富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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夏の匂い Ⅵ

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 早乙女や斬たちの「紅砂会」の調査は一向に進まなかった。
 特に千万組や山王会などは多くの組と交流があっただけに期待していたのだが、何も掴めなかった。
 まあ、組ごと潰されたヤクザたちの行方など、みんな関心が無い。
 特に公安の凶暴な組織に蹂躙されたとあっては、関わり合いにはなりたくないと考えられていたようだ。
 情報はまったく集まらなかった。
 
 「石神さん、済まない」

 千両がそう言い、早乙女や他の連中も俺に謝って来た。
 わざわざ俺の家まで来た千両に俺が提案した。

 「仕方が無いな。じゃあ、思い切ったことをやるか」
 「はい、どのようなことでしょうか」
 「宝くじだよ」
 「はい?」

 俺は千両に、思い付いた「年末極道ギガ・ジャンボ」の話をした。

 「全国の極道の中から大当たりになったと伝えろ。今年は当たりは「紅砂会」だ。「紅砂会」だった人間には、全員に10億円ずつ与える」

 千両が一瞬呆れた顔をし、俺に申し訳なさそうに言った。

 「いや、幾ら何でもそんなことでは……」
 「あんだよ!」
 「流石にそこまでのバカはいないでしょう」
 「ヤクザってバカばっかだろ?」
 「そうなんですが、そうは言いましても」

 まあ、咄嗟の思い付きなのだが、否定されるとなんか頭に来る。
 お前らがどうにもならねぇと言うから出した案じゃねぇか!

 「いいからやれ! 全国の組に回状を回せ! ヤクザが覗きそうなネット、あらゆる広告宣伝をやれ!」
 「はい、分かりました。でも、多分……」
 「や、れ!」
 「はい!」

 俺もそんなに効果は期待していなかった。
 落ち込む千両に冗談半分で言い、言い返されて引っ込みが付かなくなっただけだ。
 千両の言う通り、無茶苦茶に怪しい話だ。
 流石にノコノコ顔を出す人間はいないだろう。
 だが、もしかすると全国のヤクザ者が当選金目当てに「紅砂会」の生き残りを探し出す可能性もあった。
 ヤクザだった者が潜むのは、薄暗がりだ。
 俺が提案したことは、1985年に実際にアメリカのFBIが実際にやったことだ。
 「フラッグシップ作戦」(Operation flagship)というおとり捜査だ。
 指名手配犯たちにスーパーボ-ルの無料観戦チケットの当選を伝え、のこのこやって来た101人もの指名手配犯たちを捕まえた。
 いまだに見事な作戦と評価されているのだ。
 まあ、今回は無理だろうが。

 発表して数日後、千両から連絡が来た。

 「石神さん、三人ほど名乗り出て来ました」
 「……」

 マジで?





 千両たちが確保した元「紅砂会」組員は、俺が出向くともう一人増えて四人になっていた。
 浅木、正岡、仁藤、崎岡の四名だ。
 浅木と正岡は今は沖縄の別な組にいて、仁藤は大阪でパチンコ店の店員、崎岡はラーメン屋だった。
 崎岡は仁藤から聞いて来たそうだ。
 四人は千万組の座敷に集められ、俺を見て愛想笑いをした。

 「よく来てくれたな」
 「いや、あの、10億円……」
 「やるわけねぇだろ?」
 「「「「……」」」」

 流石のアホの連中も、自分たちが騙されたことには気付いた。
 俺は四人に暗殺者養成所のことを聞いた。
 「蛇の巣」と呼ばれたその場所で、合計100人近い子どもたちが攫われて教育されていたそうだ。
 四人の話を総合すると、最初は取引のあったロシアン・マフィアからの申し出だったそうだ。
 北海道のヤクザはロシアン・マフィアとの繋がりがあることが多い。
 幼い頃から戦闘訓練を施し、一流の兵隊を育てる計画を持ち込まれたのだ。
 一流のピアニストは3歳までに始めないと、一流にはなれないと言われている。
 全ての天才は英才教育の賜物であり、兵士に関しても同じことをやろうとしたのだろう。
 紅砂会は訓練所を提供することで、ロシアン・マフィアとの繋がりを強化した。
 だが、あまりにも本格的な訓練とその後の活動場所から、恐らくはロシア政府に関わる組織だったのではないかと浅木が言っていた。

 「俺らの知ってるマフィアにしては、戦闘訓練がやけに本格的でした。ガキを見つけて攫ってくるのもあいつらで、俺らはただ土地を貸してただけで」
 「お前らも養成所の人間を使ったのかよ?」
 「数度だけ。でも、俺らだってあんな化け物を使わなきゃならないことなんて滅多にありませんでしたよ」
 「そうだろうな」

 最初のうちは強力な戦力を得て全国制覇も夢ではないと思っていたようだが、すぐに自分たちに関わらない組織であることは悟ったようだ。
 何度かは紅砂会のために動いたが、それだけだった。

 「ばかでかい女が引き連れた奴らが突然襲って来て。組の本部も、「蛇の巣」も壊滅です。組員は全員殺され、「蛇の巣」は信じられない程の爆弾で吹き飛ばされました。奇跡的に生きてた奴らもロケット砲まで使われて、誰も生き残ってません」
 「お前らはどうして助かったんだ?」
 「俺らは偶然離れた場所にいましたんで。俺たちは沖縄の「東征会」に。当時は「紅砂会」と手を組む段取りがありまして、その交渉に行ってました。俺と正岡はそのまま「東征会」に世話になったままです」

 どうやら「東征会」が浅木たちを匿ってやったらしい。
 そこまでは綺羅々たちも気付いていなかったのだろう。

 「襲われる前に「蛇の巣」から、10人のガキがもう外に出てました。詳しいことは知りませんが、今も生きているかも。とんでもねぇ連中でしたからね。残りはあのでかい女たちに殺されたでしょうよ。崎岡が丁度山の上にいましてね。全部見てやした。こいつ料理が趣味でして、山菜を取りに山に入ってたんでさぁ。だから助かった。すぐに沖縄の俺たちのとこへ来て、何とか助かった。もう俺らはロシアン・マフィアともさっぱり関わってません」
 「なるほどな」

 嘘は言っていないようだ。

 「「蛇の巣」から出た奴で、誰か覚えているのはいるか?」
 「チャカにナイフを付けた奴がいました。一度だけ、そいつに山王会の兵隊を襲わせました。俺が案内したんですが、物スゲェ奴でしたぜ。80人もいた兵隊がほとんどチャカを撃つ間も無く全滅です。俺らのためにあいつらが動いたのは、その他に幾度もありません」
 「ほう」
 「見えなくなるんですよ! ほんとですぜ。兵隊の中を泳ぐように消えて、ものの数分でした。全員頭を撃たれるか首を斬られておっ死にました。夢でも見てるようで」
 「お前、いいこと言ったぁ!」
 「へ?」

 俺は四人に家で余ってるレッドダイヤモンドの欠片をやった。
 浅木が知っていたのは、まさしく今回俺たちを狙っている奴だ。
 ナイフを付けたガンなどを使う奴は滅多にいない。
 やはり「蛇の巣」の奴だったか。

 「上手く捌けば10億以上になる。じゃあ、帰っていいぞ」
 「はい?」

 ヤクザがレッドダイヤモンドなぞ知らないだろうが。
 まあ、後は勝手にやればいい。

 「千両、ハーを斬ったのは、多分そいつだな」
 「そうですか。じゃあ、探します」
 「いや、多分今はロシアン・マフィアの代わりに「ボルーチバロータ」が仕切ってる。探すことは出来ないだろうよ」
 「じゃあ、石神さん、どうするんで?」
 「また襲ってくるだろう。そこを叩くしかねぇ」
 「はい」
 「お前らも狙われるかもしれん。注意しろ」
 「はい!」

 浅木たちは貴重な情報をくれた。
 地獄のアフガン帰りの兵隊から仕込まれた暗殺者。
 俺はパラミリ流の奴だと分かり、アラスカからあいつを呼んだ。

 しかし敵は思いも寄らない所を襲った。
 俺の子どもたちの中で、最も戦闘力の低い奴。
 しかし俺たちの中で、最も防御力の高い奴。




 蛇は大阪へ飛んでいた。
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