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復讐者・森本勝 Ⅴ
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森本勝の上官への発言を巡って、「虎」の軍の中でこれまでに無い混乱が起きた。
森本を除名すべきという意見と、最高司令官である俺が介入し結審したのだからという意見が衝突し、多くの軍のソルジャーと関係者たちの対立まで招いた。
その事態の収拾のために、俺は「トラ・ドーム」で自由参加の集会を開き、俺自身の口から全軍に伝えた。
「仲間を見捨てて逃げると言った男がいた」
「トラ・ドーム」では立ち見を含めて18万人の兵士が集まり、ドームに入れなかった人間にはオンラインで俺の映像を見れるようにした。
アーカイブもある。
これまで幾つもの催しがここで行なわれたが、ここまで人が詰めかけたことはないだろう。
しかも全員が「虎」の軍のソルジャーと関係者だ。
それは、森本の問題が大きな衝撃をもたらしたことを示している。
軍人としての在り方もそうだろうが、「虎」の軍というものに対するソルジャーたちの憧れのようなものに抵触する発言だったからだ。
そこにはデュールゲリエたちへの認識の変遷があった。
最初は機械人形と思っていたデュールゲリエたちが、そうではないと知られ始めた。
諸見と綾のことを多くの人間が知るようになり、デュールゲリエたちが俺たちと同じように他者を思いやる心を持っていることを全員が知った。
そのデュールゲリエたちは戦場で果敢に戦うばかりか、仲間を護るために真っ先に特攻する。
自分が犠牲になって、仲間を護り逃がそうとする。
そうした場面に数多く遭遇し、知り、ソルジャーたちはデュールゲリエたちをかけがえのない仲間なのだと認識して行った。
ソルジャーたちは感動し、反省し、泣いた。
そしてデュールゲリエと話すようになり、本当の仲間として接するようになっていった。
そのことで、デュールゲリエたちの態度も変わって行った。
積極的に人間と交わるようになり、無謀な特攻も少なくなっていった。
そういう状況を知った蓮花が大泣きして喜び、全ソルジャーたちに感謝の手紙を書くと言い出した。
俺は蓮花を落ち着かせて、蓮花のことを全ソルジャーたちに公式に伝えた。
一層、人間とデュールゲリエとの関係が良くなって行った。
今回の森本の発言は、そういう「虎」の軍の中では大きな反発を招くことになってしまった。
ストライカー少佐が公式に発表し、軍事法廷まで開かれてしまったことで、そうなった。
もちろん、ストライカー少佐が悪い人間であろうはずもない。
彼は「虎」の軍を愛し、仲間を大切に思う人間なのだ。
だからこそ、森本を許せなかった。
いつもは俺が登場すると大歓声で迎えられたが、その日ばかりは歓声はあまりなかった。
俺の隣には統合参謀本部のターナー大将も並んで立っている。
ターナー大将は終始苦い顔をしていた。
彼からは事前に、何度も俺が森本を擁護するのは辞めるべきだと言われた。
上級ソルジャーでもない、実績もない一介のソルジャーをそこまで庇う必要は無いのだと。
ターナー大将が心配しているのは、もちろん俺の立場だ。
ここまで最高司令官に心酔している兵士の多い軍隊はいない。
折角の俺への評価が下がってしまうと。
俺自身を思ってくれるターナー大将の心配はありがたいが、俺は評価などどうでも良い人間だ。
ターナー大将の反対を押し切って、俺は全ソルジャー、軍の人間たちに言った。
「俺はその男を否定しない。表面で取り繕い、正論を吐く奴、自分を良く見せかけようとする奴は、俺は嫌いだ。その男は俺の前でも言い切った。もちろん褒められる考えではない。でも、俺はそれを認める。自分が否定されるとしても、嘘を述べないその男の姿勢に、俺は誠実さを感じた」
会場からブーイングが挙がる。
これまで、「虎」の軍の最高司令官である俺に対してそのような場面は初めてだった。
俺は構わずに続けた。
「俺たちは仲間だ。仲間は助け合うものだ。俺もそう思う。多くの者がそう考えているだろうことは、俺も知っている。だが、この問題を軽く見るな! 極限状態で、初めてその人間の真実が出る! つまり、その時に仲間を助けた者だけが、「仲間を助ける者」なのだ! 助けようとして死んだ者だけが、真に立派な人間なのだ! そうしていない者は何も言うな! 綺麗事を言うな! だったら仲間を助けろ! 俺の言いたいのはそれだけだ!」
会場が鎮まった。
俺の声はエコーで響いて行った。
先ほどまで声を張り上げて避難していた連中もいたが、もう誰も何も言わなかった。
「但し、命令違反は許さん。それが死地に赴くものであろうと、命令には従え。指揮官は一層そのことを心に刻め! それが嫌な奴は今すぐにここを去れ。俺が言いたいのはそれだけだ」
俺は頭を下げ、退出した。
俺の言葉は全「虎」の軍にまた伝わり、反発は沈静化した。
実際に死んでから語れと言う俺の言葉が全員の心に入ったためだ。
但し、尚も俺の言葉に対する反発は残り、ターナー大将は心労が募って入院した。
軍隊の根幹の問題だったからだ。
どこの軍隊も、自分の命を捧げて軍、国に仕えるように指導される。
それは強い軍隊になるためだ。
その指導が行き渡らなければ、軍隊は私利私欲に塗れた腐敗した組織になり、軍としての力を喪う。
ただ武器を持っただけの悪党になり下がる。
だが、俺は「虎」の軍は違うと考えていた。
俺は、他のまともな軍隊の上を行く組織を作りたかった。
命令違反は許さんが、極限状況でどう動くのかは戦士たちに任せる。
その問題を考えさせたかった。
多くの兵士は極限状態はほとんど経験しない。
しかし「虎」の軍は恐らく度々陥るだろう。
敵が余りにも強大だからだ。
作戦が思わず崩壊することもあるだろう。
実際に想定外の展開になったことは幾らでもある。
俺も聖、子どもたちも相当ヤバい状況は何度もあったし、羽入と紅はそれ以上の死地を経験している。
他にも大勢いる。
だから、その覚悟を常に持っていて欲しかった。
そういう意味で、森本の発言は実に示唆に富んでいた。
森本は言い切った。
それは一つの答えだ。
その答えが、どれほどの覚悟で形成されたのかが、俺にはよく分かった。
だから森本を罰しなかったのだ。
もちろん、まだ森本に対する反発は多い。
通常の軍隊ではあり得ない発言だったためだ。
俺は森本を別な部隊に配属させ、森本はそこでも頑張って頭角を示して行った。
だから部隊長の推薦で千石に第三階梯の「花岡」を学ばせることとなったようだ。
しかし、それは失敗した。
多分、森本のことを以前から知っていた千石が、森本を嫌っていた。
軍隊では、そういうこともある。
それに、森本自身が招いたことだ。
多くの者が、森本の言葉の向こう側にあるものが見えなかった。
森本を除名すべきという意見と、最高司令官である俺が介入し結審したのだからという意見が衝突し、多くの軍のソルジャーと関係者たちの対立まで招いた。
その事態の収拾のために、俺は「トラ・ドーム」で自由参加の集会を開き、俺自身の口から全軍に伝えた。
「仲間を見捨てて逃げると言った男がいた」
「トラ・ドーム」では立ち見を含めて18万人の兵士が集まり、ドームに入れなかった人間にはオンラインで俺の映像を見れるようにした。
アーカイブもある。
これまで幾つもの催しがここで行なわれたが、ここまで人が詰めかけたことはないだろう。
しかも全員が「虎」の軍のソルジャーと関係者だ。
それは、森本の問題が大きな衝撃をもたらしたことを示している。
軍人としての在り方もそうだろうが、「虎」の軍というものに対するソルジャーたちの憧れのようなものに抵触する発言だったからだ。
そこにはデュールゲリエたちへの認識の変遷があった。
最初は機械人形と思っていたデュールゲリエたちが、そうではないと知られ始めた。
諸見と綾のことを多くの人間が知るようになり、デュールゲリエたちが俺たちと同じように他者を思いやる心を持っていることを全員が知った。
そのデュールゲリエたちは戦場で果敢に戦うばかりか、仲間を護るために真っ先に特攻する。
自分が犠牲になって、仲間を護り逃がそうとする。
そうした場面に数多く遭遇し、知り、ソルジャーたちはデュールゲリエたちをかけがえのない仲間なのだと認識して行った。
ソルジャーたちは感動し、反省し、泣いた。
そしてデュールゲリエと話すようになり、本当の仲間として接するようになっていった。
そのことで、デュールゲリエたちの態度も変わって行った。
積極的に人間と交わるようになり、無謀な特攻も少なくなっていった。
そういう状況を知った蓮花が大泣きして喜び、全ソルジャーたちに感謝の手紙を書くと言い出した。
俺は蓮花を落ち着かせて、蓮花のことを全ソルジャーたちに公式に伝えた。
一層、人間とデュールゲリエとの関係が良くなって行った。
今回の森本の発言は、そういう「虎」の軍の中では大きな反発を招くことになってしまった。
ストライカー少佐が公式に発表し、軍事法廷まで開かれてしまったことで、そうなった。
もちろん、ストライカー少佐が悪い人間であろうはずもない。
彼は「虎」の軍を愛し、仲間を大切に思う人間なのだ。
だからこそ、森本を許せなかった。
いつもは俺が登場すると大歓声で迎えられたが、その日ばかりは歓声はあまりなかった。
俺の隣には統合参謀本部のターナー大将も並んで立っている。
ターナー大将は終始苦い顔をしていた。
彼からは事前に、何度も俺が森本を擁護するのは辞めるべきだと言われた。
上級ソルジャーでもない、実績もない一介のソルジャーをそこまで庇う必要は無いのだと。
ターナー大将が心配しているのは、もちろん俺の立場だ。
ここまで最高司令官に心酔している兵士の多い軍隊はいない。
折角の俺への評価が下がってしまうと。
俺自身を思ってくれるターナー大将の心配はありがたいが、俺は評価などどうでも良い人間だ。
ターナー大将の反対を押し切って、俺は全ソルジャー、軍の人間たちに言った。
「俺はその男を否定しない。表面で取り繕い、正論を吐く奴、自分を良く見せかけようとする奴は、俺は嫌いだ。その男は俺の前でも言い切った。もちろん褒められる考えではない。でも、俺はそれを認める。自分が否定されるとしても、嘘を述べないその男の姿勢に、俺は誠実さを感じた」
会場からブーイングが挙がる。
これまで、「虎」の軍の最高司令官である俺に対してそのような場面は初めてだった。
俺は構わずに続けた。
「俺たちは仲間だ。仲間は助け合うものだ。俺もそう思う。多くの者がそう考えているだろうことは、俺も知っている。だが、この問題を軽く見るな! 極限状態で、初めてその人間の真実が出る! つまり、その時に仲間を助けた者だけが、「仲間を助ける者」なのだ! 助けようとして死んだ者だけが、真に立派な人間なのだ! そうしていない者は何も言うな! 綺麗事を言うな! だったら仲間を助けろ! 俺の言いたいのはそれだけだ!」
会場が鎮まった。
俺の声はエコーで響いて行った。
先ほどまで声を張り上げて避難していた連中もいたが、もう誰も何も言わなかった。
「但し、命令違反は許さん。それが死地に赴くものであろうと、命令には従え。指揮官は一層そのことを心に刻め! それが嫌な奴は今すぐにここを去れ。俺が言いたいのはそれだけだ」
俺は頭を下げ、退出した。
俺の言葉は全「虎」の軍にまた伝わり、反発は沈静化した。
実際に死んでから語れと言う俺の言葉が全員の心に入ったためだ。
但し、尚も俺の言葉に対する反発は残り、ターナー大将は心労が募って入院した。
軍隊の根幹の問題だったからだ。
どこの軍隊も、自分の命を捧げて軍、国に仕えるように指導される。
それは強い軍隊になるためだ。
その指導が行き渡らなければ、軍隊は私利私欲に塗れた腐敗した組織になり、軍としての力を喪う。
ただ武器を持っただけの悪党になり下がる。
だが、俺は「虎」の軍は違うと考えていた。
俺は、他のまともな軍隊の上を行く組織を作りたかった。
命令違反は許さんが、極限状況でどう動くのかは戦士たちに任せる。
その問題を考えさせたかった。
多くの兵士は極限状態はほとんど経験しない。
しかし「虎」の軍は恐らく度々陥るだろう。
敵が余りにも強大だからだ。
作戦が思わず崩壊することもあるだろう。
実際に想定外の展開になったことは幾らでもある。
俺も聖、子どもたちも相当ヤバい状況は何度もあったし、羽入と紅はそれ以上の死地を経験している。
他にも大勢いる。
だから、その覚悟を常に持っていて欲しかった。
そういう意味で、森本の発言は実に示唆に富んでいた。
森本は言い切った。
それは一つの答えだ。
その答えが、どれほどの覚悟で形成されたのかが、俺にはよく分かった。
だから森本を罰しなかったのだ。
もちろん、まだ森本に対する反発は多い。
通常の軍隊ではあり得ない発言だったためだ。
俺は森本を別な部隊に配属させ、森本はそこでも頑張って頭角を示して行った。
だから部隊長の推薦で千石に第三階梯の「花岡」を学ばせることとなったようだ。
しかし、それは失敗した。
多分、森本のことを以前から知っていた千石が、森本を嫌っていた。
軍隊では、そういうこともある。
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