富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,763 / 3,215

天丸の再起 Ⅶ

しおりを挟む
 トラが話を終えて、天丸の方を見た。
 天丸は黙って聞いていた。

 「最近の状況はこんな感じだけどな」

 トラが天丸のコップに酒を注いだ。

 「まあ、そんなことはどうでもいいんだ」
 「え?」
 
 トラは「そんなこと」と言った。
 天丸は「虎」の軍の重要な作戦を聞いていたつもりだろう。
 でも、トラにとっては、もっと大事な話があって来たのだ。

 「俺はお前のことがずっと心配だった。だから今日、ここへ来た」
 「トラ!」
 「我當会も《ハイヴ》もな、お前のことに比べればなんでもねぇ」
 「おい、トラ」
 「お前、大丈夫か? 聖はここに来るのに、俺には何も言わなかったよ。突然ここに来たいって言っただけだった。鍛錬をしたいんだってなぁ。でもな、聖もお前のことが心配でここに来たんだと思うぞ?」
 「……」

 トラは俺の心を分かっている。
 こいつほど優しい奴はいない。
 だから分かっている。
 そして俺は口にはしなかったことを、トラは真直ぐに言った。

 「天丸、お前のことが大事だ。だから来た。お前が辛くてしょうがねぇのが分かっているからだ。聖も、もちろん虎白さんや虎蘭も虎水も、お前のことが心配でしょうがねぇ」
 「トラ……」
 「おい、天丸。俺たちの戦いは、「業」をぶっ殺すことじゃねぇぞ! 大事な人間のために何かやることなんだ! お前もそうなんだろう、天丸!」
 「トラぁ!」

 トラが天丸の隣に行って肩を組んだ。

 「お前が辛そうにしてるとよ、俺たちは心配でしょうがねぇ。お前が決着を付けなきゃならないことだから、みんな手出しも出来ねぇ。だけどよ、おい、お前のことが大好きなんだよ! お前のことが心配なんだよ!」
 「トラ!」

 トラが辛そうな顔をしていた。

 「俺にもさ、幸せでしょうがない時があったよ。本当に人生で最高に幸せで。親父とお袋と一緒に暮らしてた時な。お前たちとも一緒だった。貧乏でしょうがなかったけどよ、あの日々は最高だ。それに……」

 トラが言葉を詰まらせた。
 俺には分かっている。
 奈津江との時間だろう。

 「でもな、もう戻れねぇ。あの日あの時は過ぎ去った。喪ってしまった。絶対に失くしたくはなかったのになぁ。でもしょうがねぇ」
 「トラ……」

 天丸も思い出しているのだろう。

 「失くしちまったけどよ、俺たちは確かにあの日あの時を持っていたんだ。だったらな! あの大事な日が俺たちの中にはある。だからよ、今だって堂々としてねぇとなぁ」
 「トラ……」
 
 トラが「待ってろ」と言い、奥に行って戻って来た。
 小さな桐の箱を持っていた。

 「西安でな、みんなが集めてくれたんだ。《刃》に襲い掛かった妖魔の欠片だ。蓮花の研究所でやっと解析して分別出来た。天豪の遺伝子配列がなんとか見つかったよ。やっぱり天豪は俺たちの味方だったんだな」
 「!」
 「妖魔の身体は死ぬと崩れ去る。でも、ほんの一部が残ることもある。それを拾い集めて蓮花が必死に解析してくれた」
 「なんで……」
 「なんでだと? おい、みんなお前のことが大事なんだって言っただろう。ようやく分かったからよ、お前に持って来たんだ」
 「トラ……みんな……」
 「拾い集める連中も必死でやってくれたんだ。ソルジャーやデュールゲリエたちだけじゃねぇ、石神家の人間も何人も来て探してくれた」
 「!」

 誰もそんなことは天丸に言っていなかっただろう。 
 トラがまた天丸の肩を組んだ。

 「なあ、天豪の墓を建てよう」
 「え!」
 「やっとあいつを弔ってやれるな」

 「トラ、墓はどこに建てるんだ?」
 「ここでいいだろう。天豪は仲間なんだからな」
 「!」

 天丸が大粒の涙を零していた。
 目を見開いたまま、涙を流した。

 「俺が虎白さんに頼んでやるよ。天丸、ここに墓を建てていいか?」
 
 天丸は泣きながらうなずいた。

 「おし! じゃあ、早速行くかぁ!」
 「トラ、今からかよ?」
 「ああ、虎白さんも酒を飲んでるだろう。気分がいい時にな」
 「あ、ああ……」

 あの人が酒で甘くなるとは思えないが。
 でも、トラだってそんなことは分かっている。
 天丸のために、今動くのだ。
 俺たちも心配になって、トラと一緒に家を出た。
 もちろん天丸も一緒だ。

 



 「虎白さん!」
 「おう、なんだよ、こんな時間に」

 虎白さんはまだ起きていた。
 別に酔ってはいなかった。
 浴衣も乱れておらず、まるで俺たちが来るのを待っていたかのようだった。
 異常に勘のいい人だ。

 「お願いがありまして」
 「なんだ?」
 「天豪の遺体があります。西安で集めたものの解析が終わりまして。それで、ここに天豪の墓を建ててやりたいんですが」
 「あんだと!」

 虎白さんが怒鳴った。
 みんなビビったが、トラは平然と見ていた。
 と思ったら、やっぱりちょっとビビっていた。
 それでもトラが声を張り上げた。

 「あのですね!」
 「待ってろ!」

 虎白さんが奥へ入って行った。
 桐の小さな箱を持っていた。

 「これも墓に納めてくれ」
 「これは?」
 「天豪の髪だ。うちに落ちていたのを集めた」
 「「「え!」」」
 「!」
 「お前から天丸に渡してもらおうと思ってたんだ。ちょっとしかないけどよ。一緒にしてくれよ」
 「虎白さん!」
 「あんだよ!」

 天丸が土間の地面に膝をついて号泣していた。

 「おい、起きろよ。おい、高虎!」

 トラも泣きながら天丸を起こした。

 「なんだよ、お前らは!」

 そう言った虎白さんも涙ぐんでいた。

 「天丸、辛かったな。でもこれでけじめにしろ。もうウジウジしてるんじゃねぇぞ」
 「虎白さん! ありがとうございました……」
 「いいって。おい、俺はもう寝るからな。墓の件は明日誰かに話しておくよ」
 
 虎白さんはそう言って背中を向けて奥へ行った。
 肩が震えていた。
 天丸はずっと頭を下げていた。





 翌朝、石神家の墓所に行った。
 他の人間では無く、虎白さん自身が案内してくれた。 
 鍛錬場の向こう側に墓所はあった。
 大きな墓石があり、周囲に無数の墓石が建っていた。
 中には刀が一本だけ刺さっているものもある。
 
 「気が向いたらよ、一緒に鍛錬に来れるようにここに墓があるんだ」
 「そうなんですね」
 「虎影の墓は京都だけどな。まあ、そんな連中も多いよ」
 「そうですか」

 戦場で死んで、そのままになっている者も多いのだろう。
 虎白さんは東の一角へ向かった。
 
 「石神家の墓場なんだけどな。中には一緒に戦って死んだ連中も多い。そういう奴らはここらへんに埋めてんだ」
 「はい」

 虎白さんが真新しい墓石を示した。

 「ここでいいだろう?」
 「この墓石は?」
 「ああ、天豪の墓にしようと思ってな。天丸も死んだらここにな」
 「虎白さん!」

 天丸が叫んだ。

 「まあな、用意はしてたんだ。高虎が言い出しそうな気がしてたからなぁ」
 「虎白さん!」

 今度はトラが叫んだ。

 「じゃあ、坊主を呼んで葬式にすっかぁ。ああ、でも、お前んとこの墓もあるんじゃないのか?」
 「はい、妻の墓が。でもここに移しますよ」
 「おい、いいのか?」
 「はい。俺もここに入るんで。一緒にしていいですか?」
 「もちろんいいけどよ。まあ、そっか」

 虎白さんは天丸に墓に刻む内容を聞いて先に帰った。

 「おい、天丸。いい場所だな」
 「ああ、そうだな。日が当たって景色もいい」
 「そうだよな。俺たちはこんなことしか出来ねぇけどな」
 「ありがとう、トラ……」

 翌日には石屋が来て、墓石に「光賀家」と彫った。
 天豪の葬儀が行なわれ、石神家のみなさんが全員集まった。
 まあ、経を読んで納骨しただけの簡素なものだったが、みんなが天豪の死を悼んでいるのは分かっていた。
 午後には鍛錬をし、いつも通りだった。
 トラはもう誰よりも強く、以前のようにボロボロにはされなかった。
 天丸も何かが違っていた。
 懸命に鍛錬をしていたが、明るい顔だった。
 トラのお陰だ。

 翌日、トラは帰った。
 虎白さんに「虎影より強くなったな」と言われ、上機嫌だった。
 俺は虎影さんのことは知らないけど、トラは確かにとんでもなく強くなった。
 俺も頑張らねぇと。

 「じゃあな、天丸。しっかりやれよ!」
 「おう! トラ、本当にありがとうな」
 「なんでもねぇ。また来るからな」
 「ああ、待ってるぜ」

 「聖、しばらくここにいるか?」
 「ああ、あまりあちこち行けねぇからなぁ」
 「まあ、そのうちに戦場にも出てもらうしな。そんなに先じゃねぇよ」
 「ああ、楽しみにしてるぜ!」

 トラが虎蘭を呼んで抱き締めた。
 耳元で何か囁き、虎蘭が赤い顔をして嬉しそうになった。




 

 トラは明るく笑って、「タイガーファング」に乗った。
 あいつはどうしてこうも優しく、周りの人間を喜ばせるのか。
 みんなあいつが大好きだ。
 トラのために何でもしてぇ。
 命さえも。
 だってよ、俺たちは命なんかよりも上のものをトラに貰ってんだ。
 だからな。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...