【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
4 / 276
第一部

4 エレナの住む世界

しおりを挟む
 嵐のようだったわ……

「早くエレナお嬢様もエリオット坊ちゃまと一緒に、王立学園アカデミーに通えるようになるといいですね」

 突然の殿下の来訪に慌てていたメリーも、平常心を取り戻したのか、いつも通りの明るい声でわたしに話しかける。

「えぇ。そうね。あまり長く休んでしまうと勉強が追いつかなくなるわ。家庭教師でも頼まないと……」
「お勉強も大切ですが、早く元気になってくださいませ」
「ありがとうメリー」
「それはそうとエレナお嬢様。今朝は何か召し上がれそうですか」

 わたしの身体をそっと起こしながらメリーは尋ねた。

「動くのはまだ身体が痛くて辛いから、ここで軽くつまめるものがいいわ」
「ベッドで食べる軽い物ですね。フルーツはいかがですか?」
「そうね。果物なら食べられそう。お願い出来る?」
「えぇえぇ。もちろんです。すぐにご用意いたします。お嬢様。お背中にクッション失礼します」

 そう言うとメリーは手際良くわたしの背中にクッションをいくつも重ねて置く。
 身体を起こした姿勢をキープできるようにすると、厨房に慌てて向かっていった。

 一人になった部屋で思い出す。

 苺にチェリーに桃にメロン……
 果物の名前は元の世界と同じだわ。

 それにベッドやクッションといった物の名前も同じ。
 この世界独自の名詞が付いている訳じゃない。
 うっすらとしたエレナの記憶を遡る。

 花の名前も宝石の名前も一緒。

 何か異なる物……貨幣は……円でもドルでもなかった気がする。
 でも、お金で物を買ういう概念は一緒。
 基本的に元の世界と同一の名詞。
 名詞が異なるとボロが出るからありがたい設定だわ。

 そう呟いてクッションに身を委ね朝食が届くのを待った。



 朝食を終えると、お医者様がいらっしゃるのを待つ間にメリーが髪の毛を整えてくれる。

「毎日領地からお医者様をお呼びして治療していただいてたんですよ。しっかり治癒していただいていますから、エレナお嬢様には傷一つ残っておりません」
「やっぱり、わたしは怪我をしていたの?」
「いえいえ。心配無用です、身体を打ち付けたので青あざができてしまったのですが、治療でどこがあざだったのか跡がわからないくらい、すっかりキレイにしていただいていますからね。きっと今日の治療で痛みも治りますよ」

 階段から落ちたにしては痛みはあっても、傷やあざがあった様子は見受けられないのが不思議だった。

 話しながらもメリーの手の動きには一切の迷いがない。
 髪の毛を手際よくすくい取ってまとめていく。

「お医者様に診ていただくので髪の毛は軽くまとめさせていただきました。お疲れになって横になられてもご負担はないようにしましたが、いかがでしょう?」

 わたしの髪の毛を整えたメリーから手鏡を渡されて、確認するように促される。

 ──⁉︎

 手鏡には、イケメンなエリオットお兄様を少し幼く愛らしくした美少女が映っている。
 慌てて手鏡を伏せ、深呼吸してからもう一度手鏡の中を覗く。

 誰? この愛くるしい少女。

「エレナお嬢様?」

 心配そうに覗き込むメリーの顔が美少女の後ろに映りこむ。
 いつもの心配症なメリーの顔だ。
 鏡がおかしい訳じゃない。

 この美少女は、わたし?

 ……そうよね。
 兄妹なんだからお兄様に似ていて当然だわ。
 もう一度冷静になって鏡を見るとなんだか見慣れているような気がする。

 転生すると顔も変わるのね。
 恵玲奈前世の顔でお嬢様っていうのは確かに無理がある。
 残念だけど、わたしは平面的な日本人顔をより平面にした顔をしていて、いわゆるモブ顔……
 きっとこの西洋風の世界だと逆にモブとしては浮いてしまうレベルの顔だもの。

 落ち着いてエレナの顔を見る。

 サイドに向けて編み込みをした髪の毛は柔らかそうな栗色、キラキラしたエメラルドのような緑色の瞳。
 陶器のような滑らかな肌に、口紅はつけていないはずなのに紅色に艶めくぽってりとして愛らしい唇。

 少し顔が疲れて見えるのは気を失っていたからかしら。

 殿下とお似合いの美女というには、ちょっと幼くて親しみやすい印象はあるけれど、でも守ってあげたくなる様な可愛いらしい顔をした美少女だ。

 自分の顔をじっくり観察していると、再びメリーに声をかけられる。

「エレナお嬢様どうされましたか?」
「ううん。顔色がいつもより悪い気がしたけど、大丈夫よ。髪型も、とても可愛いわ。ありがとう」

 自分に見惚れていたなんてバツが悪くなり、にっこりと微笑むとメリーが安心したのが伝わる。

「もうすぐお医者様がいらっしゃいますよ」

 そう言われたわたしは慌ててメリーに手鏡を返した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...