富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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夏の匂い Ⅷ

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 デパートの駐車場で襲われたことを、僕はすぐにタカさんに連絡した。

 「今、阪急デパートの地下駐車場で襲撃です! あの暗殺者だと思います!」
 「やっぱそっちに行ったかぁ」

 タカさんはそれほど驚いてはいない。
 敵のことを洞察していたのだろう。
 流石はタカさんだ。

 「もうちょっとこっちで粘るかと思ってたんだけどよ。分かった、じゃあそっちに行かせるわ」
 「え、誰ですか?」
 「ソニアだ。「ガンスリンガー」だよ。パラミリ仕込みのガンマンなら、丁度いいだろう?」
 「そういうもんですか?」
 「じゃあ、すぐに行かせるからな」
 「はい」

 大人しく電話を切った。
 よくは分かっていなかったのだけど、こういう時のタカさんには、あんまり質問してはいけない。
 タカさんは石神家で「俺に何も教えてくれない」とよく言っていたけど、自分もそんなところがあることに気付いているだろうか。
 これはもう「血」だとしか言いようが無い。
 まあ、普段は丁寧に説明してくれることも多いのだが、時々それが通じなくなる。
 なんだろ?
 でも、とにかく「ガンスリンガー」の代表のソニアさんが来てくれるらしい。
 あの気配を消す奴はソニアさんが相手をしてくれるようだ。
 僕は運転席に座ってふと思った。

 「あ、そうだ」
 「どうしたんですか、皇紀さん?」
 「ソニアさんって、何が好物なんだろう?」
 「え?」
 「こっちに来てくれるらしいんだけど、出来れば美味しいものを食べてもらいたいし」
 「フフフ」

 野薔薇ちゃんが笑った。
 車の中で俊雄君が心配そうにこっちを見ている。
 ついさっきまで凄まじい攻撃があったのだから、仕方がない。
 俊雄君を安心させるために、僕も笑顔を作って言った。

 「いろいろ作るから、いいか!」
 「そうですね!」

 僕が笑ってエンジンをかけると、俊雄君も笑顔になった。
 野薔薇ちゃんが僕を見て微笑んでいる。

 「じゃあ、早く帰ろうか」
 「はい!」

 すぐに警察が来たけど、僕が「虎」の軍の人間だと示すとすぐに解放してくれた。
 消防車がすぐに消火活動に入った。
 何台かの車両が燃えたが、野薔薇ちゃんが既に炎を吸い込み、もう火の手は無いように見える。
 駐車場をゆっくりと出た。
 油断することなく進んだが、攻撃は無かった。




 僕たちが家に戻ると、既にソニアさんが到着していた。
 あ、いけない!
 ソニアさんは風花さんと話していた。
 風花さんにソニアさんが来ることを電話をしていなかったことに気付いた。

 「あ、皇紀さん!」
 「ごめんね! さっきタカさんから言われて、ソニアさんがこっちへ来ることを連絡し忘れていたよ!」
 「まあ、でも今お話を聞きましたから。《オオサカ》もちゃんと識別してましたし」

 《オオサカ》は僕たちの家に備わっている超量子コンピューターだ。
 大阪一体の防衛システムを管理している。

 「本当にごめん。ソニアさん、申し訳ありませんでした」
 「いいえ、私が急いで来てしまったものですから。ちゃんと私が連絡すべきでした」
 「それは! タカさんから僕が聞いていました! 本当にごめんなさい」
 
 ソニアさんは笑って許してくれた。
 ソニアさんも「飛行:鷹閃花」を使えるようだ。
 今の「虎」の軍の精鋭はみんな使えるようになっている。
 僕は「ガンスリンガー」の方々のことはよく知らないけど、精鋭部隊の一つになっていることは聞いていた。
 風花さんが中へ入るように言ってくれ、車の荷物は俊雄君と何人か先に来ている「絶怒」の人たちに任せた。

 風花さんが紅茶を淹れてくれ、5階の作戦本部で話をした。

 「タカさんから聞いていると思いますが、子どもの頃からパラミリ上がりの人間に鍛え上げられた暗殺者集団がいるそうです」
 「ええ、知っています。多分、私たちと同様に幼い頃から訓練を受けることで常人には到達できない技の域に行きます。私たちは主に銃器ですが、敵はもうちょっと範囲が広いようですね」
 「はい、ナイフも相当のようです。チェコのCz75の改造銃のようで、銃口の下に長いナイフが付いていると。それにトリガーガードにも刃があって、それで接近戦も戦えるようです」
 「アフガンでソ連軍の特殊部隊員にそのような技を持った奴がいたそうです。その男は中国で似たような体系の格闘技を習得し、自身で発展させたのだと」

 アフガン紛争と呼ばれる1979年の旧ソ連の軍事介入から始まったアフガニスタンを巡るソ連、欧米、中国、イスラム諸国との四巴えの戦争。
 さながら世界戦争の様相を呈し、各国の軍隊が戦い合った。
 スパイや特殊部隊も活躍し、凄まじい戦闘が繰り広げられたそうだ。

 「アフガンでは化け物のように強い人間が幾人も報告されています。各国の諜報員が集結したことからも、その情報の確度が伺えます。その中に、両手にソードガンを持った男のことも記録にありました」
 「そうですか、流石は「ガンドッグ」ですね」
 「ええ、その男がサイキックである可能性も検討されていましたので」
 「え、超能力者ですか!」
 「戦闘能力も確かに高いのですが、何よりもその男と対峙した兵士たちが「目の前で消える」ということを申しておりましたので。結局詳細は分からずに行方も掴めなくなりました。まさか日本にいたとは」
 「なるほど」

 ソニアさんが笑っていた。

 「若き父がアフガンまで出向いたそうです。一度だけその男らしきソ連の特殊部隊員と対峙したようですが、逃げられました」
 「そうだったんですね」
 「父の銃技も届かなかったようです。姿も気配も消えれば何も出来ません」
 「でも「ガンスリンガー」の皆さんも気配を消すことは得意ですよね?」
 「ええ、それでもその男はそれ以上に。もしも本格的に戦っていれば、父も危うかったかもしれません」
 「……」

 ソニアさんの笑顔が変わった。

 「大丈夫です、私はやりますよ」
 「はい」
 「セイントに鍛えられました。接近戦も学びましたし。お任せ下さい」
 「はい、宜しくお願いします!」

 ソニアさんたちは今もアラスカで訓練をしているらしい。
 「花岡」も習得し、「ガンスリンガー」は全員上級ソルジャーとなっているそうだ。
 今後は聖さんの「セイントPMC」に組み込まれるようで、そのことをソニアさんは喜んでいた。
 「セイントPMC」は西安での「刃」戦で精鋭の多くが戦死した。
 僕を護ってみんな死んだのだ、僕を逃がす時間を稼ぐために!
 聖さんもその時に瀕死の重傷を負った。
 聖さんの部下の方々33名が戦死し、聖さんは何とか復活した。

 意識を取り戻した時に僕がお見舞いに行くと、恥ずかしそうな顔をしていた。
 そして僕が部下の方々を死なせてしまったことを謝ると、厳しい顔で聖さんが言った。

 「俺たちはよ、別に御大層な信念とか愛国心とかじゃねぇんだ。金のためだよ。自分の命に値段を付けて、はした金でおっ死んでいいんだ。本当に安い金でよ、それがもらえりゃいいよってバカ連中よ」
 「聖さん……」
 「だけどよ、その金を誰から貰うかは自分で選んでる。みんな納得してんだ。お前は気にするな」
 「みなさん、聖さんだからですよね」

 聖さんが僕を見た。

 「そうだぁ! あいつら、俺のとこに来て死んだんだぁ! 絶対に忘れねぇぞ!」
 「……」

 叫んだ聖さんが咳き込み、バイタルの急変で看護師の人たちが走って来た。
 聖さんはもう話すことが出来ず、僕は頭を下げて病室を出た。

 「ガンドッグ」がそのまま「セイントPMC」に編入され、また他の傭兵派遣会社からの希望者をスージーさんが選別していっている。
 その一方で元からいた人たちもアラスカで厳しい訓練を乗り越えて強くなっている。
 聖さんの会社の特徴は、聖さんが言ったような「金で動く連中」ではないことだ。
 もちろん中にはそういう人たちもいるのだろうけど。
 でも、僕が知っている多くの人たちは聖さんに心酔し、聖さんのために戦おうとする人たちだった。
 だからこそ、西安では聖さんが撤退するように言ったにも拘らず、僕と聖さんを逃がすために自ら犠牲になったのだ。




 僕もあの人たちのことを忘れない。
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