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復讐者・森本勝 Ⅲ
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俺はアラスカの「ほんとの虎の穴」のVIPルームで独りで酒を飲んでいた。
雑賀さんと楽しく話していると、入り口が騒がしかった。
「森本! 勝手に入るんじゃねぇ!」
そういう叫び声が聞こえ、ドアが開かれた入り口に一人の男が立っているのを見た。
身長173センチ。
やせ型だが、筋肉は申し分なく付いている。
そこそこに鍛え上げた肉体だ。
髪は少し長めで、整えてはいない。
蓬髪のように無造作に拡がっている。
しかし顔、特に目に力があり、意志力の強い奴だと思った。
その男は真直ぐに俺を見て大声で言った。
「石神さんですね!」
「お前! 勝手に石神さんに話しかけるな!」
男の後ろで数人の男たちが肩に手を置いて引きずり出そうとする。
ここでは俺の姿を見掛けても近づいてはいけないことになっている。
特にVIPルームのドアが閉じている場合では、絶対に勝手に入ることも、声を掛けてもならない決まりだ。
俺がゆったりと過ごせるようにということだが、最高司令官としての立場というものを示す意味もある。
外のフロアで俺から話し掛けることはもちろんある。
俺の気分でドアを開けている場合も、声は掛けられないが顔を見て敬礼するのは構わない。
だが、俺が一旦VIPルームに入りドアを閉じれば、何者も俺の邪魔をしてはならない。
それをこの男が破った。
雑賀が入り口に歩こうとしたが、俺が止めた。
VIPルームでの仕来りを知らない奴はいないはずだが、この男は敢えて破って来た。
そのことに興味を持った。
「お前、名前は?」
「はい! 森本勝です!」
「そうか」
俺は森本の顔をぶん殴り、数メートルも吹っ飛ばした。
咄嗟に森本がガードしようとしたが、俺のブロウはそのガードごとぶっ飛ばす。
転がった森本が立ち上がろうとし、足に力が入らないことに気付きながら転んだ。
森本は何とか四つん這いで体勢を維持し、俺を見上げようとしていた。
集まって来た連中が森本を抱えて運び出そうとする。
森本が叫んだ。
「石神さん! 自分は強くなりたいんです! どうか!」
「森本、いい加減にしろ! 場所をわきまえろ!」
「石神さん! どうかお願いします!」
俺は森本の力量を見て、意識を奪うつもりで殴った。
しかし森本は今、必死に叫んでいる。
そんなことが出来るはずがない威力だったはずが、森本は必死に俺に訴えている。
やはり途方もなく意志の強い奴だ。
全身が痺れている森本は為す術もなく男たちに抱えられた。
それでも俺に視線を向けていた。
「おい、ちょっと待て」
俺が止めると、抱えていた連中は森本を無造作に床に落とし俺に敬礼した。
森本が床で呻く。
俺は森本の胸倉を掴んだ。
「てめぇ、決まり事が守れねぇか!」
「そんなもの、自分は強くなって「業」の連中をぶっ殺したいだけです」
「……」
俺は戸惑う連中に手を振り、森本を別な個室へ連れて行った。
雑賀さんが俺の酒と料理を運んでくれる。
森本の分も頼んだ。
森本にはミネラルウォーターが持って来られた。
雑賀さんも少々不満なのだろう。
ここでの「決まり事」は絶対だ。
酒で乱れる連中の中で、決めたことは絶対に守らせるのが雑賀さんの誇りだ。
森本は椅子に座らせてしばらくすると、少し楽になったようだ。
俺はその間、バランタインの30年物を大き目のワイングラスで飲んで待った。
氷を3つ入れたフレグランススタイルだ。
バランタインの様々な果実や樽の馨しい香りが味わえる。
ようやく森本が口を開いた。
「すみませんでした。つい、石神さんとお話し出来るチャンスかと思いまして」
「無茶をするな。周りの人間に袋叩きに遭ってもおかしくねぇぞ」
「はい、それでも構いません。自分が間違ってることは分かってますし」
「そうかよ」
森本があらためて自分のことを俺に話した。
森本勝、27歳。
真直ぐな男のようだった。
森本と話した。
森本は元は陸上自衛隊の隊員だった。
それが、あの「渋谷HELL」で婚約者を喪った。
その後、「虎」の軍の募集があった時、すぐに入隊を応募して来た。
森本の目的は一つだけだった。
「業」の軍を殺すこと。
恋人の復讐であることは明らかだ。
「翌月に結婚する予定でした。それが渋谷のハチ公口で突然怪物に襲われ、自分は殴り飛ばされて動けなくなり、彼女は目の前で喰われました」
「そうか」
「自分は自衛隊員でした。だからいつでも「君を絶対に護る」と言っていたんです。それが……」
俺は森本に同情はしたが、特別扱いするつもりは無かった。
森本のような人間は他にも大勢いる。
「お前は必死で訓練に励め。そして実力を見せろ。そうすれば強くもなるし、戦場にも出られる」
「はい」
それが、俺と森本勝との出会いだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
真奈美とは高校の頃からの付き合いだった。
今年で交際して5年が経つ。
俺は高校を卒業して自衛隊に入った。
最初のうちは訓練ばかりで真奈美と会うことも出来ない時期もあった。
ようやく給料もそこそこになり、真奈美と結婚するつもりだった。
俺などのような男に、真奈美はずっと好意を抱いてくれていた。
「俺なんかでいいのか?」
プロポーズはしたものの、受け入れてくれた真奈美に俺が問い返してしまった。
「何言ってるの! ずっと待ってたんだよ?」
「そ、そうなのか」
「勝ちゃんは優しいじゃない。私をずっと大事にしてきてくれたじゃない」
「それはそうだよ。真奈美のことが世界で一等大事だ!」
「ウフフフフ、嬉しいよ」
決して美人ではないが、愛くるしい顔をした女だった。
真奈美は俺のことを優しいと言ってくれたが、優しかったのは真奈美の方だ。
自衛官として忙しくするだけの俺のことを、真奈美はずっと待っていてくれたのだ。
何の取り柄も無い俺のことを、ずっと好きだと言ってくれた。
今はまだ官舎に住んでいるが、結婚すれば二人で暮らすことになる。
真奈美の希望で渋谷に住むつもりだった。
真奈美が渋谷のブティックで働いていたからだ。
せめて、真奈美の仕事に近い場所に住みたかった。
流石に駅の周辺は手が出ないだろうが、原宿あたりまで範囲を拡げれば何とかなりそうだった。
不動産屋に幾つか候補を見つけてもらい、今日はその内覧行くつもりだった。
真奈美が嬉しそうに俺の手を組んだ。
山手線のホームからハチ公口へ降りて行く。
改札を出ると、突然目の前で悲鳴が上がった。
「なんだ!」
叫びながら逃げ惑う人たちの向こうに、身体の脇から蜘蛛の足のようなものを生やした人間が暴れているのが見えた。
「真奈美!」
俺は咄嗟に真奈美の手を握って走ろうとした。
しかし、真奈美の隣の女が絶叫して怪物になった。
両腕が伸びて巨大な鎌のようになる。
怪物が鎌を薙いだ。
「真奈美!」
俺は真奈美の腕を引き寄せて、俺の背中に回した。
鎌が俺の腹を貫き、そのまま抉られた。
「勝ちゃん!」
鎌が俺の腹から引き抜かれ、真奈美の頭頂部から一直線に下へ降られた。
俺は声も出せずに、両断される真奈美を見ていることしか出来なかった。
真奈美が切り裂かれた身体で俺を見ていた。
手を伸ばそうとして、そのまま左右に倒れた。
俺も意識を喪った。
俺は意識を喪ったまま、真奈美の葬儀にも出られなかった。
後から「渋谷HELL」と称される事件で、「業」の軍勢が妖魔を使って襲撃したのだと発表された。
でも、俺は目の前で見ていた。
あれは一般人が妖魔化したのだ。
俺のような目撃者は警察から特別な指示があり、口外しないように要請された。
はっきりと、「無差別憑依」であったことも知らされた。
後に北海道でも無差別憑依事件があり、「虎」の軍はその対応策を立てたと発表した。
俺にはどうでも良かった。
俺が考えていたのは、「業」への復讐だけだ。
真奈美の命を奪ったあいつらを、決して許しはしない。
一人でも多く殺してやる。
そのことだけを考えて、俺は「虎」の軍に入った。
俺は今、自分が強くなることしか考えていない。
俺を強くしてくれるなら、なんでもする。
俺には真奈美が全てだった。
だから真奈美を奪ったあいつらを殺すだけだ。
雑賀さんと楽しく話していると、入り口が騒がしかった。
「森本! 勝手に入るんじゃねぇ!」
そういう叫び声が聞こえ、ドアが開かれた入り口に一人の男が立っているのを見た。
身長173センチ。
やせ型だが、筋肉は申し分なく付いている。
そこそこに鍛え上げた肉体だ。
髪は少し長めで、整えてはいない。
蓬髪のように無造作に拡がっている。
しかし顔、特に目に力があり、意志力の強い奴だと思った。
その男は真直ぐに俺を見て大声で言った。
「石神さんですね!」
「お前! 勝手に石神さんに話しかけるな!」
男の後ろで数人の男たちが肩に手を置いて引きずり出そうとする。
ここでは俺の姿を見掛けても近づいてはいけないことになっている。
特にVIPルームのドアが閉じている場合では、絶対に勝手に入ることも、声を掛けてもならない決まりだ。
俺がゆったりと過ごせるようにということだが、最高司令官としての立場というものを示す意味もある。
外のフロアで俺から話し掛けることはもちろんある。
俺の気分でドアを開けている場合も、声は掛けられないが顔を見て敬礼するのは構わない。
だが、俺が一旦VIPルームに入りドアを閉じれば、何者も俺の邪魔をしてはならない。
それをこの男が破った。
雑賀が入り口に歩こうとしたが、俺が止めた。
VIPルームでの仕来りを知らない奴はいないはずだが、この男は敢えて破って来た。
そのことに興味を持った。
「お前、名前は?」
「はい! 森本勝です!」
「そうか」
俺は森本の顔をぶん殴り、数メートルも吹っ飛ばした。
咄嗟に森本がガードしようとしたが、俺のブロウはそのガードごとぶっ飛ばす。
転がった森本が立ち上がろうとし、足に力が入らないことに気付きながら転んだ。
森本は何とか四つん這いで体勢を維持し、俺を見上げようとしていた。
集まって来た連中が森本を抱えて運び出そうとする。
森本が叫んだ。
「石神さん! 自分は強くなりたいんです! どうか!」
「森本、いい加減にしろ! 場所をわきまえろ!」
「石神さん! どうかお願いします!」
俺は森本の力量を見て、意識を奪うつもりで殴った。
しかし森本は今、必死に叫んでいる。
そんなことが出来るはずがない威力だったはずが、森本は必死に俺に訴えている。
やはり途方もなく意志の強い奴だ。
全身が痺れている森本は為す術もなく男たちに抱えられた。
それでも俺に視線を向けていた。
「おい、ちょっと待て」
俺が止めると、抱えていた連中は森本を無造作に床に落とし俺に敬礼した。
森本が床で呻く。
俺は森本の胸倉を掴んだ。
「てめぇ、決まり事が守れねぇか!」
「そんなもの、自分は強くなって「業」の連中をぶっ殺したいだけです」
「……」
俺は戸惑う連中に手を振り、森本を別な個室へ連れて行った。
雑賀さんが俺の酒と料理を運んでくれる。
森本の分も頼んだ。
森本にはミネラルウォーターが持って来られた。
雑賀さんも少々不満なのだろう。
ここでの「決まり事」は絶対だ。
酒で乱れる連中の中で、決めたことは絶対に守らせるのが雑賀さんの誇りだ。
森本は椅子に座らせてしばらくすると、少し楽になったようだ。
俺はその間、バランタインの30年物を大き目のワイングラスで飲んで待った。
氷を3つ入れたフレグランススタイルだ。
バランタインの様々な果実や樽の馨しい香りが味わえる。
ようやく森本が口を開いた。
「すみませんでした。つい、石神さんとお話し出来るチャンスかと思いまして」
「無茶をするな。周りの人間に袋叩きに遭ってもおかしくねぇぞ」
「はい、それでも構いません。自分が間違ってることは分かってますし」
「そうかよ」
森本があらためて自分のことを俺に話した。
森本勝、27歳。
真直ぐな男のようだった。
森本と話した。
森本は元は陸上自衛隊の隊員だった。
それが、あの「渋谷HELL」で婚約者を喪った。
その後、「虎」の軍の募集があった時、すぐに入隊を応募して来た。
森本の目的は一つだけだった。
「業」の軍を殺すこと。
恋人の復讐であることは明らかだ。
「翌月に結婚する予定でした。それが渋谷のハチ公口で突然怪物に襲われ、自分は殴り飛ばされて動けなくなり、彼女は目の前で喰われました」
「そうか」
「自分は自衛隊員でした。だからいつでも「君を絶対に護る」と言っていたんです。それが……」
俺は森本に同情はしたが、特別扱いするつもりは無かった。
森本のような人間は他にも大勢いる。
「お前は必死で訓練に励め。そして実力を見せろ。そうすれば強くもなるし、戦場にも出られる」
「はい」
それが、俺と森本勝との出会いだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
真奈美とは高校の頃からの付き合いだった。
今年で交際して5年が経つ。
俺は高校を卒業して自衛隊に入った。
最初のうちは訓練ばかりで真奈美と会うことも出来ない時期もあった。
ようやく給料もそこそこになり、真奈美と結婚するつもりだった。
俺などのような男に、真奈美はずっと好意を抱いてくれていた。
「俺なんかでいいのか?」
プロポーズはしたものの、受け入れてくれた真奈美に俺が問い返してしまった。
「何言ってるの! ずっと待ってたんだよ?」
「そ、そうなのか」
「勝ちゃんは優しいじゃない。私をずっと大事にしてきてくれたじゃない」
「それはそうだよ。真奈美のことが世界で一等大事だ!」
「ウフフフフ、嬉しいよ」
決して美人ではないが、愛くるしい顔をした女だった。
真奈美は俺のことを優しいと言ってくれたが、優しかったのは真奈美の方だ。
自衛官として忙しくするだけの俺のことを、真奈美はずっと待っていてくれたのだ。
何の取り柄も無い俺のことを、ずっと好きだと言ってくれた。
今はまだ官舎に住んでいるが、結婚すれば二人で暮らすことになる。
真奈美の希望で渋谷に住むつもりだった。
真奈美が渋谷のブティックで働いていたからだ。
せめて、真奈美の仕事に近い場所に住みたかった。
流石に駅の周辺は手が出ないだろうが、原宿あたりまで範囲を拡げれば何とかなりそうだった。
不動産屋に幾つか候補を見つけてもらい、今日はその内覧行くつもりだった。
真奈美が嬉しそうに俺の手を組んだ。
山手線のホームからハチ公口へ降りて行く。
改札を出ると、突然目の前で悲鳴が上がった。
「なんだ!」
叫びながら逃げ惑う人たちの向こうに、身体の脇から蜘蛛の足のようなものを生やした人間が暴れているのが見えた。
「真奈美!」
俺は咄嗟に真奈美の手を握って走ろうとした。
しかし、真奈美の隣の女が絶叫して怪物になった。
両腕が伸びて巨大な鎌のようになる。
怪物が鎌を薙いだ。
「真奈美!」
俺は真奈美の腕を引き寄せて、俺の背中に回した。
鎌が俺の腹を貫き、そのまま抉られた。
「勝ちゃん!」
鎌が俺の腹から引き抜かれ、真奈美の頭頂部から一直線に下へ降られた。
俺は声も出せずに、両断される真奈美を見ていることしか出来なかった。
真奈美が切り裂かれた身体で俺を見ていた。
手を伸ばそうとして、そのまま左右に倒れた。
俺も意識を喪った。
俺は意識を喪ったまま、真奈美の葬儀にも出られなかった。
後から「渋谷HELL」と称される事件で、「業」の軍勢が妖魔を使って襲撃したのだと発表された。
でも、俺は目の前で見ていた。
あれは一般人が妖魔化したのだ。
俺のような目撃者は警察から特別な指示があり、口外しないように要請された。
はっきりと、「無差別憑依」であったことも知らされた。
後に北海道でも無差別憑依事件があり、「虎」の軍はその対応策を立てたと発表した。
俺にはどうでも良かった。
俺が考えていたのは、「業」への復讐だけだ。
真奈美の命を奪ったあいつらを、決して許しはしない。
一人でも多く殺してやる。
そのことだけを考えて、俺は「虎」の軍に入った。
俺は今、自分が強くなることしか考えていない。
俺を強くしてくれるなら、なんでもする。
俺には真奈美が全てだった。
だから真奈美を奪ったあいつらを殺すだけだ。
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