富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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復讐者・森本勝 X

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 俺たちの前に現われた《地獄の悪魔》は、キングコブラの胴体に手足をくっつけたような奴だった。
 その手足は細く、素早く動けるタイプには見えない。
 デュールゲリエが20体応援に来てくれたが、そいつらは独自に戦況を判断して動くので、俺が何かを命じて邪魔をしたくはなかった。
 
 「総員、「カサンドラ」ロングソードモードで攻撃! とにかく当て続けろ!」
 『はい!』

 「如月! お前はガンモードで敵の動きがあったら撃て!」
 「はい!」

 如月に命じたのは、「アドヴェロス」の鏑木の得意な「機」を潰す銃撃だ。
 鏑木の銃技と「ガンスリンガー」の銃技は「虎」の軍でも採用され、如月はその特別な訓練を受けていた。
 まだまだ鏑木たちには及ばないが、ここは何とか踏ん張ってもらうしかない。
 コブラ型の身体に「カサンドラ」が突き刺さって行くが、さほどの効力は見えない。
 だが今はやり続けるしかない。
 その瞬間、コブラ型の身体がブレたように見えた。
 耳鳴りがする。
 その震動はそのまま強烈になり、デュールゲリエたちが俺たちの前に移動した。
 楯となったデュールゲリエたちの硬い外殻が破壊されて行く。

 「震動波か!」

 気付いた時には、一瞬で聴覚が破壊された。
 何も聞こえなくなる。
 部下たちの何人かが耳や鼻、目からも出血し倒れている。
 俺も意識が少し朦朧としているし、全身がだるい。
 他のソルジャーたちも同じ状態だろう。
 震動によって、全身がシェイクされ、血管や神経を冒した。
 内臓にもダメージがあるだろうし、共振した骨が破壊された奴もいる。

 
 背中を叩かれた。
 森本少尉だった。
 どうしてここに、とは思ったが、やはり意識がはっきりしない。
 森本少尉が何か言っているが全く聴こえない。
 耳を示して手を交差させると、森本少尉は俺たちの状況を瞬時に理解した。
 自分の口元を示す。

 〈ニ・ゲ・ロ〉

 その瞬間に、森本少尉が来た理由を悟った。

 「何故来た! あんたが来ても何にもならんですよ!」

 上手く発音出来たのかは分からない。
 しかし、森本少尉が微笑んで俺を見ていた。
 そして本隊の方向を指差す。
 俺は部下たちに倒れている者を抱えさせ、散開しながらジャングルに飛び込んだ。
 数体の残ったデュールゲリエが、重傷者を両脇に抱えて飛んで行った。
 森本少尉も一緒に来るだろうと思っていたが、後ろで衝撃を感じ振り返った。
 地面が激しく爆散している。
 森本少尉がやったのだろう。
 そうか、粉塵を舞い上がらせることで、あの超震動の攻撃を防ごうとしているのだ。
 地面を伝わる衝撃は続き、俺たちは必死に逃げた。
 逃げながら、俺は考えていた。

 森本少尉は、俺たちを助けに来たのだ!
 なんで、なんで!
 あの人は仲間を見捨てるのだと言っていたではないのか。
 桜大隊長が森本少尉を俺たちの救出に向かわせるわけはない。
 命令で来たのではないはずだ。
 どうして! なんで!

 俺は泣きながら走った。
 あの人は! 森本少尉は!
 先ほどの、透き通るような森本少尉の笑顔が頭に浮かんだ。
 



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「ウラール」から、刻々と戦況が入って来る。
 目の前では亜紀さんが3体目の《地獄の悪魔》を斃し、俺もようやく布お化けを斃した。
 「ニーズヘッグ」が到着し、13キロ先の川尻たちの戦場へ向かうように頼んだ。

 「桜さん! デュールゲリエが一体離れました!」
 「なんだ?」
 「《無量》のようです!」
 「あいつか!」

 デュールゲリエは基本的には俺の命令に従う。
 自由に戦況に応じて対応するようにはなっているが、それも全て俺の指示の範囲内でのことだ。
 先に川尻たちの救援に20体を送ったが、他の180体はすべてここで一緒にいるはずだった。
 多くのデュールゲリエたちはここで本隊の負傷者の救護に当たらせていた。
 勝手に戦線を離れることは無いはずだが。
 しかし、俺には分かっていた。
 《無量》だけは特別だ。
 石神さんによって、特別な機体として俺に与えられていた。
 そしてあいつは森本に特別な感情を持っていた。
 だからなのか……

 「ニーズヘッグ」に搭載された超攻撃兵器が地上を攻撃するのが見えた。
 2分後に通信が入った。
 
 「こちら「ウラール」、そちらの《地獄の悪魔》と新拠点の《地獄の悪魔》を除き、全敵戦力の消失を確認。もうここにはそれ以上の敵はいません。川尻隊は散開しつつこちらへ向かっています。重傷者をデュールゲリエが運んでいる模様」
 「分かった、引き続き哨戒と警戒を頼む」
 「了解!」

 川尻たちはどうなっただろうか。
 俺は「飛行」の出来る上級ソルジャーたちとデュールゲリエたちに川尻たちの救援に向かわせた。
 「ウラール」から、川尻たちがジャングルをこちらへ向かって来ていると報告があったが、無事かどうかは分からない。
 その間に、先に送り込んだデュールゲリエが重傷者を運んで来た。
 俺がそのデュールゲリエの一体に状況を聞いた。

 「川尻たちはどうなった!」
 「超震動波の攻撃を受け、小隊は全員が負傷しました。我々もその時に16名が損壊。直後に森本少尉が救援に来られまして、小隊は全員ジャングルへ逃げました」
 「生きているのか!」
 「はい。森本少尉が《地獄の悪魔》を引き受けて下さり、退却の時間を稼いで下さいました」
 「森本は!」
 「分かりません。ですが、森本少佐の攻撃と思われる地表の破壊音が先ほどから途切れております」
 「!」
 
 上級ソルジャーたちに抱えられて、川尻たちが次々と帰還した。
 誰もが聴覚を喪っており、超震動の攻撃によって重傷者もいた。
 しかしほとんどが生きていた。
 《地獄の悪魔》を前に、川尻の小隊は全滅するはずだった。

 亜紀さんが最後の4体目の《地獄の悪魔》を斃し、川尻たちを襲った《地獄の悪魔》も、「ニーズヘッグ」の攻撃によって斃された。
 俺は亜紀さんにここを頼み、数人を連れて川尻たちがいた現場へ向かった。

 ベトンの建物が崩れ、周囲の地表が抉られ破壊されていた。
 「ニーズヘッグ」の攻撃で斃された《地獄の悪魔》は既に溶解が進み、ほとんど残ってはいなかった。
 その近くに、ハラバラになったデュールゲリエの機体が散らばっている。
 最初に楯になったデュールゲリエたちは全て粉塵と化していたので、恐らくは《無量》のものだろう。
 森本の遺体があった。
 恐らく超震動によって全身をグズグズにされ、俺が抱き上げると骨が粉砕された身体が俺の腕の中で垂れ下がった。
 俺には分かった。
 森本は何度も《地獄の悪魔》の超震動を浴びながらも、川尻たちを逃がすためにここで戦い続けていたのだ。
 こんな身体になってまで!
 
 「森本ォォォォーーーー!」





 俺の叫びは密集したジャングルに吸い込まれて消えて行った。
 そんな俺と森本を、他の部隊員たちが黙って見ていた。
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