富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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道間家 緊急防衛戦 XⅠ

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 自分の迂闊さが悔やまれる。
 まさか「業」にこうまでしてやられるとは。
 あやつが「ゲート」で空間を繋げる能力を持っていることは知っていたが、まさか異界に繋げることも出来るとは考えていなかった。
 だが、奴の妖魔を置いているのは異界だ。
 そことあの次元へ「ゲート」を繋いで妖魔を送り込んでいたのだ。
 だから反対に、あの次元を異界に繋げて送り出すことも可能だと、どうして私は考えなかったのか。
 完全に私の迂闊さだった。

 「天狼様たちは無事だろうか」

 妖魔は全て滅ぼしたはずだ。
 だが、まだ人間の反応があった。
 100ほどか。
 そのうちの50は《デモノイド》だろう。
 妖魔とは時間差で「ゲート」を潜っていたようなので、私の攻撃は届いていない。
 私の最期の攻撃で、道間家の護衛獣たちも動けないでいるだろう。
 天狼様ではまだお力を発揮できない。
 無理をして技を撃てば、天狼様も御無事ではいられない。
 そのことは天狼様もお分かりのはずだが。

 すぐにでも戻りたいが、ここがどこなのかも分からない。
 紫色を帯びた曇天に、岩が剥きだした荒野のような世界。
 あの世界に似ているのは、「業」の認識がまだあの世界の範疇にあるためだろう。
 あやつはまだ「人間」に近いのだ。
 そうでなければ、このような景色の世界ではないはずだ。
 だが、ここからあの世界に戻るのは難しいだろう。
 次元の壁を破りながら、無限に世界を渡っていくしかない。
 私の力でも、どれほどの時間を要するか。
 それに、中には私でもてこずる強い者がいる世界もある。

 地平線の彼方から、何かが来た。
 私がそれに気付くと、向こうも私に気付き、一瞬で目の前に来た。
 2キロメートルに及ぶ巨大な壁のような姿だ。
 壁は太い枝のようなもので編まれている。
 私はその者を知っていた。
 
 「ハイファか」
 「……」

 以前に相まみえた下級神だった。

 「「業」がお前を殺すように我に頼んで来た」
 「嘘を言うな、ククノウよ。お前は「業」に傅くしかないのだろう。「業」の力に怯え、唯々諾々と命に従うだけの小者よ」
 「なんだと!」
 「違うとでもいうのか」

 ククノウが全身を怒りで震わせた。
 周囲の岩が崩れ、大地が鳴動する。

 「お前こそ、かつて我らを恐れ、独り逃げ出したではないか!」
 「そうではない。私はお前たちから人間を守るために身を潜めたのだ」
 「お前こそ嘘を言うな! アザゼルが倒れた時、真っ先に逃げ出したのがお前だろう! だから我らはすぐにお前たちを斃した。アザゼルとお前がいなければ何のこともなかったからな」
 「……」
 「どうした、また逃げるのか?」
 
 ククノウを一瞬で消した。

 「アザゼル……」

 懐かしい名を思い出した。
 あれがまた同じ世界に降臨したことは分かっていた。
 だが私も、彼も互いに会おうとはしなかった。
 神獣の王によって再び我らの縁は繋がったのだが、互いを求めることも憎み合うことも無かった。
 アザゼルの気配を知った時、私の魂は震えた。
 だが、私自らアザゼルから離れたのだ。
 あの時の戦いは、あそこで終わるわけには行かなかったのだ。
 遥かな未来に私は希望を見出し、その者が現れるまで待つしか無かった。
 人間の中に現われる奇跡の血筋。
 私は僅かな光を紡ぐために、長い時を見守るしか無かった。

 《スピカ=麗しの星が現われなば、シリウスが顕現す》

 その未来を見た私は、アザゼルが斃された瞬間に、あの世界に飛んだ。
 そして膨大な枝分かれを操りながら、その顕現を待ち望んだ。
 すべては人類を憎む神々を亡ぼすために。
 アザゼルと誓ったことを為すために。
 そしてシリウスは生まれた。
 私とても予想しなかった、神獣の王の血を引きながら。
 私は最大の歓喜に身を震わせる中で、そういうことだったのかと理解した。
 まだ「業」も神々も気付いていない。
 私にも分かっていなかった。
 シリウスは神獣の王と共に神々を亡ぼすのだ。
 そしてこれも私が予見していなかったことだが、「業」は今や下級の神々を超えた力を有することになった。
 この時に、シリウスが生まれることとなったのは、上級神の采配だろう。
 だから私にも見えていなかったのだ。
 
 まだ、シリウス=天狼様には私の加護が必要だ。
 それがこのようなこととなってしまった。
 私があの時、アザゼルを見捨てたことの報いか。
 これから世界を渡るにしても、到底間に合わぬ。
 もう私に出来ることは何も無い。
 さて、それではせめて、どこかの次元で巡り合うククノウのような下級神でも狩ってゆくか。
 少しでも神獣の王と天狼様のご負担を減らしておこうか。
 その時、目の前の空間が歪んだ。
 何者かが次元を超えて来たのだ。

 「やっと見つけた」

 すぐに誰が来たのかを悟った。

 「アザゼル……」
 「探したぞ」
 「お前、本当に探したというのか! どこの世界にいるとも知れぬこの私を!」
 「そうだ。神獣の王の命だったからな」
 「一体幾つの世界を渡った……」
 「忘れた。阿僧祇(あそうぎ)は超えたか」
 「それほどまでに……」

 アザゼルといえども、無数にある次元世界を渡って私を探すのは、相当な困難があっただろう。
 しかしアザゼルはそのことについて何も言わない。

 「久しいな、ハイファ」
 「アザゼル、私は……」
 「言わずとも良い。人間を救うためにお前が動いたことは分かっている」
 「しかし、我はお前を見捨てた」
 「良い。我らの戦いは遙かな時を経て勝利を収めるためのものだったのだ。あの時はお前だけがそれを分かっていた」
 「だが、お前は! あの仲間たちは!」
 「良いのだ。我は滅ぼされ、また生まれ変わった。それが必要なことだったのだ。お前の決意と共にな。我は以前よりも強く甦り、お前もまた途轍もない者を生み出した」
 「アザゼル……」
 「ゆくぞ」

 アザゼルが私に手を伸ばした。
 私はそれを握り締めた。
 ああ、また我らは共に戦えるのか。
 私は最大の歓喜を感じた。 


 
 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 

 俺がいた三日目。
 庭でまだいる蓑原たちと鍛錬していると、ハイファが現われた。

 「神獣の王、只今戻りました」
 「おう」

 ハイファは俺の前にひざまずいていた。
 顔は深く伏せていて、表情は見えない。

 「不甲斐なく敵の罠にはまってしまい、申し訳ありません」
 「しょうがねぇよ。まさかあんな方法とは誰も想像もしねぇからな」
 「もう二度とあのような無様は。石神様のお陰で、道間家は護られました」
 「俺じゃねぇよ、全員で必死だった。大体がお前のお陰で助かったようなものだしな」
 「……」

 ハイファは顔を伏せたままだった。
 しかし仄かに全身が震えている。
 何を考えているか分からない奴だったが、今は本当に恥じ入っているらしいことが俺には分かった。

 「ところでよ、宇羅は麗星のことをまるで覚えていないようだったそうだが」
 「はい、わたくしがそのように。あれはもう道間家の者ではございいませぬ故」
 「お前のことも忘れていたそうだな」
 「当然でございます」
 「全てお前がやったのか」
 「はい。麗星だけは何としても護らねばならなかったのです」
 「そうか」

 俺は聞かなかったが、麗星以外の全てが死ぬことも必要だったのではないだろうか。
 宇羅が「業」を連れて道間家の血を根絶やしにしようとした時、ハイファは何もしなかったのだ。
 ハイファは人間ではない思考をする。
 もう一つ、ハイファに尋ねた。

 「アザゼルに会ったか?」
 「はい、阿僧祇の世界を渡って私を探して下さいました。お陰でやっと戻ることが出来ました、あの者がいなければ、あと数百年はかかったことでしょう。それも全て石神様のお陰でございます」
 「そうか。懐かしかったか?」
 「……」

 ハイファは答えなかった。
 否定では無く沈黙だ。
 俺にはそれで十分だった。

 「では今後も頼むぞ」
 「はい、必ずや」

 ハイファは消えた。
 恐らく、ハイファはアザゼルの仲間だったに違いない。
 アザゼルと雰囲気が似ているのだ。
 それだけのことだったが、あの雰囲気を持つ者は少ない。
 何があってアザゼルと袂を分かったかは知らない。
 今の関係も俺にはよく分からない。
 それぞれに強く思う所があったのだ。

 とにかく、道間家は護られた。
 今後はハイファがいれば大丈夫だろう。
 俺は麗星たちと昼食を摂り、家に戻ろうとした。
 天狼が立ち上がり、俺の手を握った。

 「父上、次こそは私が護ります」
 
 天狼を抱き上げた、

 「お前はまだ身体を作る時期だ。焦る必要はない。だがお前は俺の息子だ。お前が自分の命など考えずに何かを為す人間なのも分かる。だがな、絶対に忘れるな。俺の周りには同じ思考をする人間が大勢いる。いいな、忘れるなよ?」
 「はい! 父上、はい!」

 天狼が泣いた。
 まだ幼い子どもだが、天狼は既に人間として大事なことを分かっていた。
 奈々も俺の腰に抱き着いて来た。
 天狼を右手で抱え、奈々も左手で抱き上げた。

 「奈々、お前もな。お前たちを本当に愛している。そのことも忘れるな。麗星も俺も、お前たちを愛している」
 「「はい!」」
 「夜羽を頼むぞ。まあ、そのことは全然心配してねぇけどな」
 「はい、必ず!」
 「大事にします!」
 「おう!」

 俺は笑って迎えに来た「タイガーファング」へ乗り込んだ。
 スクリーンに小さくなる道間家が映り、離れた場所の「道間城」も見えた。
 俺も絶対にここを護る。
 そう誓った。
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