【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
22 / 276
第一部

22 エレナ、恋敵と対面する

しおりを挟む
「エリオット様。エレナ様。お待ちしておりました。どうぞ」

 ドアの前で待っていた殿下の侍従であるウェードがわたしたちに声をかけた。

 執務室に通されると、殿下がデスクに座って書類を読んでいるのが見える。
 殿下の背後にはランス様が控えている。

 そして、そのデスクの手前にある応接セットのソファに座る人影が、優雅に紅茶を飲みながら親しげに殿下とランス様に話しかけている。

 誰?

 キラキラ輝くシルバーブロンドが窓辺から入る光を拡散させる。

「やぁ。コーデリア様。ごきげんよう」

 お兄様の声かけにゆっくりとこちらを向いた息を呑むほど綺麗な女性が、コーデリア・シーワード公爵令嬢だった。

 真っ白な肌に腰の下まで伸びた緩やかなウェーブがかった豊かな銀色の髪の毛。
 水色の瞳を縁取るまつ毛もフッサフサの銀色で、透明感があって、ガラス彫刻で描かれた美人画みたい。

 ほんとにとにかく美女。語彙力なんていらないくらい美女。

 コーデリア嬢の後釜にエレナは……残念ながら見劣りする。
 そりゃ殿下もエレナを見るたびに、眉間摘んで嫌そうにするのもわかるよ。

「あら、ごきげんよう。エリオット様。この人ったら、急に一人で来るように呼びつけたのに理由もおっしゃらずにお仕事されてるものだから、わたくしも困り果てておりましたの」

 親しげな「この人」呼びにドキッとする。

 こちらの動揺なんて気にしないかのように、ふふっと笑う。
 鈴が転がるようなってこういう声のことなんだろうな。
 とても耳ざわりがいい。

 コーデリア様の水色の瞳と目が合うと、にっこり微笑まれる。
 圧倒的な美しい笑顔に、女のわたしでもドキドキする。

 わたしのことを紹介していただかないと。お兄様に視線を送る。

「コーデリア様。紹介いたしますね……」
「コーデリア嬢。いまエリオットの隣にいるのが私の婚約者のエレナ・トワイン侯爵令嬢だ。そしてエレナ嬢。こちらはコーデリア・シーワード公爵令嬢だ」

 殿下はお兄様を遮り、わたしたちを紹介する。

「先日コーデリア嬢からエレナ嬢を紹介してほしいと相談を受け、またエレナ嬢からもコーデリア嬢を紹介してほしいと相談を受けた。早いうちに人目のつかないところで果たした方がいいと判断して呼び立てした。急ですまなかった」

 殿下は、一切すまないなんて思ってない事務的な口調で説明する。
 わたしとお兄様にソファに座るように促し、デスクの上に置いてある膨大な書類に目を落とした。
 いつも微笑みを絶やさない殿下を見慣れているからか、事務的な殿下の態度に背筋がヒヤっとする。

 でも、殿下のおっしゃるように、殿下の元最有力婚約者候補と現婚約者が対峙しているなんてネタ、格好の餌食だわ。
 自分の目の届く範囲で速やかかつ穏便に終わらせたいっていう事よね。

 ソファにお兄様と座るとウェードがお茶の給仕をしてくれる。
 それぞれにお茶とお菓子を準備してもらってる間の沈黙が重い。

 殿下の書類をめくる音や、食器が机に置かれる音がよく聞こえる。

 殿下にコーデリア様の事を紹介してほしいと言ったけれど、いざ対面すると何を話していいのか分からない。
 どう切り出したら自然かしら……

「……いいお天気ですね。さっき中庭に行ったら風が気持ち良かったなぁ。新緑の時期は本当に気持ちがいいですよね」

 巻き添いを食ってこの場に居合わせるはめになったお兄様が、沈黙に耐えきれずに無難な話をコーデリア様に振る。
 
「あら。わざわざ天気なんてたわいもない話をしにいらしたの? わたくしを紹介して欲しいって事は、何かわたくしに話をしたい事があるのでしょう? お伺いしましてよ」

 そう言って髪の毛をかきあげると光が乱反射してキラキラと眩しい。
 ゆっくりとわたしに視線を合わせて微笑みをたたえる。

 殿下の言い方だと、コーデリア様もわたしに会って話したがっていたような感じだったのに、主導権はいつの間にかコーデリア様が握っている。
 取り繕っても敵う相手じゃない。

「はじめまして。コーデリア様。差し出がましい話かと存じあげますが──」


 ***


 わたしは必死にコーデリア様に、殿下もわたしもシーワード公爵領の現況に心を痛めている事、殿下の事を信じて頼っていただきたい事、そして殿下を頼るときに、わたしにはなんの遠慮もいらない事をできる限り自分の言葉でお伝えしようと熱が入る。

 捲し立てるようにひとしきり話終わってコーデリア様を見ると、顎に人差し指を当てて小首を傾げていた。

 あれ……? 伝わってない?

「エレナ様のお話はおしまいかしら? ならわたくしからもお話してよろしくて?」

 美しいコーデリア様にじっと見つめられたら頷くしかできなかった。

「わたくしの事を姉の様に慕ってくれる子達がエレナ様にあまり良くない態度をとっているのは知っているの。エレナ様が気に病んでいらしたら申し訳ないと思っているのだけれど、いかがかしら?」
「いえ。コーデリア様がお気になさる様な事ではありませんので……」

 わたしのその言葉を聞いてコーデリア様はにっこり笑う。

「よかった。ではもうしばらく我慢なさっててね。わたくし、今はまだ殿下と婚約ができなかった悲劇の公爵令嬢でいる方が都合がいいものだから。では失礼しますわね」

 そう言ってコーデリア様は立ち上がり、ウェードに挨拶をして去っていった。

 周りを見ると、顔を手で覆って俯くお兄様、書類を読む手を止めて眉間を揉んでいる殿下と、ランス様が無表情で殿下を眺めていらっしゃった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

処理中です...