリカでな、大活躍だったぜ」
 「そっか。あいつらなら、やるよな」
 「予想以上だ。ぶっ殺しまくりかと思ったけどな、案外生存者は多いよ」
 「ワハハハハハ! でも、あいつらはそうだろうよ。優しい奴らだからな」
 「そうだなぁ。俺らだったらもっと殺してたよなぁ」

 聖が遠くを見詰めて微笑んだ。

 「ああ、もうあいつらを鍛えられねぇのか」
 「しょうがねぇよ。お前に鍛えてもらってどんどん強くなったんだけどな」
 「まだまだ教えたかったぜ。俺ならば、あいつらをもっと強く出来た」
 「そうだな。でもここまでで十分だ。一応、世界は俺たちの味方になった」
 「そっか」

 俺は中南米やアフリカの状況を聖に話した。
 まだ反対勢力は多いが、各国の政府は俺たちに恭順を示していると。

 「まあ、良かったじゃねぇか。じゃあ、いよいよ世界は「虎」の軍だな」
 「もう少しな。でも、大体の道筋はついたぜ。だからあいつらも変わって来る」
 「そうだな。俺も戦いたかったけどな」
 「お前はもういいよ。最大戦力のお前がいないのは厳しいけどな。でも何とでもなるさ」
 「悪いな。何しろ《崋山》も使えなくなっちまった。俺が生きてると他の奴らも使えねぇしよ」
 「いいよ。戦闘は俺たちに任せろ」
 「でも厳しいんだろう?」
 「だからしょうがねぇって。負けるつもりはねぇしな。何とか頑張ってみるよ」
 「トラ、ごめんな」

 聖を病室へ戻した。
 今度は俺が車いすからベッドへ抱きかかえて寝かせてやる。
 イリヤード看護師も部屋を出て行った。




 聖が泣きそうな顔になった。
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